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第23話 思惑
康太は神野の車の窓をノックすると
「帰るかんな!
飛鳥井の家へ来い 」と、告げた
神野はエンジンをかけると、車を走らせた
康太は力哉の車に乗ると………嗤った
遥か果てを見詰めて…嗤う様は…恐怖を覚える
「伊織、家へ着いたら着替えるかんな。」
榊原は、頷いた
飛鳥井の駐車場に神野の車が停まっていた
康太は車から降りると、スタスタと飛鳥井の家へと入って行った
一生が、神野と小鳥遊を、家の中へと連れていく
役割分担は…言われなくても出来ているみたいだ…
神野と小鳥遊を応接間に招き入れると、悠太がお茶を持って来た
悠太は帰宅して直ぐの来客で、聡一郎に茶を出せ!と命令されたのだ
一生も聡一郎も着替えに行き、当然康太も榊原も居なかった
康太と榊原が応接間に現れると、何時もの席に座った
そして一生と聡一郎が隼人を連れて応接間に来た
康太は何も喋らなかった
神野は康太に深々と頭を下げ、テーブルの上にアタッシュケースを置いた
「飛鳥井家真贋の飛鳥井康太を使うのに、タダで動かそうなどと思ってはいません。
そして貴方が一番言いたかったのは、オレ達の意識なんでしょ?
一条隼人を作ったのはオレ達です。」
神野は康太に詫びを入れた
康太は何も言わず唯聞いていた
隼人は応接間に現れると、小鳥遊に抱き着いた
「オレ様は小鳥遊がいれば立ち直れるかも知れない。
神野、オレ様に小鳥遊を寄越せ
あの時、神野はオレ様に小鳥遊を差し出した
オレ様は、アレがなかったら、男には手を出さなかった
責任を取ると言うのなら、オレ様に小鳥遊を寄越すのが筋だと思うのだ。」
と、隼人は言い放った
神野はあまりのショックに言葉を失っていた
康太はそれを見ていた
小鳥遊は隼人に頭を下げて謝った
「僕は隼人のモノにはなりません。
隼人のモノになれと言うのなら……僕は…
どうして良いか解らなくなる…」
神野は……拳を握って震えていた
小鳥遊を隼人に与えたのは……神野だ
イライラする隼人に小鳥遊を与え…抱かせた
それ以来、隼人は男も抱くようになった…
罪を作ったのは…神野と、言われるまま身を投げ出した小鳥遊だ
康太はゾッとする程、残酷な笑みを浮かべ
「小鳥遊、あの時は身を投げ出して
今は無理だなんて虫の良い話が通ると思ってるるのか?
身勝手だと想わねぇのかよ?」
理屈は通っている
真っ直ぐ射抜く瞳に……
身勝手な自分達の行為を想い知らされる
隼人は立ち上がると、誰も座っていないソファーに座った
「神野も小鳥遊も、何時もオレ様をもて余す…。
オレ様が知らないと思ったか?
手に余る事ばかりするのは、お前達への当て付けだ
オレ様は芸能界を引退する。
最初から引退してれば良かったのだ。」
隼人の本音を聞かされて……
作った罪の塗り重ねをしていた事を知らされる
その上、欲しいと言われて……
嫌だと言われたら……隼人の気持ちを考えなかった
子供騙しにいい加減に扱って、常識の知らない子供を作った
そして、それを総て、飛鳥井康太に放り投げしてしまっていたのだ
自分達の追うリスクは何もなしで、康太にばかりリスクを背負わせ…投げ出した
「神野、お前の作った罪が解ったか?」
康太が聞くと神野は床に頭を着け…謝った
「総ては俺の不徳の致すところ…償いたいと思います。」
神野は心の底から…康太に謝った
小鳥遊は康太の目の前で、土下座をした
「総ては私の所為です
私は隼人を騙して仕事をさせて来た
神野は扱い難い隼人の性欲の吐き出し口を見付けることで懐柔して来ました。
だからこんな無節操な人間になってしまいました。
隼人を引退させないで下さい!
隼人を役者として育てさせて下さい!
お願いです。どうかお願い致します!」
小鳥遊は心の底から謝罪した
康太は「一生 」と、告げた
一生は、神野と小鳥遊をソファーに座らせた
「さてと、隼人来い!」
康太が呼ぶと、隼人は康太の横に小さく座った
「神野、小鳥遊、罪は作るな!
お前等の相手にしているのは、人間だ
感情もあれば、想いもある、人間なんだと忘れるな!
それ等を無視してごり押しすれば…隼人の様な歪んだ人間になる。解るな?」
康太の言葉を重く受け止め、神野と小鳥遊は頷いた
「次はねぇ
何億積まれてもオレは隼人を見切る
忘れるな!良いな?
オレは今、飛鳥井家真贋を継いだ以上はお前だけ特別になど出来はせぬのだ!」
「次からは…気を付けて管理して行きます
ですから…お願い致します。」
神野はアタッシュケースを康太に差し出した
康太はそれを受け取り、宙に放った
アタッシュケースが宙を舞い、瑛太の腕の中に落ちた
「瑛太……」
神野は唖然として、悪友の名を呼んだ
「瑛兄、新事務所の頭金だ。受け取れ。」
康太はニカッと笑って瑛太に親指を立てた
瑛太はニッコリと副社長の顔をして
「飛鳥井建設のご利用ありがとうございます。」
と、頭を下げた
神野と小鳥遊は康太の顔を見た
「次はねぇからな!
オレは甘くはねぇ!
飛鳥井に不要なら幾ら金を積まれても、オレは動く気はねぇ。想い知れ!」
康太は言い放った
瑛太はソファーに座ると、神野に
「飛鳥井の真贋に見立てやお願いをするならば通常は1憶、2憶の金は用意してもらわねばなならぬ!
これは脅しではない
飛鳥井の代々受け継がれし掟
康太だけ破って許されるものではない
次はないと言うのは、真贋になった今、神野達が目にしている人間は飛鳥井家の真贋だと謂う自覚を持って付き合いしてもらわねばならなくなったと謂う事です
飛鳥井家総代として真贋が慣例を破るならば正さねばならぬ!
それ程に甘い世界には生きてはおらないと謂う事を弁えておいて下さい」
と、話し掛けた
神野は瑛太に「解っている…」苦汁の想いを吐き出した
「解っている瑛太…すまなかった。」
康太は神野と小鳥遊に
「隼人の想いも想い知れ!
甘やかして、何でも与えて堕落させ、常識も何も教えず、駄目にした。
愛を知らない哀れな子供を作ったのはお前達だろ?
お前達が尻拭いするのは当然。
だからお灸を据えてやった。
お前等の意識改革もしねぇとな!
隼人は何度も繰り返す
だから、思い知らせた。
だけど、次はもうない
そしたら一条隼人は終わる。
お前等が終わらせるんだ、その手で」
神野と小鳥遊は、康太の言葉を胸に刻んだ
「此処で変わらねぇと、篁もローランドも腐らせる
1つ腐ると総てが腐って行く。
その原因が隼人で良い筈がねぇ。」
康太が言うと小鳥遊は「解っています!」と、言葉を発した
「向こうの事務所との話し合いを開け
その話し合いの場にオレと隼人と相賀和成を入れろ
記者会見もその足でやる。
文句は言えねぇ筈だ
オレが出てやると言ってるんだからな。
ファンが納得して黙る会見を用意してやんよ。さぁ動け。」
康太は神野と小鳥遊に指示を出した
神野と小鳥遊は立ち上がり、神野は相手の事務所に電話を入れた
小鳥遊は記者会見の場の設定を用意すべく動いていた
康太はスマホを取り出すと、相賀和成に電話を入れた
「相賀、動いてもらいたいが…頼めるか?」
康太が聞くと、相賀は
『全面協力を約束したではないか!
動くに決まっている。』
飛鳥井康太は敵に回すより、取り込んだ方が事務所のためになるのだから…
それが相賀和成の出した結論だった
「記者会見を開く…
その場にオレと共に出てくれないか?
シナリオも台本も用意しない
想ったことを述べて構わない
一応、立場は隼人の後見人として、オレと共に出てくれ。」
『解りました
日時が決まりましたら、お教え下さい
例え夜中でも馳せ参じます。』
相賀はそう言い、電話を切った
神野は康太が電話を切るのを待って、話しかけた
「相手の事務所と連絡が着きました
この後、直ぐでも構いませんか?」
「構わない!
伊織、オレのスーツを持ってきてくれ
オレは出る。
お前は出るな。
同じ世界で生きていくのなら、お前は出ぬ方が良い
後の遺恨になると、お前の仕事に影響が出る
だから、その場にお前は来るな
オレは一生と力哉を連れて行く
聡一郎、伊織を頼めるか?」
康太が言うと、聡一郎は
「伊織が暴れないように見張ってます。」
と答えた
榊原は腕の中に康太を抱き締めた
そして断ち切るように、応接間から出て、康太のスーツを取りに行った
「小鳥遊、隼人のスーツを用意しろ!
色は白
ヴェルサーチか何かにしろ
コイツのクローゼットの中のスーツは棄てる
寝たデザイナーの服で記者会見は御粗末すぎる!」
小鳥遊はスタイリストに持ってこさせます!と、言い、動き出した
「一生、お前もスーツを着ろ
そして力哉を呼んで来てくれ
記者会見の時にオレの後ろに控えさせる。だから上等なスーツを来て此処へ来いと、言って連れて来い!
時間がない。早くな。」
康太が言うと一生は飛び出した
入れ違いに榊原が康太のスーツ一式を持って入って来た。
「今、着替えるの?」
榊原が問うと、康太はニッコリ笑って頷いた
「伊織が着せて。」
榊原は、康太を部屋の隅に連れて行くと、服を脱がせた
まずは上半身裸にして、Yシャツを着せて行く
キスマークの散った体に服を纏う様は淫靡で…神野は目を背けた
榊原の手で、康太にスーツが着せられる
榊原はズボンを脱がせ、スーツのズボンをはかせると、ネクタイを嵌めてやって、スーツの上着を着せた
康太は支度を終えると、ソファーに座る榊原の膝の上に座った
康太を抱く榊原の腕に…瑛太の腕時計に良く似た腕時計を見た
瑛太が結婚式の時に妻に貰った伴侶の証し
神野は飛鳥井の一族に、榊原は認められ、その場にいるのを知った
応接間に正装をした一生と力哉が入って来た
康太は榊原の膝の上を降りて立ち上がった
「ならば、伊織、行ってくる。」
「僕は待ってます。」
榊原が言うと康太は嬉しそうに微笑んだ。
「瑛兄、行ってくる。」
「気を付けて……。
何かあったら呼びなさい。」
康太は頷いた
応接間を出ると、康太は振り返ることなく歩いた
玄関を出て、康太は力哉の車に一生と乗った
神野は小鳥遊と隼人を乗せて、康太より先に走り出す
「力哉、神野の車の後に着いて走れ
それから、お前は会見に出るオレの後ろで控えてろ
一生は、その会見を袖で見届けてくれ。」
力哉は「解りました」とすっかり秘書らしく答え
一生は「解った」と素っ気なく答えた
康太はスマホを取り出すと相賀に電話を入れた
「相賀、これからプリンスホテルに向かう
出てくれるか?
相手の事務所の話し合いから、記者会見まで付き合って貰いたい。」
康太が申し出ると、相賀は了承してくれ
これから向かうと言ってくれた
「相賀…世話になるな。」
『いいえ。君の役に立てるなら光栄に想いますよ
君は敵には回したくはない
使える駒なら私を使えば良い
それが何時か自分に戻って来るのも解りますから
私は動きます。君と共に。』
相賀はそう言い、豪快に笑った
康太は頼むと言い電話を切った
四宮聡一郎の頭脳PCが弾き出した結果
七瀬瑞季の事務所は、神野の事務所より大手の『 須賀プロダクション 』で、芸能界ではかなりの権力を持つ
睨まれたら…潰されるのは必然
それか一条隼人を持っていかれるか…
相賀クラスの事務所なら、向こうは引くが
神野の事務所『 J J プロダクション 』など赤子の手を捻るより容易い
向こうの事務所は詫びを入れに来ると思っている
出向くのは詫びでも謝罪でもない
25の女がフラれた腹いせに、18の男を陥れた事実を訴えに行くのだ
芸能事務所と飛鳥井の家は、繋がりが深い
験を担ぐ芸能界の事務所とはもっと繋がりは深かった
力哉は神野の車を射程範囲内に留め走る
プリンスホテルに停まると、康太は車を降りた
そして一生も下り、力哉はベルボーイに鍵を渡した
先に車を降りた神野が小鳥遊と隼人と並び康太を待つ
康太は、気にする事なくスタスタとホテルの中へ入ると
迷う事なく、相賀和成の待つフロアーへと歩を進めた
「相賀、待ったか?
オレは横浜だからな、東京のお前は待たねばならなかったか…」
康太が相賀に話し掛けると、相賀は康太に深々とお辞儀をした
「待ってます間に根回しは致しました
どう言う訳か、兵藤議員からお声も掛かっております。お知り合いですか?」
康太は兵藤貴史が父親を使ったのを知る
「学友だ。兵藤は現総理の甥に当たる。」
相賀は、そうですか…と、納得した
「逢いたいか?濱田政親に?
ならば今度、席を設けるぞ。」
康太は笑って言った
「この件が片付きましてから考えたいと想います。」
康太は、そうか…と、呟き、
「今日は宜しく頼む。」と頼んだ
相賀は頷き立ち上がり、康太の少し後ろに並んだ
「神野!オレを連れて行け!」
康太が言うと、神野はフロントへ向かい、到着を告げた
すると相手は既に待っていると知らされ、ベルボーイに部屋まで案内され、部屋へ向かう
ベルボーイに案内された部屋をノックすると、中から須賀の秘書がドアを開けた
須賀の秘書が「お待ちしておりました。」と告げると
康太はスタスタと部屋に入り、須賀の前のソファーに座った
相賀はその横に座り、神野と小鳥遊と隼人はその横に座り
一生と力哉は、空いているソファーに座った
須賀は、子供の様な乱入者と、相賀和成の同席に…戸惑っていた
康太は足を組むと「神野、始めろ!」と、命令した
須賀は、神野に「この子供は誰なんだ?」と、尋ねた
すると相賀が激怒した
「この子供とお前が卑下するならば
その子供におまえはその身を脅かされる事となるぞ!
非礼に扱うな!
非礼をするならば、私は黙ってはいられない。弁えろ!」
と、相賀が怒鳴ると、須賀は康太を見た
相賀の怒りを目にしても、康太は微動だにしなかった
そればかりか、果てまで見抜きそうな瞳で須賀を見ていた
「すみません
相賀さん、この方は誰なんですか?
私は知りません。教えて頂けませんか?」
須賀が聞くと相賀は「 飛鳥井康太君だ。」と、答えた
須賀は、飛鳥井?
飛鳥井との付き合いはなく、須賀には解らなかった
須賀の秘書の北乃桐子は、飛鳥井を知っていた
そして顔色を変えた
「飛鳥井源右衛門…」と北乃は呟いた
秘書の呟きに須賀は、飛鳥井源右衛門??と、首を傾げた
康太は魂まで凍りそうな瞳で須賀直人を見るとニャッと笑った
「神野、進めろ
オレは名乗らぬ奴に名を名乗ってやる気はねぇ。」
康太が言っても、神野はオロオロして使い物にならなかった
「ならばオレが交渉のテーブルに着くとするか
力哉、お前が進めろ
後、自己紹介させろ
オレの名は最後に言う。」
康太が力哉に命令すると、力哉は立ち上がった
「私、飛鳥井康太の秘書の安西力哉と申します
須賀さん陣営から自己紹介お願いします。
私の主は名乗らぬ人間は、信用しません。
宜しくお願いします。」
須賀は驚いていた
見るからに中学生みたいな顔をしていて
秘書まで連れて歩く人間がいるなんて……
須賀の秘書は「私は須賀プロダクションで社長の秘書をしております、北乃桐子と申します。」
と、礼節を弁えて自己紹介をした
須賀も「私は須賀プロダクションの社長をしております
須賀直人と申します。以後お見知りおきを。」と自己紹介した
須賀も自己紹介すると、神野や小鳥遊も自己紹介をした
隼人と一生は黙ったまま座っていた
康太は「飛鳥井康太だ!
飛鳥井源右衛門は我が祖父
そしてオレはそれを継いだ者。」
と、答えた
北乃は「世代交代されたのですか?」と、康太に聞いた
康太は「 そうだ。」と答えた
「須賀直人、お前は神野の事務所が弱いから
力で押さえて、一条隼人を盗ろうとしただろ?
だから、オレは力を連れて来た。
オレの力を振りかざし、潰してやろうか?」
図星を刺されて……須賀は青褪めた
「オレは飛鳥井家の真贋
自分の秘書にオレの事を聞いてみろ?
待っててやるから。」
康太が言うと、須賀は秘書に飛鳥井康太の話を聞いた
秘書は飛鳥井康太……と、言うより、飛鳥井源右衛門の話を須賀に話した
そしてその飛鳥井源右衛門を継いでいる者の、重さも威力も人脈も…総てを継いでいることとなる……と。
ならば、相賀和成を引き連れてやって来るのも納得がいった
相賀は「飛鳥井康太の伴侶は榊清四郎の次男
榊は私に康太を頼むと託された。
そして彼はトナミ海運の社長とも懇意にしておる
その上、兵藤議員の息子とは学友だ。
現総理、濱田政親とも懇意にしている人間を敵に回す方が恐ろしい存在だと、言っておこう。」
と、補足を入れておいた
康太は「隼人来い!」と呼んだ
隼人は康太の横に座った
「オレは一条隼人の育ての親だ
オレの子供に手を出すなら、オレは黙っちゃいねぇ。
手を引くなら、お前の事務所の繁栄を願ってやろう。」
一条隼人の育ての親…???
どう見ても子供みたいな顔をしているのは康太に見えていた
須賀は、康太に深々と頭を下げた
「貴方は…どう言った幕引きがお望みなのですか?」
「喧嘩両成敗だ
須賀の事務所のタレントに手を出した隼人にも罪がある
見境のない行為を想い知る必要はある
だか25の女が18の男に手を出して
フラれた腹いせにパパラッチにスキャンダルを売るのもどうかと思う
だから、互いに潰し合うな!と、オレは言っている。
18の隼人と、25の七瀬
世間の目はどっちが同情的に動くかやってみるか?」
世間の目は、年下の一条隼人に同情の目を向けるのは一目瞭然
「両成敗で終わらせて戴けるのですか?」
「あぁ。潰し合いたいなら目を瞑っててやるけどな。」
須賀は、いいえ…。と断った
「貴方を敵に回すなら…跡形もなく潰されてしまいます。貴方の想いのままに。」
「須賀。お前の事務所も泣いてくれるなら悪い様にはしないつもりだ。
飛鳥井は昔より験を担ぐ芸能事務所とは付き合いが古い。
飛鳥井家真贋が動いてやる保証をしてやろう。」
話し合いの場は、康太の独壇場だった
相賀が一緒に入って来た時点で勝てる気がしなかった
況してや子供みたいな飛鳥井康太の乱入で、場の空気が変わってしまった
康太は須賀直人を見ていた
「須賀、お前は今悩んでいるだろ?
事務所に決定的な人気を持つ俳優がいないからな
それはな須賀、お前が父親の言い付けを破って事務所を移転させたからだ
お前の先代の社長が祖父、源右衛門の客だった。
源右衛門は見立てた筈だ、繁栄の続く方向を
だがお前の越してった方向は衰退の方向
しかもあんな頭の足らないアイドルを使わねばならないのも、その所為だ。
儲かった時に報酬を寄越せば良いから、オレが見立てたやっても良いぞ
それが今回泣いてくれたお前の褒美だ。」
須賀は「貴方の瞳には…それが見えたのですか?」と康太に問う
「オレの瞳は、果てを映す
そしてお前の覇道を辿れば、お前の事が見える。
星を詠めば…お前の置かれた立場もわかる
それが飛鳥井家の真贋だ。」
「貴方は本物だ。」
康太は、何も言わず微笑んだ
「須賀、記者会見を開く
熱愛は本当だが、隼人はまだ高校生、七瀬は身を引き隼人は諦める
それで誰も傷付かない
相賀は見届け人として記者会見に出席するそれでどうだ?
オレは隼人の後見人として記者会見に出る
まぁ飛鳥井の名を聞けば…無駄な話は出ないと思うからな。」
康太が言うと、須賀は…そこまで見て此処へ来たのか…と、飛鳥井康太の果てを見る目な確かさを改めて認識させられた。
「異存はございません
七瀬は会見に出させますか?」
「七瀬は傷心で入院させとけ
下手に喋られたら総てが終わる
今後喋らせても終わるがな
それは社長やスタッフの手腕だ。」
「心得てございます。」
「なら行くか。相賀、頼めるか?」
康太が問うと相賀は
「総ては貴方の想うままに。」と告げた
康太はソファーを立ち上がった
康太は神野と小鳥遊の方を向いて
「お前等は本当に使えない奴等だ…」と、呆れた顔を向けた
神野は、ひたすらスミマセン…と、誤り
小鳥遊は、頭が真っ白で…と、訳の解らない事を言っていた
力哉が本領発揮して段取りをつけ、動き回る
「康太、記者会見は何時でも出来ます
会場には記者が100人近く入ってる模様です。行きますよ。」
と、檄を飛ばし康太を導いた
須賀は力哉を見て「良い秘書ですね。」と、賛辞を述べた
康太は笑って
「戸浪海里の懐刀を貰ったのだ。」
と、さらっと流した
飛鳥井と戸浪との強固な絆が伺える
そしてそれを使い粉すのは、力量がなくば、使えない…
と言う実践を見せ付けられた様なものだった
記者会見の会場に入ると、凄い記者がフラッシュをたいて、その姿を写真に納めた
記者会見席のど真ん中に……飛鳥井康太と、相賀和成が座り
相賀側に須賀陣営が座り
康太側に神野陣営が座った
そして総ての進行係は、安西力哉
深夜近くに行われた記者会見は行われた
記者は記者会見中央の子供の様な人間は誰なのかと……相賀に尋ねた
相賀は「彼は名乗らぬ奴に自己紹介などしてはくれぬ。」と、言い捨てた
「私は週刊イレブンの鈴木愛美と申しますが、貴方はどう言ったポジションの方なのですか?」
と、尋ねると
「オレは一条隼人の育後見人としてこの場に座っています。」
「失礼ですが、お名前は?
お聞きしても宜しいですか?」
「オレの名は飛鳥井康太だ!」
と、康太は答えた
会場は…飛鳥井……の名前に固唾を飲んだ
相賀和成は「彼は飛鳥井源右衛門を継いだ者。」と、記者に補足を入れてやる
古株の記者なら手痛い想いを食わせられた…飛鳥井源右衛門…
それを継いだ者なら…用心は必要だ…と、唾を飲み込んだ
新参者は飛鳥井源右衛門は知らずとも、飛鳥井の名で、飛鳥井建設の名に結び付く
どっちをとっても、強敵なのは間違いなかった
康太は堂々とした態度で、記者に言葉を放った
「一条隼人の熱愛報道の記者会見にお集まりいただいて、誠にありがとうこざいます。」
毅然と記者を見据え話す姿は……
大人も顔負けで…その容姿とのギャップに…言葉をなくした
「一条隼人はまだ18歳
彼はこれから学ばねばならぬ事が山程ある
一条と七瀬は、此処で泣いてもらい、別れる事に同意をしました
彼等は真剣でした
ですが、自分の置かれた立場も弁えず、恋愛ではないと諭した所理解してくれた
尚、今回の双方の事務所の話し合いには、一条隼人の後見人の相賀和成が中に入りまして仲介を取り持って下さいましたので、此処にご報告したいと、想います。」
堂々とした記者会見姿だった
会場の記者が飲まれて言葉を発せられない位に……
それを受け、相賀和成が口を開いた
「一条隼人は此処で終わらせて良い役者に非ず
彼にはこの先も役者として生きて行って貰いたい。
飛鳥井の家の真贋と懇意にさせて貰っている縁で今回、仲介人と言う事で中に入り話を着けさせて戴きました。
一条隼人の熱愛はこの場を以て終わりとさせて戴きます
この経験が双方の糧になるように精進して参りますので、皆さま方には、暖かい瞳で見守って戴けたらとおもいます。」
相賀に此処まで言わせたら、何も言う記者などいなかった
此れで幕引きか……と、思われた時……
「東都日報の今枝浩二と申します
一条隼人さんに今のお気持ちを聞かせて貰えませんか?」
飛鳥井康太は何も言わなかった
相賀和成も……
一条隼人はマイクを持つと憔悴しきった顔を、記者に向けた
一斉にフラッシュがたかれる
役者一条隼人は記者の前で本音で話した
素のままの一条隼人として、マイクの前で話をした
「僕は自分の置かれた立場を理解する事なく、恋愛をしました
その結果、一条隼人を育ててくれた、母であり、友であり大切な飛鳥井康太をこの場に引き摺り出してしまいました……不徳の致すところです。
好きなだけで…一緒にいられる訳ではないと…初めて知りました。
今後は、母でもあり友でもある、飛鳥井康太を裏切る事なく、役者人生に邁進して参りたいと思います。
本当に……申し訳ありませんでした。」
隼人は立ち上がると、康太に深々と頭を下げた
「週刊セブンの玉木瑠璃子と申します。
この場に七瀬瑞季がいないのは何故か訊ねても宜しいでしょうか?」
と、隼人のお辞儀の後に問い掛ける
隼人はマイクをテーブルに置いた
康太はマイクを持つと
「彼女は隼人の為に身を引いた。
熱愛報道以降、パッシングにも合い、入院中だ
しかも別れたと言えど好きな男の姿を見れば、気持ちは揺れる…女なのに女心も理解出ぬか?
須賀はタレントの想いを組んで、七瀬を出さなかった。それだけだ。」
吐き捨て、須賀にマイクを渡した
「事務所の社長として、強制的に出ろとは言えません
一条隼人は康太君が、ケジメの為に、自分の責任の為に出席させました。
ですが七瀬は精神的に不安定で、会見に出てもまともに話せるかすら解りません。
そんな状態の七瀬を、表に立たせる事は、出来ず、体調も崩しており入院しております。
この場には現れませんが、離れる選択をした彼女の想いをこの場に皆様が汲んで下さいれば、この会見の意味が有る事になります。」
須賀直人は記者席に向かって頭を下げた
須賀直人のそんな姿は想像だに出来る者はいなかった
何故なら、彼はどんな時でも慇懃無礼な人間だったからだ……
力哉が「これで記者会見は終わりたいと思います。
深夜にも関わらず、ご列席の程ありがとうございました。」と、マイクで喋った
会場はもう何か言う事もなく、会見は終わった
会見の終了後、一条隼人が飛鳥井康太に抱き着く様が…記者には印象的だった
仕舞ったカメラを再び出して撮影するカメラマンが殆どだった
一条隼人が体を折り曲げ、自分より小さな飛鳥井康太に抱き着き…謝る姿は……
育ての親…であり、母なのだと、二人の姿で想い知る
殆んどの記者やカメラマンがそれを収め、社に戻り飛鳥井康太と言う少年が同席していたと告げた
すると、飛鳥井康太の詳細な事情には未成年と言う事で触れるな…と、現場に号令が敷かれていた
社の方には相当上の方から、飛鳥井康太を詮索するな!との通達が来ていて……
詮索するような記事も放送も避けざるを得なかった
でも記者会見の放送は総て許可が降りていた。
写真も使用出きるが、飛鳥井家の事や、真贋の仕事……
そしてその瞳に映る果ては…表には一切出す事は許されなかった
記者会見を終えると、控え室に榊清四郎が、息子の伊織を連れてやって来た
清四郎は、会見に出てくれた相賀に心より御礼を言った
須賀は……控え室に現れた榊清四郎の姿に……唖然となった
「清四郎さん、伊織に頼まれて?」
康太が声をかけると、清四郎は笑顔で康太に近付いた
康太の横にいた、須賀直人に会釈をして、康太の側へ行き賛辞を述べた
「康太、立派な姿でした。」
康太は子供の様な顔をして笑った
そして四郎の横にいる男を見ると愛しそうな顔をした
その男は康太に手を伸ばし……抱き締めた…
須賀は、どうして良いか解らなかった
清四郎は、そんな須賀に
「私の息子で、次男の伊織です。」
と、紹介をした
紹介を受け、相賀の言葉を思いだし納得した
『 榊清四郎の次男は康太の伴侶だ』…と言う言葉を。
須賀は榊原に挨拶した
「須賀直人です
宜しくお願いします。」
軽く会釈をすると、榊原も
「榊原伊織です。」
と、須賀に軽く頭を下げた
重なり並ぶ二人を見てみれば、二人の絆の深さは解る
二人はお似合いだった
「榊さん、お似合いな二人ですね。」
と、須賀は微笑み清四郎に言葉をかけた
康太は榊原の腕に抱かれ、須賀を見ていた
「須賀、近いうちに飛鳥井の家へ迎えに来い
お前に泣いてもらった分の繁栄は導いてやる。」
と、康太が言うと、須賀は
「貴方はまだ高校生ですので、週末にお迎えに伺います。」
と、康太に返した
力哉は須賀に自分の名刺を渡した
「康太に用があれば私に連絡下さい。」と、告げた
神野は須賀に、深々と頭を下げた
「この度は本当に申し訳ありませんでした。」と謝罪した
須賀は神野に
「ある意味、康太君と知る切っ掛けになり、私は何も損はしていません
今回は康太君の顔を立てて、何も言いません
それで終わります。宜しいですね?」
と、無かった事にしてやる…と、告げた
飛鳥井康太が出て来なかったら…
許したりはしなかったと……暗に言われた様なものだった
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