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第37話 矯正①
康太は3日入院して、3日目の昼退院した
入院費は、総て兵藤美緒が支払って行った
退院した日、飛鳥井の家へ帰ると全員が待っていたい
何故なんだ!と驚いていたら、今日は日曜日で、撃たれた日から1週間ちょっと経っていた訳になる
応接間に入って来た康太に、隼人は抱き着いた
一生も、聡一郎も、力哉も瑛太も悠太も恵太も
……兵藤も、蒼太も矢野も、清四郎も、真矢も……
小百合も…戸浪も三木も、神野も小鳥遊も、来ていた
「どうしたんだよ?」
康太は皆に聞いた
戸浪が「ニュースで撃たれのは、兵藤貴史ではなく……
飛鳥井康太だと…流れておりましたので
瑛太さんに連絡を取りました
そしたら、今日お帰りになると聞きましたので、待っておりました。」と、説明した
康太は「心配かけたな。」と謝った
三木が「もう大丈夫なのかよ?」と、声をかけた
「あぁ。無理さえしなきゃ退院して良いって言われた。」
飛鳥井の家族は康太の帰宅を喜んだ
康太を取り巻く人間は、康太が生きていて安堵した
兵藤は、康太に抱き着いて泣いた……
「俺なんて庇うな……お前が撃たれる方が辛いだろ…」
震える肩を、康太は抱き締めてやった
そして体を離すと、康太は何時ものソファーに座った
そして足を組むと肘を置き笑った
「心配をかけて、本当に申し訳ねぇ
母ちゃん、皆をもてなしてやってくれ。」
康太が言うと、玲香はデリバリを頼みに行った
「貴史、本家に乗り込むぞ
その為にオレは帰ってきた
早目に片付けねば、お前の命が危ねぇかんな
オレはお前の果てを見届けてやる約束をした
死なれたら困るかんな
カタを着けてやる
繁雄も来い
美緒はお前に貴史を預けると約束した
お前は見届けろ、解ったな。」
康太が言うと三木は「あぁ、解った。」と了承した
戸浪は「御一緒して宜しいですか?」と声をかけて来た
「兵藤の本家だぞ
楽しい事はなんもねぇ」
「少なからず兵藤は、縁があります。
私の今の立場は飛鳥井康太の完全サポート
貴方を傷付ける者は、戸浪に仇成す者と見なす
許しておけません
私も見届けます
総ては貴方と共に…」
「ならば、一緒に行くと良い。」
康太は戸浪に、そう声をかけた
康太は家族の方へ行くと、一人ずつ抱き着いた
「母ちゃん、オレは行く」
と、呟くと玲香は頷いた
「父ちゃん、ごめんな。」
謝ると、父は静かに目を閉じた
「…じぃちゃん、カタは取らねぇとな」
源右衛門は頷き、康太の肩を叩いた
「瑛兄…心配ばかりかけてゴメンな」
瑛太は康太を何も言わず抱き締めた
「蒼兄、泣くな…矢野も泣くだろ」
蒼太も矢野も泣いていた
「恵兄…近いうちに……幸せにしてやんよ」
恵太は笑って、辛い試練の道を行く康太の姿を見守った
「悠太…聡一郎の言うことを聞け。」
悠太は泣きながら、康太に抱き着いた
一通り家族を抱き締めると、一生達の方へ行った
一生を抱き締め…康太は泣いた
そして、聡一郎、隼人を抱き締めた
「許せ…一生、聡一郎、隼人…。」
「ちゃんと帰って来い!
それで許してやるからよぉ!」
「当たり前だ
此処はオレの家だ
家族がいて、お前達がいる
今のはお前達に心配かけた詫びだ。」
康太は、立ち上がると清四郎の方へ行った
「清四郎さん、真矢さん、心配かけました」
康太は深々と頭を下げた
清四郎は、康太を抱き締めた
この子の生きる道は険しい
命を張って、明日を生きている
それを承知で……康太は動く
銃弾の前にだって……惜しみ無くその体を投げ出す
なぜそこまで……辛い道を選択するのか……
楽に生きれる道は沢山あるのに……
清四郎は、静かに泣いた
本当は一番辛いのは、康太なのに……
康太は一頻り挨拶をすると立ち上がった
「伊織、真贋の衣装を着てくる
着せてくれ。」
康太がそう言うと、榊原は立ち上がった
応接間を、二人で出て行く時
二人は深々と、皆に頭を下げた
裸にした康太の素肌に、白い襦袢を着せる
そして白い着物を着せ、裾を間繰り上げ
白い袴を履かせた
そして白い羽織を羽織らせ、扇子を入れてやる
榊原は、黒のスーツに身を包み支度をした
「伊織、これが終わったら……
お前の好きにしろ
オレもお前が欲しい……」
榊原は、康太を抱き締めると深い接吻をした
「離さない…離したくない…
君はどれだけ僕が心配したか…
解っていますか?」
榊原は、泣いていた
静かに涙を流していた
「許せ……伊織…これがオレだ。」
「解っています…そんな君を愛しているのだから…」
「伊織、共に…行ってくれ。」
「当たり前です!
置いてかれたらアウディで追いかけます」
康太は榊原の涙を拭いた
拭いて、その頬にキスをした
「愛してます。愛しくて堪らない…」
「愛してる…お前しか愛せない
オレの伴侶はこの世で一人
お前だけだ。」
「行きますか?
僕の康太を傷付けたカタは取らなければなりません。」
康太は嬉しそうに笑った
着替えて、応接間のドアを開けると康太は兵藤と三木と戸浪を呼んだ
「行くぞ!
美緒が動いて、本家に総て呼んである。」
三木と戸浪と一緒に兵藤が立ち上がると
飛鳥井の家族や一生達、清四郎達に、御辞儀をして、応接間を出た
康太は、飛鳥井の家族を見た
飛鳥井の人間は真贋の衣装を着た康太は見たくはないのだ……
背負うべきものが大きすぎるから
康太は、断ち切るかの様に……
背を向け、ドアを閉めた
玄関で草履を履き、駐車場まで歩くと戸浪達が待っていた
「誰の車で行くよ?」
三木が声をかけて来る
康太は笑い「美緒がバスをチャーターしてくてる」と答えた
暫くして、美緒が正装をして現れた
美緒は美しかった
兵藤の家紋が入った着物を着て、髪を結った姿は年よりかなり若く見えた
凛として胸を張る姿は、女優顔負けの美しさがあった
「待たせたな康太!さぁ乗るがよい!」
美緒はバスの扉を開けた
美緒は三木と戸浪を見て
「豪勢ではないか!」と笑った
康太はバスの入り口近くに乗った
その後ろに戸浪が、康太の横の座席には三木が乗った
美緒は息子と共に乗った
「康太、新潟まで、ぶっちぎりで行く
向こうには、一族総勢集めてある
心置きなくカタを取れ
我もカタを取る
康太を傷付ける奴など許しておけるものか!」
康太は静かに目を閉じた
榊原が…康太の指に…指を絡めた……
新潟の街に入ると、至る所に【兵藤】の看板を目にする
兵藤の家が如何に地元に根付き名家として君臨しているか‥‥伺い知れた
そして街並みを縫って走ると……
城と間違える建物が一際目立って聳え立っていた
康太はその建物を見て、趣味が悪い…と呟いた
城を型どるから、争いを呼ぶのだ
戦国に生きた建物を再現するには、一族に乱世を呼ぶようなものだ
普通の人間は建てない
「美緒、戦国の世が、そこに在るな。」
康太が呟くと
美緒は
「乱世に生きるは、役者がもの足りぬ
今の兵藤は、もぬけの殻だ
丈一郎の様な強者なんぞおらぬ!」とキッパリ言い捨てた
「いるじゃん。そこに。」
康太は兵藤を、指差した
「兵藤貴史は、祖父 兵藤丈一郎の気質を受け持って生まれている。」
「だが、我はあの家にはやらん。」
「貴史は、彼処の器では収まらねぇ
天の邪鬼だからな、祖父と同じはならねぇよ」
バスは兵藤のお屋敷の坂を登って行く
そして、兵藤の本家の前に停まった
バスを降りる美緒に、使用人は頭を下げ迎える
美緒はさっさと歩いて行った
康太達は、美緒の後に続いて歩いた
玄関に向かうと、靴を脱いで上がった
そして果てなく続く長い廊下を歩いた
廊下の突き当たりに、大広間があり、美緒が近寄ると、襖が開いた
美緒は広間にスタスタと入ると、上座に座る人間の前に、膝を着き頭を下げた
「昭一郎の妻、美緒に御座います。」
兵藤もその横に膝を着き、頭を下げた
美緒は振り替えると、
「康太、此方が兵藤善太郎
兵藤家の御当主に御座います。」
兵藤の本家には会釈程度の、お辞儀で
康太には深々と頭を下げた
美緒の態度に、善太郎は、美緒に尋ねた
「その方は、何方なのですか?」と。
美緒は唇の端を吊り上げて笑うと
「飛鳥井家の真贋、飛鳥井康太様に御座います。」
と、本家の当主に康太を紹介した
善太郎は、驚愕した瞳で康太を見た
こんな子供が……飛鳥井家の真贋?
康太は善太郎に頭すら下げる気はなかった
体は小さいが、威圧的な態度に……
その場にいた人間は言葉を失った
「御当主、我が兵藤の一族の人間が、貴史を暗殺しょうと、我が家に殺し屋を差し向けたので御座います
貴史と真贋は学友
真贋は、我が身を捨て貴史を救って下さいました
銃弾に倒れたのは真贋でした
飛鳥井の真贋を殺そうとした事実は消えません
飛鳥井家の真贋と言えば、天皇家にも深い繋がりもある
政界、財界、飛鳥井康太の為ならば、動く人間は数知れず
兵藤はそんな凄い方を敵に回したも同然の事をしたのです!
私も三木の家に働きかけ、真贋を狙った犯人は捕まえさせました!
我等は跡目も、名前も要りはしません
このカタはキッチリ着けさせて戴きます
今日はそのご報告に参ったけの事に御座います」
美緒は立ち上がると、総代に背を向けた
飛鳥井家の真贋と聞き、誰一人康太の瞳を……まともに見れる人間はいなかった
飛鳥井の真贋の事は、兵藤本家の人間だって知っている
美緒は冷酷に嗤うと
「名家と持て囃され
城暮らしなんぞするから、堕ちるのだ」
と、吐き捨てた
一族の者は美緒に「無礼であるぞ!」と謂い放った
「笑止!ハイエナ共は吠えるしか脳がない!」
と一蹴した
善太郎は、美緒に詳しく話してくれ…と、頼んだ
美緒は、総代に、それは詳しく教えてやった
「兵藤一族は貴方の跡を継ぐ為に、殺し合いを始めたのです!
財産欲しさに、跡目争いが勃発した
我の息子、貴史は跡目争いには参加するとは言ってはおりませんでしたよね?御当主。
なのに何故、我の息子は亡き者にされなけば、いけなかったのですか?
貴史を殺そうとしたのは兵藤悦史の親族
彼に跡目を取らせたいばかりに、貴史を亡きものにしょうとした。
暗殺者は捕まりました
後は、どの親族が捕まるの
どの道、警視総監は我の叔父
飛鳥井家の真贋を傷付けてタダで済むとは思うなよ!
そう想う人間がこの場に二人
真贋の後に控えるは衆議院議員、三木繁雄様
そしてトナミ海運社長、戸浪海里様です
総代、どうします?
彼等の様に真贋の為なら、動く人間は数知れずおりますのよ。
彼等を敵に回しますか?」
美緒は悦史の親族を見て、総代を見て
「真贋に、詫びるが筋で有ろうが!」
厳しい口調で毅然と言い捨てた
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