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第26話 多忙‥日常‥そして多忙

1週間くらい 寝続けたい 忙しさが、忙しさを呼ぶ そしてオレは疲れてるもんよー! 翌朝の康太は忙しかった 兵藤の家へ行き、美緒に熱烈歓迎されつつ礼を言うと、美緒は笑って 「康太の為だからな お前に羨望が集まると、下手に勘ぐる奴も出て来る お前を化け物の様に書く奴もおるかもしれんからな 私はそれはが許せなかったのだ。」 と、言った 確かに…人の果てなど見る目は…… 化け物にしか見えないのかも知れないが…… 康太は美緒に礼を言って兵藤の家を後にすると、兵藤も家を出て康太に着いてきた 力哉の車に乗り込み、一生と聡一郎と話をする 一生は、康太に「東都日報の今枝浩二の事調べといた。 康太の読み通りドンピシャ。」と話しかけた 兵藤は「何なんだ?」と尋ねる 康太は兵藤に総てを話してやる 「あの記者はスクープが必要だった……だけど、記者魂を貫いた男だ そいつには病を抱えた娘がいる 重い心臓病だ 子供の移植は海外に比べて臓器提供者の確率が低い 臓器提供を何年も待っている子供がいる…! そして待てずに命を落とすか海外へ行くしかない それが現状だ だが海外でオペをするには莫大な金も要る そう易々と出来るものじゃねぇ! 金が集まらないから、足踏みしている状況だ。 募金が頼みでは直ぐには海外へは行けねぇかんな‥‥ 貴史、日本は送れてるな お前は変えてやれ、そんな日本を変える政治家に、お前はなれ。」 兵藤は康太から目を離す事なく 「俺は日本を変える礎になる それが運命なんだろ?」と康太に言った 康太は頷き…微笑んだ 兵藤は「お前の事だから動くのか?」と、尋ねた 「オレは医者を紹介するのみ あるのは使うけどな。」 「お前らしいな ならば俺も動こう 国民の生活を常に把握し、生活に溶け込んだ祖父、丈一郎の様にな。」 と、兵藤は康太に話しかけた 「お前は知らねばな それが糧になり、おまえを動かす原動力になる。」 康太は兵藤に、拳を出すと兵藤は拳を会わせた 「今日、行くなら俺も混ぜろ。」 「混ぜてやる。ならば放課後な。」 兵藤は頷いた 車が学校に着くと、兵藤は車を降りて康太達を待った 康太が降り、榊原、一生、聡一郎……そして隼人が降りた 兵藤は「一条隼人、俯くな 前を見て歩け それが康太に報いる、お前の行動だ。」と隼人に告げた 兵藤がわざわざ車に乗った意図が、全員に解った 兵藤は康太と歩き出すと、一生達は後に続いた 隼人は前を向き、胸を張り歩いた 一条隼人の登校に、皆は足を止めるが…… 兵藤の姿を見ると、スタスタと逃げて行った 3年A組のクラスの前に来ると兵藤は榊原に 「今日は俺がC組に行っても良いか?榊原?」と尋ねた 榊原は「貴方があのクラスにいたら、槇原は卒倒しますよ。」と笑った 兵藤は「進藤に恨まれても、一度位な。」と、榊原に頼む 榊原は「ならば、行って来なさい。 クラスは僕が纏めときます。」と、言い背中を押してやった そして、榊原はクラスの中へ入って行った 兵藤は嬉しそうにC組に入って行き、康太の横に座った クラスの連中は……榊原の次は兵藤かよ!と青褪めた 一生は適当にある机に座り…! 座られた奴は……帰って行った 槇原がホームルームで入って来ると!!!! 緑川一生の席には……兵藤貴史が座っていた 「兵藤…冗談は……」 じっと見られて、槇原は言葉が続かなかった 「何でA組の奴等は、C組に来やがるんだよ!」 槇原、心の叫び 兵藤は、しれっとして 「クラス替えの依頼の受理がされないので 強引に今日からC組の生徒になりました。」 と、言い嗤った 「オレがあの嫌み野郎に言われるじゃねぇかぁー!クラスに帰れ!」 「嫌です! そもそも貴方は嫌み野郎がお好きでしょ? そこ…キスマーク 進藤の独占欲が榊原ばりになって来ましたか?」 と、嫌味の応戦すると、槇原は 「バカぁぁぁぁ~っ」と、走って逃げて行った 康太は「貴史……槇原を苛めるな。」とたしなめた 「康太に似てるな 榊原が口説いてただけあるわ 狙おうかな?俺。」 「貴史…槇原には恋人がいる。」 「冗談だ 紛い物を抱く趣味はねぇよ お前なら、言われたらノロケるだろ? 自分の恋人が如何に素敵か言いまくるだろ?」 康太は、ふふふっと笑い 「当たり前だ オレの伊織は話し出したら尽きぬ位の男前だからな 愛されるオレは幸福者だ。と言ってやるかんな!」 「お前はそれで良い この先も変わらぬのだろ?」 「オレの伴侶は生涯一人、伊織だけだかんな。」 兵藤は、何も言わず……笑った 一時間目が終わると、3年C組のクラスに A組担任、進藤薫が現れた 「榊原の次は、兵藤とは…… 相当C組は人気らしいな? それとも飛鳥井康太が人気者なのか? 記者会見に出たりと、我が校の恥さらしな事をする人間が…」 進藤は手痛い嫌味を飛鳥井康太へ投げ付けた だが康太は知らん顔 兵藤は進藤に 「貴方が康太を批判すれば学園の生徒から応酬を受けますよ? ですから康太の悪口は慎まれよ やるなら、俺が前に出て、お前を潰してやるが? どうする進藤薫? 学園は瞬く間に暴動と化す 貴方にそれが、止められますか? 出来ないのなら康太を揶揄しない方が良い」 「たかが四悪童に? そんな力があるのか?」 「貴方は四悪童を軽んじ過ぎだ 飛鳥井康太が動く時、生徒は彼に同調する 彼を止まられるのは伴侶の榊原伊織のみ! 榊原は康太を止めねぇ そしたら暴動は加速して、学園を飲み込むのに、一時間も要らねぇよ 飛鳥井康太の威力は恥ではない。」 兵藤が、言うと康太が「おい。貴史!」と兵藤を止めた 兵藤は、一歩も引く気はなかった 康太は一生に彦ちゃんを呼べ…と、耳打ちした 一生は了解と、スマホでメールを打ち ついでも榊原も呼んでおく 暫くすると、高等部の3年の廊下に地響きが聞こえる 3年C組のクラスに、生きる重鎮、佐野春彦が理事長の神楽四季を伴い、やって来た 「進藤、油を売るなら、俺と来い! ついでに理事長にご挨拶しろ! あれ?理事長!また康太かよ!」 神楽四季は康太に抱き着き、擦り擦りしていた 「康太、逢いたかったぞ 学食に行ってもお前はおらぬ 探したではないか。」 神楽を抱き着け、康太は苦笑する 彦ちゃん……あんた、何処にいたのさ! 神楽は康太を抱き締め…ぞっとする程冷たい目で進藤を見て 「飛鳥井家と神楽の家の付き合いは深い。 況してや彼は飛鳥井家の真贋 粗末に扱えば、黙ってはおらぬ さぁ佐野と一緒に来い。」 宣戦布告とも取れる言葉を吐き捨てた 「彦ちゃん、進藤を連れて行け オレは暴動なんて望んでねぇし 進藤は好きな子は虐める典型的なイジメっ子だ 学園にいる時はレイプさながらに、槇原を自分のモノにして 卒業後…官僚になったが、総て捨て槇原の元に舞い戻り教師になった 素直じゃない子だ オレが槇原に似てるから、ついつい虐めただけだ 許してやれ さぁ、彦ちゃんは神楽と進藤を連れて行け! 伊織は、兵藤を連れて行け! オレは忙しいんだ! 暴動してる暇はねぇかんな!止めてくれ。」 兵藤は、何時の間にか来た榊原に苦笑しつつ、C組を後にした 佐野は神楽と進藤を連れて、C組を後にした 静まり返った教室に、康太のボヤきが響いた 「冗談じゃねぇもんよー。 アイツ等は楽しんでやがる クソッ貴史の馬鹿野郎!」 康太の叫びが…A組まで届く 兵藤は、肩を震わせ笑いまくり 榊原は、苦笑した 清家は次は僕が行くに限る!と、ワクワクしていた 昼前に食堂で少し早い昼を食っていると、進藤が現れた 「前の席…良いか?」 と、聞かれ、康太はどうぞと言った 「すまなかった 頭に血が昇っていた。」 進藤が言うと康太は笑った 「オレの前に座るの怖いでしょ? 貴方でも飛鳥井家の真贋はご存知ですよね?」 「あぁ知っている しかもさっき誰も知らない経歴を言われて驚いた。」 「良いんですか? オレの前に座って?」 「もうこれ以上見られて困る事はない お前の目は、総ての過去も映すのか?」 「オレの目は果てしか移さない 覇道を辿れば居場所が解り 星を詠めば、過去まで教えてくれる 滅多と見ないがな。 オレの目に飛び込んで来る時は、その人間が分岐点に立っている時期に当たる。 お前がその時期に来ていると言う訳だ 見ようと思って見れる訳じゃないからな。 オレは神じゃねぇ 総てがお見通しな訳じゃねぇ。」 進藤は康太の前に封筒を置いた 「私の果てを見てもらえませんか? 金額的に少ないと思いますが、ダメですか?」 封筒には目もくれず康太は進藤を視た 「お前は政治家になりたくて、官僚になった 行く行くは政治家になるつもりで、政治家の娘と結婚して政治家の夢に近付こうとした。 だが、お前には棄てきれぬ過去があった。 離れれば想いは募り、おまえは妻も立場も親も総て捨てた。 そして何もかも無くして槇原の所へ帰って行った。 槇原はお前が此処で一生終わる人間だとは思ってはいない だから意地を張る。 素直になれねぇ それがお前を作った過去だ そしてお前は今…分岐点に立っている 自覚は有るんだろ?」 康太が問うと進藤は「はい。」と答えた 「お前は定年まで学校で教鞭を取り、槇原と共に定年を迎える‥‥なんて果ては用意されちゃいねぇ お前は今、岐路に立っている そして迷っている。 決めねばお前の果ては歪むぞ。 歪んだ果てにお前は幸せにもなれず 自分の道も確かめられず… 槇原に当たり散らし、おまえは槇原さえも失う。 お前が今から、官僚に戻るのは至難の技 だからと言って教師が天武の才に非ず お前の進む道は、育てるは育てるでも 高校生ではなく政治家の方の育てる道 それしかない 政治家になれんのなら、近い所で生きてみたいのだろ?」 進藤は心の澱が下りて行くのを感じていた 心の焦燥や苛立ちを総て見透かされて、丸裸にされた 自分の心を此処まで的確に当てられるとは想ってもいなかった‥‥ 真贋の心は決まった その顔を視て康太は 「近いうちにお前に政治塾を紹介してやろう だけど、決めるのはお前次第だ オレは道案内をしてやるだけだ それを決めるのはあくまでもお前が自分で決めねぇとならねぇ事だ。」と言葉にした 進藤は康太に頭を深々と下げた 「進藤、封筒は持って納めろ! オレは昼飯を食ってる時にお前と話をしただけだ 次に飛鳥井の家へ尋ねる時は、キッチリともらうけどな お前はオレ等を卒業させたら、行くが良い それを槇原にちゃんと話せ。」 進藤は頷いた、そして 「飛鳥井は…後悔した事は有るのか?」と問い掛けた 「オレだって人間だ 後悔だってある 迷う事だってある 臆病だからな……伊織に心配ばかりかけて後悔だってする 好きなのに、困らせたくないのに、裏腹な事をしてしまう時がある。」 ごく普通の悩みだった こうして見れば、幼い顔をしている その時、康太の首に腕が回された 康太が嬉しそうに見ると、榊原が康太を背から抱き締めていた 榊原は「普段の康太は普通の男の子です 何処にでもいるような悩みも、恋愛もしている 特別な存在ではない。」と、答えた 進藤は「お前達は揺るぎないな」と、言葉にした 「お前も…心は昔から1つ 槇原はお前に着いて行くぞ ちゃんと話してやれ。」 康太が言うと進藤は立ち上がった 「腹は決めました! 近いうちに紹介お願いします。」 康太は「ならば、話を着けたら日時を教える。」と言った 進藤は、軽くお辞儀をすると、封筒を置いたまま食堂から去っていった 康太は榊原を、見た 榊原は、康太に「貰っときなさい。どうせ返しても受け取りませんよ。」と告げた 「ならば、伊織が持っててくれよ! オレは落とすかんな」 康太の言葉を聞き榊原は、笑って封筒を折り畳むと胸ポケットに入れた 榊原は、昼食をトレーに置いて持ってくると、康太のトレーの上にプリンを乗せた 康太はそれを美味しく食べると、 「今日はオレはもう帰るかんな 行く所があんだよ。」 「なら僕も帰ります。」 「伊織…執行部の引き継ぎ……」 「もうして来ました どう言う訳か僕が手を付けた2年生が大量にいて逃げて来ました。」 榊原は、しれっと言った 「伊織はモテたからな。」 「康太もモテますね、今も 僕はもう今はダメです 飛鳥井康太の恋人ですからね。」 嘘つけ…廊下に2年や1年が、ラブレターを持って来ても無視してるだけやん? 「さてと、オレは帰るかんな。」 「じゃあ僕も帰ります。」 どうあっても一緒に行く算段だ 「歩きだぞ。」 「僕は歩くのは苦じゃありません 若いですからね 君を一晩中抱いた後に、横浜駅まで歩け、って言われても歩けます。」 「伊織…」 榊原は笑って、康太の分のトレーも持ち上げ、返却口に返す そして康太が立つのを待つと、一緒に歩き出した 3階に行く廊下で後輩が榊原に声をかける 「あの…榊原先輩…」……と。 榊原は無視して康太を抱き寄せ歩く 「 榊原先輩!そんなチビより僕の方が可愛いのに!」なんて捨て台詞を吐く 榊原は無視して歩いて行く そんな光景が日常茶飯事になっていた 康太はクラスに戻り鞄を取ってくると廊下に出た 廊下には榊原が待っていた 鞄を持って下駄箱まで行くと……… 一生と聡一郎……そして隼人も鞄を持って待っていた 「遅せぇよ康太。」 「オレ、帰るって言ったっけ?」 「何年一緒にいんだよ。 お前が11時より早く飯を食いに行く時は帰る時だろ?」 康太は靴を履くと歩き出した 「今日は歩きだぞ。」 一生達にも言う 「ファミレスに帰り寄れば文句は言わんて。」 「あの一円まで割るワリカンには参るけどな。」 「じゃあ今日は康太の奢りだ。」 康太が普段現金を持たないのを承知で、一生は言う 「なら伊織が奢ってくれる。」 「良いですよ。奢ります 僕の妻は、脚本料が出たのを知ってたりするんですね。」 康太は、ニカッと笑った 「その前に仕事だかんな。」 康太は歩き出した その後に着いて、皆が歩く 何だか楽しくて、ワイワイ歩いていた行く、それすらも愛しい時間だった 康太は飛鳥井の家からそう遠くない土地に立っていた 高台の一等地に、広大な敷地があった 「伊織、此処に榊原の家を建てる。 清四郎さんは元々はこの地に縁のある人間だった だから還りたがったのかもな。」 康太がその土地で待っていると、棟梁の本間元三がやって来た 「よぉ康太!来週には地鎮祭だ お前の伴侶の家を任せてくれたんだ、気合いを入れて創るぜ。」 気合いの入った棟梁を、榊原に紹介した 「伊織、飛鳥井建設の棟梁の本間元三だ。 棟梁はな、からなり腕の良い職人だ 榊原の家の繊細なラインは棟梁にしか作れない。 飛鳥井の中でも棟梁の右に出る奴はいない腕は確かだ。 棟梁、遼一はもう現場にいる感じか?」 「あぁ、同じ位にトラックで資材置き場から出たからな。いるだろ。」 康太はそうか…。と呟き 鞄からタブレットを取り出し、棟梁に絵図を見せた 「出来上がりは、こんな風になる。」 棟梁はタブレットを持つと、溜め息を溢した 「すげぇな! こんな仕事をさせてもらえるのか 腕がなるな!」 そこには木々に覆われた白亜の家が描かれていた 皇居の別邸並の豪華さに、棟梁は気合いを入れ直した 「伊織、お前の家だ。」 「父さん達の家でしょ? 僕の家は飛鳥井ですよ。」 榊原がそう言うと、康太は嬉しそうに笑った そんは康太に棟梁は 「康太、あっちの現場へ行くなら乗せてくぜ。」と声をかけた 「6人も乗れるんかよ。」 「8人乗って来たから乗れるぜ。」 棟梁は親指を立てて笑った 「なら乗せてってもらうかんな。」 男臭い、煙草臭い……車に乗り込み、康太はすぐ近くの現場に向かった 榊原の、家から車で五分もかからない場所に、同じく高台から一望出来る突き当たりの土地に、車は止まった その土地の回りには、木々の生い茂っていて、かなり広い空き地だった 康太達は空き地の前で下ろしてもらった 車から降りる様を遼一は見ていて近寄って来た 「おおっ、康太、土地の下見か?」 「そう。地鎮祭前に見とかないとな。」 「良い土地だな。」 「事務所と住居を創る 高台だから空気の循環がしやすいし、悪い気が抜けやすい土地だ。 こんな感じで創ってくれ。」 康太は遼一にタブレットを渡した タブレットの中には神野の事務所の絵図が描いてあった 緑の生い茂る横に煉瓦造りのビルが建っていた 周りに溶け込むように自然を壊さず建っているビルに遼一は息を飲む 「すげぇな! これをオレに作らせてくれんかよ?」 「遼一しか頼めねぇかんな。頼むな。」 「任せとけ。」 「時々棟梁の所へ行ってくれ オレも気を付けるが、馬の方がデビューを控えてて動けねぇ時もある。頼むな。」 「解ってるよ。」 康太は遼一に頼み、現場を後にしょうとした すると遼一は「飛鳥井の家へ帰るんか?」と聞いてきた 「一旦帰るかんな。」と言うと……乗ってけと、 汗臭く、ヤニ臭く、悪臭のこもる車で飛鳥井の家へ送ってもらった 飛鳥井に着くと、力哉が待ち構えていた 力哉にファミレスに乗せて行ってもらい 軽食を取ると、榊原が約束通り支払いをした そして飛鳥井の家へ戻って来て、一生達を下ろし 東都日報に出向き、今枝浩二に逢い話をする それが終わったら戸浪に行き、新社屋の完成をこの目で確認する予定だった 飛鳥井の家で車を降りる一生に、康太は話し掛ける 「一生、伊織と行く 何かあったら電話する。」 一生は了解!と言い聡一郎と隼人を連れて車を降りた 車は東都日報へと走る 力哉は東都日報の近くで、車を下ろすと 駐車場がないから、車を流しています、と言い走っていった 康太と榊原は、東都日報の中へ入って行った そして受付嬢に「 今枝浩二って言う記者をに逢いに来たんだけど?逢わせてくれる?」と問い掛けた 受付嬢は目の前に、一条隼人の記者会見に中央にいた飛鳥井康太だと……理解した 今枝浩二のいる部署に緊張が走る 今枝浩二の上司が……慌てて康太のいるロビーへ走って行く そして失礼のないように、デスクの横の応接室に康太と榊原を招き入れた 上司が今枝に何の用なのか…康太に尋ねる 何せ…上から圧力を掛けれるだけの権力を持っているのだ 失礼な事をしたりしたら、クビだけで済む筈などないのだ 「オレは本人に逢いたいと言っている。 逢わせないのは失礼に当たりませんか?」 康太が怒りを露に言うと上司は飛び出して行った 康太は席を立つと、窓の外を眺めた 榊原が康太の後ろに立ち、腕を回す コンコン…とノックされ振り向くと、今枝浩二が入り口の所に立っていた 康太は背中に榊原を背負ったまま、今枝に向き直った 修学館 桜林学園は金持ちの子供しか通えない学校だった 今、今枝の前で子供の様な顔をした飛鳥井康太は、その制服を着ていた 「お座りになって下さい。」 今枝が言葉をかけると、康太は椅子に座った その横に榊原も座る 「何の用件なんでしょうか? 私は何か失礼な事でもしましたか?」 今枝が言うと康太は鞄の中から封筒を取り出し、今枝に渡した 「これは?」 「見れば解る。」 今枝は封筒を開けた すると……心臓病の権威の医者への紹介状が入っていた 「 何故??調べたのですか?」 「お前を調べなくてもオレの目に、お前の果てが映った お前は困り果てていた。 スキャンダルを会社に持って行かねばならないのに、お前は記者魂を忘れなかった。 だから目を向けたら、見えたのだ。 一度その医者に見せろ。 行けば診て貰える様に話をしてある。 その医者でダメなら海外に行くしかない。 その時はその医者が手筈を整えて、手術を受けさせてくれる筈だ。 オレはその道筋を着けに来ただけだ。」 飛鳥井家の真贋。 上司は飛鳥井源右衛門を知っていた そして言った……あの目は悪魔の目だと…。 だが、目の前にいる子供は…手を差し伸べてくれる…。 天使なのか……悪魔なのか…。 「助けてくれるのですか……」 今枝が言葉を発すると、康太は 「我が子を助けるのは、お前だよ今枝浩二 オレは神じゃねぇ 況してや悪魔でもねぇ 人の命は助けられない お前がいて、助けてやるんだ! 親として、お前は決して諦めるな! 諦めたら、そこで終わる 諦めなければ、道は続く 絶対にだ! だから御前は悩んで立ち止まっている間に動け そしてその医者に子供を見せろ 連れて行けば、直ぐに診察してもらえる様に話をしておいた 絶対に治してやれ。 そしてお前は己の道を突き進め!解ったな!」 今枝浩二は何度も頷き頷いた 「御前は記者なんだから、自らの事を書けば良い そしたら全国から力を貸してくれ応援が集まる お前は前に進め。立ち止まるな 解ったな。」 「本当にありがとうございました なんてお礼をしたら良いか…」 「お礼も見返りもオレは欲しくて来ている訳じゃねぇ お前のあの日の記者魂が、天晴れだったからな 興味を持っただけだ。 自分を曲げない信念は光っていた。 お前の様なパパラッチがいるとはな… お前はそこにいるのは場違い 精進して本来の場所に戻れ。」 今枝は涙していた 報道記者だった…子供が病にたおれるまでは… だが、報道は時間に縛られ事件があれば夜中まで動く 移動願いを出した 泣く泣く部署を変わった だけど、真実をねじ曲げるのは許せなくて…信念を通した それが彼の目に止まったとは…… 奇跡は……そんな自分の目の前に落ちていた 「飛鳥井康太さん 何時か、貴方を取材させて下さい。」 康太は笑って 「良いぞ。お前に書かせてやる。」 凄く魅力的な笑みだった 今枝の目に写る康太は普通の少年だった 「貴方は至極普通の少年だ。 背負うものは誰よりも重く険しい… そんな貴方を支えるのはそちらの方ですか? とてもお似合いですね。」 「オレの伴侶だかんな。」 「今日は、本当にありがとうございました 貴方に出逢って本当に良かった 私はずっと動けずに悩んでばかりでした 動きます 命を懸けて娘を守り通します。」 康太は微笑んだ 「ならば、オレは帰る お前の上司には適当に言っとけ。」 「解りました。」 今枝は深々と頭を下げた 康太は力哉に電話をすると、会議室を出て行った そして東都日報の会社を出ると、力哉が車を停める処だった その車に乗り込み、トナミ海運へと向かった トナミ海運に向かうと、新社屋の工事は終了していた 今は引き渡し前のメンテナンスと、掃除をしていた 康太が新社屋の前で、出来立ての建物を見ていると、戸浪海里がやって来た 「康太君、新社屋の完成を間近に控えてチェックですか?」 「若旦那、久し振りだな そう、チェックはオレの仕事だかんな。」 「忙しそうですね 深夜の記者会見、昨日見ました 大変でしたね。」 「あれでオレは熱を出して昨日は1日寝込んだ ったく殴り倒してやったかんな」 戸浪は笑って「怖い人だ…。」と呟いた 「病み上がりですか?」 「そう。昨夜は寝込んでた。」 「ならランチでも……って無理ですね。」 「今回は病み上がりって事で…帰って寝ます」 「残念ですね。」 「でも、明日の竣工式には出席します。 夜のパーティーには兄と共に出ます。」 「君が呪詛から護ってくれたから今のトナミは在ります‥‥ 本当に何と御礼を謂って良いやら解りません」 康太は「礼は腹がふくれねぇからな受け付けてねぇんだわ!」と笑った 戸浪は竣工式には絶対に来て下さいね!と念を押し残念そうに帰って行った チェックを済ませると、康太は飛鳥井の家へと帰っていった

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