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その後ー4
それから一週間後。
北田の代理のご褒美?として休暇を貰った日は偶然にも松浦の休みと重なった。
電話で休みの日を伝えた時の、松浦の浮かれた声に双海は思わず笑った。
それでもどこか心に黒いシミがジワジワするのが消えない。
4度目の逢瀬は松浦の部屋だ。
どこか出かけるか?と松浦に聞かれたが、泊まって一日中ゆっくりしようと双海が提案した。
勤務が終わって、松浦の部屋を付帯が訪れる。
以前から観ようと言っていた洋画を見ながら、松浦の淹れてくれたコーヒーを口にする。
少し甘いコーヒー。
「松浦さん、甘党?」
「え?甘いかなあ…」
角砂糖2つだけど、と言う松浦にそりゃ甘いわ…と、双海は笑う。
洋画は双海がリクエストしたアクション映画。
テレビ画面には大掛かりなアクションシーンが映し出されている。
観たかったはずの映画と、逢いたかったはずの松浦がそこに居て幸せなはずなのに双海のこころのシミは消えない。
そんな双海の様子を、松浦は目ざとく感じ取って居た。
「何かあった?沈んでるように見えるけど」
顔を覗き込んで松浦は双海の頰を手で撫でる。
「…」
今声をかけられたら、泣きそうだ。
不意に、双海は顔を背ける。
「…先週、勤務中に交差点の信号待ちしてたら松浦さんを見かけたんだ」
「え、そうなの?」
「うん。多分同僚の人かな、女の人と一緒だったよ」
松浦は一瞬、考えてふと思い出した。
「あー、川崎さんかな。あの時は契約先に行ってたわ」
「なんだか、楽しそうに笑ってたよ」
顔を背けたまま、双海は続ける。
マグを持つ手が微かに震えている。
「ねえ、松浦さん。僕たちさ、お互い知らないままの方が良かったと思わない?」
双海のその言葉に、松浦は驚いて双海の顔を自分の方に向ける。
「何で、そんなこというんだよ!」
「だって逢えなくて不安しか感じられないんだ。あんな松浦さんを見たら、本当はもう僕に興味なくなってるんじゃないかとか。
前みたいに知らないまま顔を見てただけの方が幸せだったのかも」
双海の大きな目から涙が溢れる。
(こんなこと言うつもりなんかなかったのに)
松浦に嫌われたかもしれない。
「…ばっかだなあ」
罵倒される覚悟でいた双海の頭に、松浦はポンと手を置いた。
そしてその手で髪をぐしゃぐしゃにする。
「俺は今の方が断然幸せだよ」
頬を伝う双海の涙を、舌で舐める松浦。
「逢うたびに色々お前のこと、知っていけることが嬉しいんだ。例えばさ、アクション映画が好きだとか私服は古着が多いとか。犬派だとか。あ、あと実はエロいとこも」
松浦は双海のおでこをデコピンする。
「こんなに寂しがりやだってことも、今知って俺は嬉しいよ。お前はどう?」
「…ッ」
真っ赤になりながら、双海は思わず微笑んだ。
そして松浦にキスをする。
「僕も、嬉しい。ありがとう、松浦さん」
「もう松浦さんじゃなくていいからさ。名前で呼んでよ」
「それは恥ずかしくて…」
「エッチもした仲なのに!」
所詮身体だけが目的なのね、と松浦が泣きまねをして双海が大笑いする。
バスの中で会うだけなら、こんな幸せは感じられなかった。
こうして笑いあえることもまた幸せなんだ。
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