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第20話 絆
血は受け継がれ…
繋がる
遥か彼方の時代から…
血は受け継がれ……
脈々と繋がり
受け継がれて行く
翌日の昼前に、弥勒夫妻と紫雲夫妻が、飛鳥井の家へ尋ねて来た
康太は、来るのを察知して駐車場に出ていた
榊原のアウディが納車されてから乗ってないから、今日はアウディで行く事になっていた
弥勒は免許を持たない
運転に向いてないからだ
だから紫雲が弥勒夫妻を乗せて来る
飛鳥井の駐車場の前で車を停めた紫雲は、車から降りた
「伊織が連れてってくれる
後を着いてこい。」
康太がアウディの助手席に乗り込むと、紫雲もプジョーに乗り込んだ
車は横浜の山下公園近くの病院へ向かって走り出した
康太のお気に入りのホテルを、通り過ぎ、緑に覆われたマンションみたいな建物の中へ入って行く。
そこは玲香の知り合いが経営している病院で、京香はそこの一室に出産まで過ごす事になっていた
駐車場に車を停め、車から降りると紫雲、弥勒夫妻も車から降りた
榊原は車から下り鍵のボタンを押してロックをすると、康太の腰を抱き歩き出した
大理石の敷き詰められたエントランスを潜り
面会フロントへ出向き面会を告げると、面会人の名前 住所、関係を書かされ、それを終えると、面会の許可を貰える
面会バッヂを貰うと、面会病棟のエレベーターに乗った
重厚な雰囲気の廊下を歩いて行く
そして、特別室の前で止まると、康太はノックをした
ドアを開けるとお腹のふっくらと出た京香がソファーに座っていた
ベッドの上にある名前のプレートには『峰岸京香』と入っていた
澄香と桃香は、首を傾げた
「京香、今日はお前の姉妹を連れて来てやった。」
康太は京香の横に行くと、優しくお腹を撫でた
「姉妹で逢うのは何年ぶりだ?」
康太が京香に尋ねた
「飛鳥井に嫁いで…5年は逢ってないな…」
康太は、そうか…と、言い京香の頬にキスした
榊原は、弥勒夫妻も紫雲夫妻も、ソファーに座るように促した
澄香は、康太にどうして京香は、峰岸なのか…問い掛けた
康太は「真壁は死に絶えた
もう真壁を名乗る人間はいねぇからだ。」と答えた
桃香は「どう言う事なの?」と康太へ問い質した
「真壁の父親は死んだ
真壁の母親も死んだ
借金を作るしか脳のない兄もこの世を去った
京香はな借金まみれよ真壁の家と
痴呆の母親と、末期癌の父親の面倒を見る為に、瑛兄と離婚した
その時に京香は我が子を亡くしている
京香は総てなくして、今、峰岸を名乗っている。」
康太の言葉に、澄香と桃香は唖然となった
澄香は「両親は死んだのか……?
兄も‥‥死んだと謂うのか?
それを京香が総て被って離婚したと言うのか?」と呟いた
桃香は「京香の子供も逝ったのか…何故…その様な惨いことが…」と嘆いた
「京香の子供は転生させた
それがオレのやった転生の義を唱える儀式だ。
真壁の父親は自分の寿命を縮めてオレの処へ琴音の魂を救ってくれと告げに来た
そして京香の苦労を想い……
母親を道ずれに、あの世に逝った
それが9月になる少し前の話だ。
京香は、両親を捨てて置けず、離婚して飛鳥井の家を出ている
飛鳥井の家の掟は厳しい…
飛鳥井を捨てて出た人間は二度と戻ってはならねぇからな
だから京香の存在をリセットした。」
弥勒も紫雲も…言葉をなくした
康太の背負うものは重い…
澄香と桃香は……京香の幸せを、奪ってしまった想いで胸が痛んだ
総てを京香に押し付けて…親が死んだのも知らなかったとは……
「京香の腹の子はオレの子だ
オレが認知して法律上も父親になる
飛鳥井の継ぎの真贋だ。」
康太は優しい瞳で、京香を見た
「澄香、桃香、京香と話をしろ
産まれるまで、もう面会は許されない
当分逢えはしないのだから…」
康太は京香の隣の席を譲った
澄香と桃香は京香の側へ行き、話を始めた
康太は榊原の隣に座ると、指を絡め見詰めあっていた
今の康太には伴侶と京香以外は興味がないかのようだ
弥勒は康太の横に行くと
「真壁の兄は死んだのか?」と問い掛けた
「そう言わなかったか?
莫大な借金を作り、家も会社も取り上げられ死んだ
京香は、そんな家の為に飛鳥井を出た
そして借金を返す為に……
好きでもない金持ちの男に抱かれるつもりだった…
そこをオレが拾った
でないと京香は死ぬ理由が出来たと…笑って逝くだろうから…な」
「墓は?」
「真壁の菩提寺に入れた
琴音は観音像に入れ、飛鳥井の菩提寺にある
桃香は見てるんじゃねぇか?
観音像を。
あの中に琴音が入ってる。」
桃香は、本殿の横にある観音像を思い浮かべた
まさかあの中に……琴音がいるなんて…
唖然としていた
「琴音は次はオレの所へ還す為に転生させた。」
澄香は「京香は幸せだな。康太にこれ程愛されて…」と、呟いた
康太は……ゾーッとする程でした冷たい瞳で澄香を見詰め嗤った
「飛鳥井の為だからな。
飛鳥井の家の為でなかったら、オレは動かない。
未来を違えるなら、オレは兄でも討てる。
それがオレが飛鳥井にいる存在理由だからな。」
飛鳥井源右衛門に育てられたのだから…甘くはない
油断したら喉仏を噛みきってトドメを刺すだろう……
「だが澄香、お前等は大切な人間だ
幸せにしたい
だからオレは実を投げ出してやったろ?」
澄香は頷いた
「桃香にも、オレは同じ事をしてやる
女の幸せを掴め
そして子を成せ
お前等3姉妹は誰よりも幸せになれ。
適材適所配置するのがオレの役目
違える事は許されねぇんだ!
違えれば未来が歪む
歪んだ未来にオレの居場所はない
即ち飛鳥井の終焉だ
そうならない為にオレは動いている!」
康太の言葉に皆押し黙り何も謂う事が出来ずにいた
康太は更に言葉を続けた
「京香が子を産んだら、オレは京香の子供を取り上げる
未来永劫親とは名乗らせない
それが飛鳥井を出た…京香への罰だ
それを飲むなら飛鳥井へ戻してやる…と、言った
京香はそれを飲んだ
京香の行く道は蕀の道だ
澄香、桃香、どうか京香を助けてやってくれ
それが真壁3姉妹の定めだ
互いを助け合え、そして支え合え!」
澄香は静かに泣いていた
桃香は京香を抱き締めていた
弥勒は言葉を無くし、紫雲は天を仰いだ
そして弥勒は静かに康太に問い掛けた
「それが、定めなのか……」と……。
「それが定め
オレは友にも辛い罪を下した
瑛兄にも……
オレを憎んで生きて行けと…言った
オレを憎んでオレを恨んでくれ……と。」
康太が言うと弥勒は
「そんな事!出来る筈ねぇだろ!」
と叫んだ
「それでもだ。
オレのする事は恨まれて憎まれて当然な事なんだ!」
康太は自嘲気味に笑った
それを見ていた京香が、康太に向けて話をした
「私は、飛鳥井の家を出て、真壁に戻った
親だからな…捨てては置けなかった。
だが愛する亭主に…助けてくれとは…言えなんだ
だから飛鳥井の家を出た
そして痴呆の母の面倒に手を焼き日々疲れ果てていた……
目を離した隙に……琴音を事故で亡くし
生きている気力がなくなった…
でも死ねなくて…理由を探している時に…康太が現れた
そして腹の子を産めと…言ってくれた
そればかりか…瑛太の側へ戻してやる…と。
恨むなんて烏滸がましい。
私は感謝している
康太に育てられる我が子を……ずっと見守って行く覚悟だ。」
「京香は瑛兄を死ぬ程、愛してるからな…」
「康太を愛して止まない瑛太が好きなのだ
瑛太と二人で、康太を見続けられる幸せを、二人で分かち合っていたいのだ。」
「弥勒、紫雲、澄香、桃香、お前等は知っておかなければいけない。
弥勒と紫雲は、義理とは言え妻の親、姉妹の事を
澄香と、桃香は血を分けた姉妹の背負った苦しみ悲しみを、知っておくべきだ
知ったなら…亡くした者の供養をしろ
それが、お前等の血の定め。」
紫雲は康太の側に行き、康太を抱き締めた
「やはりお前は蕀の道を…行くのだな…
あの時、我等はお前に出逢わねば…今はない
お前を助ける礎になる決意は今も変わってはおらぬ。」
「龍騎、妻を愛せ
そして子を成せ
血を残せ
それがお前の定め
未来を歪めるな。」
「子を残す
絶対に子を残す
桃香を愛する
努力する……絶対に悲しい妻にはせん
週の半分は山から降りる…努力するから…」
康太は紫雲の背中をポンっと叩いて、剥がした
「真壁を忘れるな…澄香、京香、桃香…
真壁の血筋は絶えたが、親の想いや兄の無念は忘れてやるな……」
澄香も京香も桃香も、頷いた
康太は京香のソファーの前にひざまづいた
「京香、オレはもう来ねぇ
次に逢う時は、お前等…親子を引き裂く時だ」
康太が言うと、京香は頷いた
「玲香は来てるか?」
「はい。1日に一度は必ず顔を出してくれます
そして源右衛門も…来てくれます。」
康太は、そうか…と呟いた
「京香、オレに元気な男の子を渡してくれ
そしたら、オレは伴侶と育てる
愛して育てる…」
「ありがとう康太
私は必ずお前に渡す子供を産む
元気な男の子をお前に託す。」
康太は微笑み、京香のお腹に頬を寄せた
そして立ち上がると、榊原の横へ行った
澄香は、京香のお腹を撫で耳を宛てた
桃香も、澄香の後に、京香のお腹を撫で耳を寄せた
触れれば動く赤子に、耳を寄せれば聞こえる胎動に、女なら産みたいと願望も欲も出て来る
女なら愛する人の子を、お腹に子を宿し育てたい
澄香も、桃香も、子を欲しいと初めて思った
妊娠とは…肌に触れて初めて解るもの
京香は、母親の顔をしていた
腹の子を愛して、優しい菩薩の様な微笑みを浮かべる
だがその子は…康太に盗られるのに…
京香は、慈しみ愛し、腹の子を育てている
それが定めなら……何て悲しい…
京香は、悲しげに見詰める康太の瞳を見ていた
誰よりも悲しみ傷付き…痛みを受けているのは康太なのだと、京香は知っていた
京香は立ち上がると、康太の側に行った
「そんな悲しい顔をするではない 」
京香の優しい指が康太の頬に触れる
「 京香…」
「私は幸せだと、言わなんだか?
康太に背負わすモノを、お前を支える伊織と共に私も背負う
伊織も…悲しい顔をしてはいけません」
京香は榊原の頬にも優しく触れた
「愛しているぞ康太、そして伊織。」
康太は京香を抱き締めた
榊原も優しく京香を抱き締めた
榊原は康太の言う、京香の器は母玲香と同じと言う意味を想い知った
強いのだ…愛する者の為ならば、総てをかけて守り抜く
飛鳥井を守り続けた飛鳥井玲香と、同じ器なのだと、想いしる
「私は瑛太の分身を産む
そしたら、康太が育てろ
私は玲香の仕事のサポートをする
腹の子を康太にやって
次の子は大切に…は、出来んからな
やはり康太が育てろ。」
やはり京香は強い
母、玲香がして来た様に、同じ道を行く
「飛鳥井の女は強い
お前はやはり飛鳥井に生きる女だな…」
康太は京香に微笑んだ
「康太が選んだ瑛太の妻だからな。」
京香は、誰よりも飛鳥井の為に生きてる女だった
面会を終え、京香の病室を後にすると
紫雲がお茶でも…と、誘った
病院を出て、洒落たカフェでお茶をすると
紫雲は康太に深々と頭を下げた
「私は真壁の事を何一つ知りませんでした
総て康太が片付けたのですね
本当にありがとう御座いました。」
と、詫びを入れた
弥勒も康太に詫びた
「俺も、妻の実家や親の事は知らずに来てしまった。
その結果、京香に総て被せて…苦しめた。
この世で3人しかない姉妹を支えて行きたいと想います。」
と、深々と頭を下げた
「真壁は引っ越さなければ、終わりは来なかった
だけど引っ越した
その時点で…終焉へと向かって走り出した
京香の兄は車に排ガスを引き込んで絶命してた……
世を恨み、家族を恨み…死んで行く己を嘆き
呪詛を吐きまくって絶命してるかんな
その無念は……引き摺る…供養してくれ。
闇に堕ちれば悪霊と化す…
そしたらオレは討つ
そしたら輪廻の道は断たれる
それは避けたい
だから供養をしろと言っている。」
と、康太は現実を告げた
紫雲は、解りました。と述べた
弥勒は絶対に闇へは落とさん!と約束した
「ならば、オレは帰る。来週な龍騎」
龍騎は深々と頭を下げ、宜しくお願い致します…と告げた
弥勒は康太に乗せて行け、と頼み
康太は弥勒夫妻を連れて帰る事にした
駐車場で、紫雲と別れる時に康太は片手を上げ見送った
紫雲は妻を乗せ帰っていった
康太は車に乗り込むと、溜め息を着いた
弥勒は康太にどうしたのじゃ?と問い掛けた
すると康太は……紫雲の夫婦生活を物語った
弥勒は、嘘…と唖然となり澄香は、桃香を思って目を閉じた
「酷過ぎる!
妻の身体で勃起せんとは…殴りたくなったわ…。」
康太がボヤく
弥勒は「龍騎は康太なら勃起するのだがな…
だからと言ってゲイって訳ではないぞ。
オレも男と犯りたい訳ではない
オレは康太の次に澄香を愛してるからな
澄香を、悲しい妻にはしたくない。
龍騎も想いは一緒
唯、アイツは性欲がないんだな
オレもあんまし性欲はないが、尽きてはおらなからな。澄香と頑張る。」
康太は微笑んだ
「オレは五番位で良いからよ、一番に互いを愛せ。」
「それは無理だわ
俺の一番も澄香の一番も
今も昔も変わらぬお前だ…諦めろ」
「京香は、辛い定めを歩いて行く…
オレは時々、惨いことを遣らねばならぬ…
お前も支えてやってくれ。」
弥勒は、承知した…と決意を述べた
車は弥勒の家の駐車場で停まった
康太は車から降りると、弥勒が康太を抱き締めた
そして澄香も康太に抱き着いた
「またな、弥勒、澄香。」
康太が言うと、弥勒と澄香は康太を離した
「またな、康太。」
弥勒が妻の肩を抱く
「康太、ありがとう。」
澄香が康太に礼して別れを告げた
康太は微笑み、車に乗り込んだ
そして通り過ぎる瞬間片手を上げた
その車を…見えなくなるまで、弥勒と澄香は見送った
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