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第31話 始動

朝、キッチンに降りていくと、玲香にもう大丈夫か?…………と、聞かれた 「愛され過ぎだとか……幸せだな康太 」 「母ちゃん…」 「よいではないか お主等は夫婦だからな、夫婦なら当たり前の事じゃ ない方が心配になるではないか!」 康太はもう、何も言わなかった 口で玲香に勝てる筈などないから…… 今日の康太は……危うい位、艶々で、気怠い感じが、ドキッとして、家族は誰も康太を見なかった 男なら下半身を直撃されるから…… 康太は悠太に宿題は?と、問い掛けた もう何時もの康太だった 悠太は走って自室に図面を取りに行くと、康太に図面を渡した そして、その図面を見て、ニヤッと笑った 「瑛兄、これが天武の才、見てみろ。」 康太は図面を瑛太に渡した 瑛太の見る図面を、清隆も見る 皆が夢中で見てるから、玲香も図面を覗いた そして絶句した! 図面の上に、赤いペンで図面を引き直してあった 正確に、着実に、康太の意図に添った図面に 瑛太も清隆も、玲香も、息を飲んだ 「悠太は設計士、WAKITAプロの、脇田誠一に預けようと思う 学校があるから、通いになるが、来月からでも来いと、返事があったからな 弟子入りさせる。」 家族は再び、唖然となった WAKITAプロと言えば、設計の精鋭が集まる設計事務所 そこの頂点に立つのが、脇田誠一 彼に図面を引いて欲しいと頼んでも、中々返事は貰えぬ偏屈な職人 その脇田を康太が知っているだけでも驚くが…… その脇田に悠太を弟子入りさせるとは……驚き過ぎだ 瑛太が康太に 「脇田誠一を御存知なのですか?」と尋ねた 「脇田はオレの顧客 大きい仕事が入ると、運気を詠みに行く 何年も前から悠太を頼んでおいた 今月にはWAKITAから巣立つ弟子がいるから悠太を見てやると言われた 脇田に預け、修行させ、設計士にする。」 康太はそう呟き‥‥悔しそうに言葉を続けた 「本当だったら、ニューヨークのレイモンド、パッカーに悠太を預けるつもりだったが…… フェイントしやがったから、脇田に預けるしかなくなった 泣いても逃げる道はなくなった。」 レイモンド、パッカー……世界に誇る設計家 康太の人脈の広さに、家族は唖然とした この繋がりは源右衛門から継いだモノではないと…嫌でも解る 清隆が、お前の顧客か?と尋ねた 「人は縁を繋いで、縁《えにし》を結わえる 繋がる縁が人脈を作るのだ その中に、彼等がいて、何時か飛鳥井の為になってくれる強固な関係を築く それがオレの役割だ 例えば、瑛兄が設計士に誰にするか‥‥と悩んでるとするやん? そんな時は真贋の威光でもって、駅前開発地域の目玉ビルの設計士を脇田本人に引かせ 創る前から話題を集め 着工に入る算段をするとか オレの息子に渡す飛鳥井の明日を築くのが、オレの務めだからな。 だから瑛兄、悠太を連れていく時にオレと一緒に行け。 そしたら、脇田が何十年振りかで設計を引く 脇田誠一が自分で設計するビルだからな、創る前から話題は集まる 広報にはオレが玲香と共に出る オレは今、話題らしいからな」 康太が笑った 後はもう、言葉がなかった 慌ただしく食事を済ませ、会社や学校へと、向かった 学校へ行くと康太は、帰りは榊原と共に行くと告げた 一生達は、今日は康太は三木の事務所に行くのを知っていて、別行動だと理解していた 榊原は、康太を連れて3年A組へと、入っていった そして、榊原の膝の上に乗り、足をブラブラさせたいた 登校した清家は笑って 「今日は康太が来たのか?」と、尋ねた 「静流、今日は進藤に用がある 職員室まで行くのは抵抗があるかんな。」と答えた 兵藤が登校して来て、康太を見付け、隣の席を指差す 康太は榊原の膝の上を降りて、兵藤の隣の席へ座った 「お前、今日からA組の生徒になれ。」 兵藤は、楽しそうに言う 「A組は勘弁、オレはC組で良いもんよー」 「ちっ、残念だな。」 兵藤は笑っていた HRにやって来た進藤は、クラスの中に康太を見付け苦笑した 「ようこそA組へ。何か御用か?」 進藤は、康太に問い掛けた 康太は流暢な英語で進藤に話し掛けた 『When Shindo and you had a talk, I came.』 進藤、お前に話があったから、オレは来たのだ… と、康太は英語で話し掛けた 康太は、進藤をチョイチョイと呼んだ 進藤は笑って康太の方へやって来た 「オレのサイズまで屈んで、耳を貸せ。」 と告げると、進藤は康太のサイズまで腰を屈め 康太の口許まで耳を近付いた 「11時には学校を出る、約束の場所に行く オレは駐車場で待ってるからな。来いよ」 と、呟いた 「解りました、必ず!」 進藤は康太に返事をすると、立ち上がった 「なら、邪魔した。」 康太はA組を出て行こうとした、その時、榊原が康太を引き寄せ、膝に乗せた 「HR中ですよ。終わったら行きなさい。」 榊原が言うと、康太は大人しく榊原の膝の上で足をブラブラさせたいた 進藤は苦笑しつつも、 「仕方がないHRが終わったら帰れ。」と、康太に声をかけた 良い子して、榊原の膝の上に座る康太の姿は愛らしかった そして、HRが終わると康太は帰って行った C組に戻ると、一生がご苦労さん!と労いの声をかけた 「今日は三木の所へ行ったら飛鳥井へ帰るのかよ?」 一生が聞く 「三木の所が終わったら、迎えに来るかんな。一緒に帰ろうぜ!」 聡一郎は「なら康太の出席、ダミー使っときますね。」と平気で言う 人数が多い授業は代弁させて、出席や出席カードを出したりと…… 単位を落とさない協力をする 康太は午前11時前には駐車場に来ていた 榊原も、少し遅れて駐車場へとやって来た 「康太、待ちましたか?」 問い掛けると、康太は首をふった 「力哉はお使いをしてから来るからな、少し遅くなる。」 榊原は康太に手伸ばすと、康太はその手を取った どこから見ても……二人は恋人同士だった 康太は榊原のデカい手に、手を繋がれるのが好きだった 榊原の細くて綺麗な、それでいて大きな掌に、抱かれて触られて…………ヤバい 考えるのはよそう。 康太は慌てて、榊原の手から目を離した 力哉の車が駐車場に来ると、康太と榊原は、乗り込んだ 車の中で待つと、窓をコツンと叩かれた 進藤薫だった 「自分の車で行く? それとも乗って行く?」 康太が尋ねると「乗っていって構わないなら…」と、答えた 「別に構わないぞ どっち道、一生達を迎えに学校に来るし」 康太が言うと、進藤は車に乗り込んだ 進藤が車に乗り込むと康太は 「力哉、この人は伊織のクラスの担任だ。 進藤、運転してるのはオレの秘書の安西力哉だ。」と力哉に紹介をした 力哉は「伊織の担任の先生ですか! 初めまして!飛鳥井康太の秘書の安西力哉です。以後お見知りおきを!」と自己紹介した 進藤は「秘書ぉ…凄いですね。榊原の担任の進藤薫です。」と自己紹介した 「力哉、場所は解るな?」 「はい。事前にナビに打ってあります。」 「ならば、行け。」 康太が言うと、力哉は車を発車させた 車の中で康太は、タブレットを片手に思案中で 榊原はPCをポチポチ、忙しいカップルだった 康太はタブレットから目を離さずに、進藤に話し掛けた 「進藤、槇原に泣かれたか? だからと言って、ベッドでなし崩しは…感心しないぞ ちゃんと話し合え。 お前が無理ならオレが出てやっても良いぞ」 康太が言うと……進藤は困った顔をした 「見えましたか?」 「お前で見えたんじゃねぇ 槇原が恨みがましい目でオレを見るから、見たくもねぇのに、見せられた お前は……抱いて誤魔化すのは止めろ 槇原は不安で潰れそうだぞ。」 康太のキツい一撃を食らわされら 「すみません ちゃんと話そうと思うんですが…… 槇原が不安そうな目で見るから…つい抱いてしまって… 誤魔化してる訳ではないのですが…お願い出来ますか?」 「何時でも良いぞ 話し合う場所を用意しろ 力哉の名刺を後で貰え 予定のない日を教えてくれる。」 進藤はすみません……と、謝った 進藤は、康太と話してみて初めて 康太の立場や、言動、そして重圧を知った そして何より、話してみると……指導者の様な的確さがあり 突かれると、遇の音も出ない事が多かった 言う事は、大人顔負け その癖、出しゃばらず弁えている そして何より、自分の立場を良く解っていて、的確に動く 康太は、事務所に着くまで話す事はなかった 「康太、着きました。」 三木繁雄の事務所に到着すると、力哉は車から下り、ドアを開けた すると康太達は車から下りた そして車をロックすると、事務所に向かって走り出した 先に事務所に入ってアポの確認をして、康太達を迎える その顔は飛鳥井康太の遣り手の秘書の顔をしていた 「康太、先生はお待ちかねです。」 力哉に言われ、事務者の中を堂々と歩いて中へ入って行く すると、三木繁雄が康太を待ち構えていた 「康太、良く来てくれた。」 三木が康太を抱き締め、バシバシ叩いた 康太は進藤の腕を掴むと、三木の前に呼び寄せた 「三木、進藤薫だ。」 康太が紹介すると、三木は、宜しくと言い 応接室へと招き入れた そしてソファーに座るように促され、座った 「三木、進藤薫、東大政経学部を首席で出た天才だ 将来は政治家も夢ではなかったが、総てを捨てて、母校の教師になった だが、この寄り道は決して無駄ではない 進藤は、桜林の生徒を東大や有名大学に送り込む実力の持ち主だ 教えるが天武の才 きっと良い指導者になれる器の持ち主だ」 三木は、進藤の顔を見た そして、満足そうに笑った 「流石は飛鳥井の真贋 私が欲してる人間を選んでくるわ 私は順風満帆に来た人間より、挫折を味わった人間の方が、指導者に相応しいと思っている 何故なら、なれなかった想いが、見る目を養っているからだ。」 「だろ?進藤は愛する男の為に、総てを捨てた。親も妻も世間の信用も でも1つだけ棄てきれなかったのは、政治を司る仕事の事 政治家をこの手で育てたいと思う想いと、棄てたのだと…苦渋した想い それらを味わった進藤は誰よりも政治を愛している 良い政治家を育てると想う。」 三木は、康太の言葉に頷いた 三木は進藤に、何時から来る?と問い掛けた 進藤は躊躇する 「10月からお前の所へ通う 来年の3月までは、桜林に席を置く キリを着けたいだろうからな そして、3月2日からはお前の元で弟子入りする。」 康太がそう言うと、三木は納得した 「ならば、給料が発生するのは、来年の3月からだな それまでは、毎日通ってもらって基本を教え込む 給料は、当面秘書として使うから、秘書の金額は払う。 それで良いかな?」 三木は、進藤の耳に秘書の給料の大体の金額を耳打ちした 進藤は……その金額に、えっ…と言う顔をした 進藤は、異存は有りません…それで良いです…と答えた 康太は微笑んで、進藤に良かったな…と、謂った 三木は康太に向き直ると 「康太、兵藤ん所の倅を育ててみたい くれないか?」と、唐突に訴えた 「兵藤に外飯を食えと?」 「あの不敵な面構えは、祖父を凌ぐ 側に置いて、育てて見たくなった」 「でも、アレはオレの持ちもんじゃねぇ 聞いてくるけど、美緒だからな。」 康太が言うと、三木も「美緒だからなぁ…」と唸った 「三木、従姉妹だろ?頼めば?」 「怖いから、やだ!」 三木はキッパリ言い切った 「解ったよ 美緒に聞いてみる それより、そろそろ選挙の動きを捉えたぞ」 「ならば、康太の懐刀に戦略を練って貰わねばな」 三木はそう言い笑った 康太は兵藤の事は聞いてみる…と、言いキリが着いたから帰る事にした 「またな、繁雄!」 「あぁ。良い返事を願ってるよ」 三木は康太に美緒を口説けと言っているみたいなもんだった 康太は肩を竦めて、事務所を後にした 車に乗り込むと、進藤は 「今日は、この後、お時間ありますか?」 と尋ねた 「時間はあるが、一生達を迎えに行かなきゃ行けねぇかんな 話し合いは一生達も同席になるが、良いか?」 「構いません 彼等は自分を弁えている お願いします。」 進藤は頭を下げた 「何処で話をする? 校内は…遠慮したいがな」 「承知しています 部屋を取ります。」 「今回はオレが部屋を取るとしょう ホテルへは別々に行った方が良いだろう? お前はまだ教師だしな オレは一生達を拾うと、ホテルに行って部屋を取っておく お前が来れば解るようにフロントに言っておけば良いだろ?」 「はい。では、そこへ槇原と共に向かいます。」 「ホテルニューグランドだ オレは着替えてから向かう お前も槇原を納得させて連れて来い。」 進藤は頷いた 桜林の駐車場に着くと、一生達は待っていた 進藤は「ではまた。」と言い車を下り 変わりに一生、聡一郎、隼人が車に乗った 一生達が車に乗ると、康太は 「家に帰ってスーツを着て、ホテルニューグランドへ行く お前達も行くか?」 「同席して良いのなら、着いて行く。」 一生が言うと、聡一郎も 「康太、帰りにファミレスでパフェを奢ってあげます。」 と、康太を甘やかし 隼人は「なら、オレ様はステーキを奢ってやるのだ。] と、各々が康太を労った 康太は嬉しそうに笑った 飛鳥井の家へ一旦帰り、スーツに着替えると、ホテルニューグランドへ向かった 着替えている間に、力哉はホテルに予約を入れ部屋を取った

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