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第40話 共に在ろう
瑛太が、綾香と一生、慎一を連れて行くと、康太は息を吐き出した
そして、疲れた……と、榊原の膝の上で横になった
榊原は、康太を抱き上げると、聡一郎と隼人に声をかけた
「聡一郎、隼人、部屋に行って、一緒に雑魚寝しましょ。」
榊原が言うと、聡一郎と隼人は一緒に着いて行った
応接間を出る時、聡一郎はクーラーを停止させ、電気を切った
そして、3階の康太と榊原の寝室に行き、四人で雑魚寝した
何時しか……四人は眠り……
携帯が鳴り響き……起こされた
康太の携帯を榊原が出ると、電話の相手は一生だった
「何処にいる?」
一生は問い掛けた
榊原は「3階の寝室にいます。」と告げた
なら行く。と、一生は電話を切ると榊原も電話を切り、部屋の電気をリモコンでつけた
暫くすると寝室がノックされた
榊原は「空いてますよ。」と告げた
すると、ドアを開け一生と慎一が入って来た
一生の目の前には四人で寝ても余裕のベットに雑魚寝する姿があった
榊原は、康太に声をかけ起こした
すると康太の手が榊原の首に伸び……
その様が……情事を伺わせ淫靡だった
榊原は康太を引っ付けたまま起き上がり
リビングの方へと、一生達を行かせた
あまり……寝室を見られたくはなかったから
榊原は、康太を引っ付けたままソファーに座った
一生と慎一も、ソファーに座った
榊原は、一生に声をかけた
「お母さんの具合はどうでした?」
一生は「康太の言う通り子宮癌だった 」と答えた
康太は榊原に抱き着いたまま、一生に
「心配するな
瑛兄が、最高権威の医者にお前の母親を見せた。」
と、声をかけた
「ありがとう康太。」
「一生、お前の兄は、この家では暮らせない
オレとの所縁の無き者は、飛鳥井には住めぬ
オレは真贋として、それを違える訳にはいかぬ。」
康太は榊原から離れ、一生を見た
康太の顔は…… 真贋の掟を守る飛鳥井の番人になっていた
「だが、一般の生活を知らぬお前を放り出せぬ
だから、頼んでおいた
慎一、お前は一人で暮らしたら……やはり堕ちないか心配 が抜けねぇ。だから来い。」
康太の足首の鎖がシャランと音を立てる
康太は立ち上がり、慎一に手を差し出した
慎一は……康太の手を取った
康太は伸一の手を取り……歩き出した
行き先は、飛鳥井源右衛門の部屋
途中で力哉に逢う
力哉は、何故康太が、一生の手を引いているか……凝視した
そして、その後ろを歩く一生を目にして、驚いた
「力哉、一生の兄の慎一だ
気にかけてやってくれ。」
「康太、僕は一生に兄がいるなんて知りませんでした
夜中まで一緒に仕事してますが、聞いた事すら有りません。」
力哉が拗ねる
「力哉、一生も今日逢ったんだ、仕方がない。怒ってるか?」
力哉は首をふった
そして力哉は、慎一に抱き着いた
「一生と、同じ臭いがする。
やっぱ兄弟なんですね。」
康太は嬉しそうに笑う力哉に
「お前、面倒見るか?」と聞いてみた
源右衛門より、適材かも知れない
康太は力哉を自室に来いと言い、降りてきた階段を上がった
そしてリビングに座らせると、一生にジュースでも入れろ…と頼んだ
寝室から聡一郎と隼人が起きて来た
隼人は康太に抱き着いた
「康太、目が醒めたらいないから、淋しかった」
康太は笑って隼人を撫でた
聡一郎は、康太の頬にキスをして、隼人を剥がした
隼人は慎一に興味を持ち、膝に座った
慎一は……人の温もりに驚いて…
そして、隼人の温もりに慣れようと……必死だった
康太は笑って、慎一に声をかけた
「此処にいる人間は飛鳥井の真贋の為なら
その命を差し出してくれる人間ばかりだ
だから、オレは仲間の為なら、この命を差し出してやるんだ
無くせない存在、それは此処にいる伴侶と、仲間だからな。
お前も、無くせない存在や大切な温もりを見付けろ。」
康太はそう言い、慎一の頭を撫でた
慎一は、康太に本音を漏らした
「何か羨ましいな一生が……」……と。
「お前が思う程、オレの側に居るのは楽じゃない
その命は、オレと共に有るのだからな。」
康太は榊原の膝に乗り、抱き着いた
服をだらしなくはだけ……見える跡は…
一生はジュースを入れて、康太の前に置くと、次々にジュースを置いた
「康太、ジュース飲まないんですか?」
康太は榊原の上から降りるとジュースを飲んだ
「清四郎さんが瑛兄と一緒に帰ってきた」
康太は飲み干したコップをテーブルに置くと、走り出した
榊原は、立ち上がると、片付け始めた
そして、寝室の電気を消すと鍵をかけた
「行きますか?」
榊原が声をかけると、一生達は立ち上がった
一生はコップを流しに入れると、テーブルを拭いた
そして、榊原と共に部屋を出て逝った
榊原達が一階に降りて行くと、康太は瑛太に抱き上げられていた
「瑛兄、今日は無理させて悪かった。」
と、瑛太の首に腕を回し謝った
瑛太は笑って
「構いませんよ。兄は康太には激甘ですから。
オネダリされると、聞かない訳にはいかないんですよ。」
と、頬にキスを贈った
康太は瑛太の腕から降りると、清四郎に、ようこそ。と出迎えた
康太の腰を榊原の腕が巻き付くと、康太はその腕に擦り寄った
一生が、応接間を開いて清四郎を招き入れる
榊原は、康太と共に何時ものソファーに座った
瑛太は康太に清四郎と共に来た理由を話した
「清四郎さんには、図面が出来たので見に来て戴いた
図面から、部屋のイメージをお見せして、建設現場を見てから、帰ってきたんです。」
と、絵図が大分出来上がって来たことを康太に告げた
康太は清四郎の顔を優しい瞳で見ていた
「清四郎さん、真矢さんの体調はどうですか?」
「少しは、良くなって来てるよ。」
「先日は、本当にすみませんでした。」
康太が謝ると、瑛太が何か有りましたか?と、清四郎に声をかけた
清四郎は瑛太の耳元に顔を近づけると、先日の夜の話をした
そして、清四郎にすみませんでした…と、謝った
誰よりも康太の潔癖症の部分を理解していたから……
清四郎は、康太に
「その一生に酷似した方は誰なんですか?」と尋ねた
康太は、清四郎に一生の兄だと話した
そして、慎一の生い立ちを……話した
すると……瑛太も清四郎も涙を流していた
「当面、飛鳥井の家に置く。
そして知識が着いてきたら、どうしょうか……思案中
唯1つ言える事は、飛鳥井の家の為に成らねば、置けないと言う事は確かだ
まぁ本人次第だ。」
清四郎は、康太に銃創孔はどうなりました?と、尋ねた
康太は惜しみもなく上着を脱ぐと……キスマークの散らばった体を見せた
そして、左の肩を指差して
「銃創だからな…跡は残った……」と、告げた
康太の体にはキスマークの他に、首のネックレスが光輝いていた
そして、乳首とヘソのピアスも……
それらの貴金属に紛れて、紅く散らばるキスマークが淫猥だった
榊原が、康太の服を着せる
その長い指が、康太の釦をかう
康太は服を着せてもらうと、清四郎に
「今日は泊まりますか?」と尋ねた
「嫌、今日は、これからロケ先まで行かねばならないんだよ
また今度泊まるよ。」
と、笑い、康太を抱き締め、清四郎は帰って行った
瑛太も部屋に戻り、応接間には康太達だけとなった
「力哉、さっき清四郎さんに話したように、慎一はまともに勉強も出来ない
お前が引き取って教えてくれないか?」
「えっ……僕ですか?何故?」
「お前は、慎一の気持ちが誰よりも解る
違うか?
慎一は一生と共にサラブレッドを作る
兄弟手を取り、成し遂げるだろう
力哉は、その手助けをしてくれ……何時かはオレに還る為に…助けてやってくれ 」
康太に言われ、力哉は頷いた
「解りました
慎一の面倒を見ます。
でも、慎一と一緒に暮らすのは……
恥ずかしいです。」
「でも、お前はあの顔が好きだろ?」
康太に言われ力哉は顔を赤らめた
「好みですけど…側にいるのは恥ずかしいです。」
「一生は平気なのに?」
「一生は慣れました
しかも、一生に抱いていた感情は好きではなく、弟みたいに愛しいでした。
僕は年下の弟と言うのがいなかったから、ドキドキしただけでした。」
「ならば慎一にも馴れろ。」
康太は笑って言った
「でも……康太、同居は恥ずかしいです。」
「心配するな
今夜は一生が一緒に寝る。」
康太はそう言い、一生に良いか?と聞いた
一生は頷いた
自分の肉親だし、康太に迷惑かけるのは筋違いだから…
「ずっと一緒でも良い
飛鳥井に迷惑かけられないからな。」
一生は康太にそう言うと、康太は首をふった
「それは、無理だろ?
お前の心の闇は深い
オレが付けだ傷だ……
未だに血を流し……お前は苦しんでる……
夜は寝る為に有るのに…お前は寝ないだろ?
朝方…気絶して、聡一郎に、起こされて…
オレが知らないと思ったか……」
康太は慎一に向き直ると、重い口を開いた
「慎一、お前は一生と共に生きるなら、知っておく必要がある
お前は一生の悲しみを知れ……」
康太は、そう前置きして話し出した
悪さしてセックスはスポーツと、言う無節操な男が、生まれて初めて愛を知り、惚れた女がいた事を………。
そして、その愛は実らず…
一生は、我が子を康太に取られ、父親と名乗れぬ贖罪をする事を……
慎一は……一生の背負う罪の重さに泣いた
「何故?何故…結ばれない?
なぜ子供まで取られて……
それでも、共に歩むのは……何故?
俺には理解出来ない……」
呟く慎一に康太は、言葉を放った
「理解出来ないのは、当たり前だ
人にはそれぞれ、考えや思考がある
だが、一生が父親の牧場を守る為に、飛鳥井康太から託された牧場を守る為に、手放した想いは否定するな
トナミ海運の手によれば、一瞬にして潰される…それが現実だった
そして一生は愛を手放した
親父の夢の為に……
オレの想いに報いる為に……
理解は出来なくて良い……
だが否定はするな。
一生の、想いを否定する事になるんだぞ。
それはオレは許さない
絶対に許さねぇ」
康太の言葉に、その場にいる皆が、慎一を睨んだ
一生は、慎一に
「オレは康太がいたから、今生きている
誰よりも傷付き悲しんだのは俺じゃない…
康太だ!
康太が俺の子供も哀しみも総て引き受けてくれたから…
俺は今も生きている
でなかったら、ハワイの地で俺は死んでいた
総ては康太がいたから……。
オレの子が来年…康太に引き取られる
そしたら俺は、康太の子を見守る決意をした
康太の四人の子供と共に生きていく
それが俺が出した結論だ
康太の子供に余分な事を言えば俺はお前を殺す。
康太の苦しみや辛さは……
俺達が想像なんか出来ない程の重みだ!
俺はその荷物を一緒に持つ
此処にいる皆も想いは1つ!
飛鳥井康太と共に生きる!
それだけだ
康太が死ぬ時、俺等は共に行く。
康太が向かう所、俺等は共に行く。
共にあらん事を願い、俺は生きている。
それが理解できねぇのなら、出て行け!」
と言い放った
力哉は、慎一を庇うように前に出た
「慎一は来たばかり
解れと言う方が無理でしょ!
僕が教えます
康太が拾ってくれた僕が解ったんです
慎一だって、解る筈です
慎一は、僕に託されたんです!
一生は口を出すな!」
力哉は怒っていた
康太は力哉を抱き締めてやる
「力哉、一生の想いはオレの為。
共に生きると決めた日から、一生の一番はオレにある。
許してやれ力哉。」
「僕の一番も康太にあります
その康太に託された慎一を、一生に殺されたくはないんです。」
「一生は、解ってる
解っててやるんだよ
アイツはガキだから。」
康太が言うと、一生は唇を尖らせた
「康太は俺には冷たい
俺は何時も康太の為に生きてんのにさ
勝手に銃の前に飛び出すし、勝手に修行に行っちまうし……」
榊原は、一生を抱き締めた
聡一郎も隼人も一生を抱き締める
「そんなデカい身体でイジケるんじゃありません
可愛くて仕方がなくなるでしょ。」
榊原は、そう言い、一生の頬にキスをした
聡一郎は唇にキスを贈り、隼人は瞼にキスを落とした
力哉は康太の手から抜け出し、一生に抱き着いた
「一生、お兄ちゃんが甘えさせてあげますから、イジケないの。」
そう言い、唇にキスした
そして慎一も引き寄せ、唇にキスして、抱き締めた
慎一は……一生は、こうして……苦しみも悲しみも乗り越えて生きているんだと知った
そして、それを束ねているのは、飛鳥井康太、その人だと……
優しい温もりに餓えた人間が、抱き締め合い、励まし合い、支え合い、生きている
傷を癒すべく……差し出される腕に…慎一は泣いた
トメドなく涙が溢れだし……止まらなかった
こんな事は……生きてきて一度もない経験だった
「一生、腹減った。」
康太が言うと、一生は立ち上がりキッチンを覗いた
オカズらしきものを発見し、康太達を呼びに行った
「一生、沢庵あったか?」
「おう。後で切ってやるから来い。」
康太はそう聞くと立ち上がりキッチンへと走る
榊原は、クスッと笑い、康太の後を追った
食卓に着くと、悠太が現れ、康太の食事の支度を一生と、共にする
聡一郎は慎一に食器を並べなさい!と命令した
「悠太、お前はもう食ったのか?」
康太が聞くと、悠太は康太に抱き着き甘えた
「瑛兄が、康兄と一緒に食えって言って食わしてくんなかったんだ。」
康太は悠太を撫で、慎一に「オレの弟だ。」と紹介した
悠太は康太を離すと、背筋を伸ばし、御辞儀した
「飛鳥井悠太です。」と。
どう見ても……兄の様な身長と顔してるんだが…
「康兄、玉露入れるから待っててね。」
悠太が笑う
そうしていると、悠太は弟に見えるから不思議だった
康太の為に玉露を入れる弟の悠太
康太の口に沢庵を入れ、嬉しそうに笑う榊原
康太のご飯の支度をする一生
食卓を囲み、一緒に食事をして、笑ったり泣いたり、忙しい
慎一は、思う
この家は飛鳥井家
飛鳥井康太こそ、この家の住人で
康太の側に集まり……生きる人間がいた
そして康太の伴侶がいた
飛鳥井康太のいる場所に集まり暮らしている
不思議な生活空間だった
傷を持つ人間を再生し、自分に還す
それが目の前にいる…飛鳥井康太なのだと思う
ならば、この場所にいたいと思った
それには努力しなければ居られない
自分の手で掴まなければ……居られない場所
それが、飛鳥井康太のいる場所
なのだと、痛感した
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