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第42話 泡沫の夢
病院の、駐車場には黒塗りのベンツが停まっていた
康太は榊原に片手を上げると、そのベンツに乗り込んだ
黒塗りのベンツは康太を乗せ……走り過ぎた
榊原は……その車が見えなくなるまで……
車を見送り
アウディに乗り込み、飛鳥井建設に向かった
黒塗りのベンツの運転をするのは、九頭竜遼一の兄、海斗
彼は暴力団の若頭をしていた
グレて、極道街道まっしぐらの遼一を拾い、仕事に着けたのは康太だった
対立する暴走族の頭が遼一で、手の着けられない不良だった
それを潰し、矯正して、軌道修正して、働かせた
海斗は、自分が極道でも弟には、全うな人生を送って欲しかった
暴走族から足を洗い、飛鳥井建設に就職した……と、聞いた日には、信じられなくて泣いた
康太は、遼一の兄に就職を告げる時に同行して、逢っていた
極道者の海斗に臆することなく、康太は接して来て、海斗は康太を気に入った
以来の付き合いで、康太は最初から、昔からの友の様な感じで、気さくに気軽に話てくれる唯一の存在となり……
今でも月に一回は食事をしていた
極道でもなく、一人の人間に戻れる瞬間を、康太はくれた
遼一から、康太は飛鳥井家の真贋と聞いた
極道の世界にでも、飛鳥井家の真贋は、名を馳せ、知っている人は多かった
海斗は康太の背負うモノに、果てしなく重みを感じ、何か力になりたかった
海斗は康太に、何かあったら言えと告げた
力になれる日があるのなら、力になると……。
そして、それが、この日になった
九頭竜海斗は、まずは自分の組に行き、組長に康太を逢わせる
話は通してある
動くのは許可も取った
組長は一度康太に逢わせろ、と言った
天王寺一弥
康太は天王寺の組長に逢い、天王寺と共に、関東随一の組 勢和会へ向かう
天王寺組長の家へ着くと、舎弟が出て来て、出迎えた
康太の乗るベンツのドアを開けると、舎弟が頭を下げてた
康太は臆する事なく、九頭竜と共に車から降り歩き出した
毅然と前を向いて歩く康太に、次々と舎弟が頭を下げる
康太は玄関に行き、靴を脱ぐと、長い廊下を歩いた
康太が部屋に入ると………天王寺一弥が康太に銃口を向けた
後ろに控える、舎弟も……康太に銃口を向けた
康太は表情1つ変えず、その場に立っていた
覚悟を決めた人間でもビビる
なのに、康太は、顔色1つ変えず、歩き出すと、テーブルの前に座った
天王寺は銃を仕舞うと、笑った
「流石は飛鳥井の真贋
源右衛門と代替えしたのが、えらい若いから、少し試した。」
康太は天王寺に顔を向けると嗤った
「銃が怖くて、銃弾の前に体を投げ出せはせん
それにオレを殺す気なら、安全装置を外せ。」
康太はそう言い、お茶を啜った
天王寺は康太に頭を下げた
「試して悪かった。」
「試して、オレを見たければ見ろ
オレはお前に動いてもらう
文句は言わん。」
「命を懸けて来たか?」
「オレは何時も動く時は、命を懸けている。」
「お前を見れば、見た奴は欲する
源右衛門の言う通りだな。」
「世間話は良い。
オレは飛鳥井建設に、謂われもない言い掛かりを着ける、勢和会とカタを着けねばならん。
早く連れて行け。」
康太が言うと、天王寺は
「向こうとは、お前が来ると言う前に話し合った
向こうの組長は知らなかったみたいだな。
これから連れて行く。
唯、話し合いではない
詫びだ。俺が動く前に誰かが動いた。」
「誰だ?」
「それも、向こうで聞け
俺は解らねぇ。」
天王寺は康太の顎を上げると、顔をまじまじと眺めた
「惚れてしまいそうだ
俺のモノにならねぇか?」
「無理だ。オレには伴侶がいる。
愛する男がオレにはいる
他のモノにはならん。」
「お前に片想いしてる奴は数知れずいるんだろうな
だが、この瞳には、伴侶しか写さんか……」
「お前には恋女房がおるではないか。
口説く必要もないのに口説くのは何故だ?
此処で足止めする必要は何だ?」
「流石は飛鳥井の真贋。
だが、お前の瞳に惚れそうと言うのは本心だそ。」
海斗が天王寺に耳打ちすると、天王寺は立ち上がった
「向こうで処刑があった。
お前にそれは、見せたくなかった……
幾ら銃口に平気でも、処刑は見せられなかった。すまねぇ。」
「ありがとう。」
康太は子供みたいな顔をして笑った
天王寺は、目を背けた
見たら欲しくなるから……
康太は天王寺の車の後部座席に、天王寺と共に座った
康太は、その瞳を閉じた
「康太、極道の世界も生き難くなって来た
それでも、俺等は極道の世界で生きていかねばならねぇ。」
「お前は生粋の極道
他の道へは進めん。」
「それでもな……他になりたかった……想いはあった。」
「選んだ時点でお前は修羅の道を行く定め
オレは果てを見た時点で、修羅の道を行く定め
他の道はねぇんだよ。」
「相変わらずだな。」
「オレに銃口向ける奴には、冷てぇんだよ」
天王寺は笑った
勢和会の本部の前に着くと、車が停まった
組の者が、頭を下げ、車のドアを開けた
康太は車から降りると、組員が頭を下げる中を、歩き出した
天王寺がエスコートする中、康太は毅然と歩いた
勢和会の組長が康太を待ち受ける
組長は康太の姿を見ると、頭を下げた
そして、本宅の中へと招かれた
組長は、謂れもないクレームを入れ、飛鳥井建設を脅していた輩は処刑したと告げた
今後、一切、飛鳥井建設には手は出さないと、約束した
「誰が動いて、この様な話になったのか、知りたいのだが……」
と、康太が尋ねると
組長は「弥勒と言う呪術師はご存知ですか?」
と、逆に尋ねられた
「知っている。」
「彼が会長と懇意にしていて、会長を動かしたんですよ
会長の言葉に……逆らえはしません
弥勒は言った
飛鳥井建設に災いをもたらせば呪い殺すと……
飛鳥井康太に銃口を向ければ、その場で殺す……と。
今後、飛鳥井には手出しはしません。
また、飛鳥井に手出しをする輩が現れたら始末します。」
と、頭を下げられた
「ならば、オレは帰る
飛鳥井に手出しをしないなら、この場にいる必要もない。」
康太は立ち上がった
すると、組長が送って行きます…と、申し出た
康太は断った
話が着いたなら、九頭竜海斗に乗せて貰って帰るつもりだったから……
組長は「そう言う訳には行かないのですよ
貴方をお連れする様に会長に言われている
貴方を連れていかねば、この話は終わらない。さぁ一緒に来て下さい
そして、天王寺の方はお帰り下さい。」と告げた
康太は「ならば、連れて行け……」と、諦めた
天王寺は「飛鳥井康太に何かあれば、戦争は避けられぬ!それを頭に入れておけ!」と、組長に迫った
「飛鳥井康太に何かあれば、あの呪術師は間違いなく、殺すでしょう
そんな裏に厄介な人間を連れているのに、何かある筈がない。
覇道を詠んで、今も見てると言うのに、下手な事さえ言えぬわ!」
と組長は天王寺に食って掛かった
弥勒なら容易いだろう……だが、人を呪い殺せば……弥勒とて無傷では済まない
弥勒は……呪い殺したのか?
康太は弥勒に想いを馳せた
辛い修行時代を共に生きた
その当時の弥勒は傲っていた
弥勒厳正の息子と言う立場と、抜群の才能に怖いもの知らずだった
そんな弥勒に人の命の重さを……
自分の命をかけて思い知らせたのは康太だった
山を降りる時…プロポーズされた
断ると……未来永劫、お前を一番に愛する
と、告げられた
昔から……想うのは得意だ……
これからも想うのは許せ……
そう言って康太の傍にいてくれた
康太は、組長の車に乗った
天王寺一弥と、九頭竜海斗がそれを見送った
車の中で、康太は目を閉じていた
組長は、その姿を見て、そっと息を吐き出した
見詰められたら……果てまで見抜かれる
そんな瞳では見られたくなどないのだ…
康太は何も言わず…
愛する男、榊原伊織に想いを馳せる
あの愛する男は……胸が張り裂けんばかりの想いを抱いて……
康太の代理を務めている
手が止まれば……想うのは1つ
だから、夢中で仕事に集中して……忘れようとしている
そして瑛太も……ベットの上で……想う気持ちは1つだった
一生も、聡一郎も、隼人も、想う心は1つ
生きてまた、飛鳥井康太に逢いたい……
その想いだけだった
榊原は、副社長室で、瑛太の仕事を片付けていた
副社長のサインや決済が要るものには手は着けられないが、そうでない仕事を佐伯が振り分け、榊原に渡した
榊原は、桜林の執行部の部長をしているだけあって、賢い
叩き込めば一年もしないうちに、瑛太の仕事が出来そうな勢いだった
副社長室がノックされるたびに、榊原はドアを見る
だが、康太は現れない
心配して、玲香や清隆……恵太が顔を出しては、そこに瑛太がいて、仕事しているみたいな錯覚に陥る程……
榊原は一心不乱に仕事をしていた
佐伯は玲香に
「副社長が乗り移った見たいで……本人と錯覚します…」と、玲香に溢す程だった
康太は勢和会の会長の邸宅に送り届けられた
組長は会長に康太を引き渡すと帰って行った
康太は会長に、家の中へ案内された
そして、応接室へ案内されると
弥勒高徳が、そこにいた
何時ものTシャツにジーパンでなく、スーツに身を包んだ、弥勒がいた
「よぉ康太、命を繋げてやった感想は?」
「弥勒……お前、呪い殺したのか?」
康太が心配する
弥勒はまさか………と、答えた
「この世に踏み留まれなくなれば、俺はお前の見れぬ世界に逝かねばならぬ
それはせんよ…康太
俺にお前を見る事までは取り上げないでくれ……」
「何故!オレの知らぬうちに動く!
何故!その身を危険に晒す!」
康太は怒っていた
弥勒も怒っていた。
弥勒は康太を睨み
「お前は、その身を危険に晒さなかったか?
今回にしても、何故命をかけて、来た?
下手したら……お前は消されていた……
そんな世界に……何故お前は来るのだ!」
「この命、投げ出しても、オレは飛鳥井の家の為に動かねばならぬ!」
「お前が死ねば、死体が山程出る!
お前は自分の命の重さを知っていない!」
「それでも!だ。弥勒
オレの生きる存在理由は飛鳥井の家の為だ
違えは出来ぬ。」
「お前の命を救ったのは俺だ
俺にお前を抱かせろ!と、言ったら?」
弥勒は康太に、問い掛けた
「オレの総ては伴侶と共にある
総てはやれん
体だけ欲しいなら、くれてやる。抱け。」
康太は言い捨てた
「誠……食えん奴よの。康太。
だが、俺はこのチャンスを逃しはしない。
全部はやらんよ
だが、抱き締めさせて、お前の精をオレにくれ。」
「好きにしろ。」
康太は、覚悟を決めていた
弥勒は康太を持ち上げると、会長に向き直った
「会長、世話になったな。このお礼、何時か返す。」
会長は弥勒に「楽しみにしてるよ。」と、言い、弥勒を見送った
弥勒は後は見向きもせず、歩いた
そして、邸宅の前に呼んだハイヤーに乗り込み、近くのパシフィックホテルへ向かった
弥勒はホテルの一室に康太を連れ込むと
ベッドの前で康太を下ろした
そして、部屋に結界を張り巡らした
何層にも張り巡らした結界の中に康太を置くと、抱き締めた
「この事は伴侶には、内緒にしてくれ。」
「元より言えはせん。」
「夢だと思う。一瞬の夢を俺に魅せてくれ。」
「好きにしろと、オレは言った……」
弥勒は康太を抱き締めた
抱き締め…服を脱がせた
露になった……康太の素肌には、榊原の付けた跡が散らばっていた
弥勒は服を脱ぐと……素肌の康太を抱き締めた
欲しかった体が……そこにあった
弥勒のぺニスは勃起していた
弥勒は康太の体を舐めた
そして、ぺニスを口に含んだ
精をくれと弥勒は言った……
康太の体は……勃起すらしていなかった
「お前の体に跡は着けぬ
お前の精だけが俺は欲しい
飲んでみたいのだ
ずっと夢見ておった‥‥一時の夢を見せてくれ
これは夢だ康太
泡沫の夢を俺に見せてくれ」
弥勒は康太の唇に……唇を重ねた
「オレは伴侶でしかイケぬ
どうしても……と言うなら
仕方あるまい。指を出せ。」
康太は弥勒の指を舐めると、自らの秘孔に指を差し込んだ
榊原の指だと……思う
そして、イイ場所を掻くようにねだった
「そこの、少し奥を、引っ掻いて…そしたら勃つから……」
弥勒の指が……康太の腸壁を掻く……
すると、康太の性器は勃ち上がり…震えた
弥勒はその肉棒に食らいついた
舐めて……後ろを刺激して……康太はイッた
弥勒は康太の精液を総て飲むと…口をぬぐった
そして康太の体を抱き締めると、康太の股の間に弥勒の性器を挟み、弥勒は腰を揺すった
そしてイク瞬間、性器を掴むと……康太の体に飛ばした
弥勒の精子を飛ばされた康太は妖艶だった
弥勒は康太を抱き締めた
弥勒は康太を抱き締め……離さなかった
「子が産まれる。俺は父になる。
区切りを着けたかった……」
「区切りは着いたか?
いっそ、オレなど切り捨てて、忘れろ」
「それは、無理だわ
余計無理になった
無理矢理でもお前の精を飲めば、諦められると……思ったんだがな、未練が募った
こんな筈じゃあなかったのに……
お前に嫌われても、一度……その体を抱き、精を飲みたかった
そうすれば、長かった想いに区切りが着けれると想ったが……甘かった
罪を重ねただけだった……愚かだな俺は‥‥」
康太は弥勒を抱き締めてやった……夢だから
夢ならば……せめて泡沫の夢を見させてやろう
「弥勒、お前の夢の中だ
オレの中へは許せぬが、お前の望む事をしろ
オレの中は夢でも現実でも、許すのは唯一人。許しはしない」
康太は弥勒に妖艶な瞳を送った
そして、体を起こすと、弥勒の唇に接吻した
康太の舌が、弥勒の中で、絡み合い……犯す
そして、唇を離すと、弥勒の体に愛撫を贈った
康太の舌が……弥勒の体を這う
そして……弥勒の性器を康太は口に含んだ
舐めて……袋を揉み……擦る
弥勒は、康太の唇から抜くと……康太の顔に精液を飛ばした
慌てて弥勒が、シーツで拭く
「ありがとな。康太
本当にありがとう。」
「お前の精が尽きるまで付き合ってやる。
どうせこれは、お前の夢だからな。」
康太は笑った
弥勒は康太の体を舐めた。
舐めない所はない位……舐めて、イッた
康太の秘孔を捲ると、紅い腸壁が蠢いていた
弥勒はその中に舌を入れ……味わった
そして浴室で康太の体を洗った
石鹸の臭いがすれば、疑われる
だから、湯で流し、康太を洗った
そして、康太の服を着せ、康太の香水をふりかけた
弥勒も服を着ると、最後に一度康太を抱き締めた
「夢だ。これは、夢だ康太
俺の夢だ康太。」
だから、お前は苦しむな……と、弥勒は言った
「弥勒、飛鳥井を救ってくれて、ありがとう
オレは今日、死ぬ気だった。
オレを救ったお前が夢を見た
オレはお前に恩を返した
それだけだ。オレ達は変わらない
今までも、これからも
そうだろ?弥勒。」
「あぁ。変わらない
俺の心に根付いた康太の想いは深くなったけどな…。
区切りどころか、未練が残った。」
「次はない。次に手を出せばオレは死ぬ!」
「俺は父になる
区切りだと言わなかったか?
もう二度とお前を手にはせん。
だが、想うのは否定しないでくれ。
お前を愛するのだけは……
否定しないでくれ。」
「お前の想いまでは……オレの知るところではないわ。」
康太はそう言い笑った
「康太、お前は先に出て行け
俺はこの結界を切って行く。」
「ならな。弥勒、またな。」
康太はそう言い、弥勒にキスを贈った
そして体を離すと、弥勒に背を向けた
弥勒は……その背を……涙で歪んだ瞳で見送った
愛している……
遥か‥‥‥昔も今も‥‥
この世で……ただ一人
お前だけを、愛している
一生に一度の夢を見たかったのだ……
父になる日を、切っ掛けに、断ち切りたかったのかも知れない
愛しさだけが募り、壊れそうだった
そこへ、康太が撃たれた
弥勒は……死ぬ前に、生身の康太に触れたかった……
触れれば……やはり忘れられぬ人になり
想いは募った
弥勒は静かに目を閉じた
康太は……ホテルの外に出ると、タクシーを拾った
そして、瑛太の入院している病院へと、向かった
榊原以外の男に触れた体で、逢える程……
康太は、厚顔無恥ではなかった
タクシーが病院で止まると、康太は料金を払い、下りた
そして、瑛太の病院へと向かい、病室の前で、深呼吸をしノックした
ドアを開けると、瑛太は起きていた
泣きそうな康太の顔を見ると、瑛太は康太の名を呼んだ
「康太……おいで
兄がお前の異変に気付かぬと思ったか?」
瑛太は両手を開き、康太を呼んだ
康太は兄の腕に吸い寄せられる様に、その腕に収まった
瑛太は、一生達に
「二人きりにしてはくれぬか?
また伊織には連絡しないでやってくれ
康太の話を聞いた後で、判断する。」
と、言うと、一生達は了承して、病室を出て行った
康太は瑛太の耳元で話を始めた
「瑛兄…オレは伊織を裏切った…
もう伊織の側へは行けぬかも知れぬ…」
「康太、兄に話せ
何があったか……兄は聞く
そして、お前の荷物を私は持とう。
そうして共に私達は生きて来た筈だ。」
康太は事の顛末を話した
そして、仲介に入ったのは弥勒で、弥勒に体を求められ………与えた……と。
挿入こそされなかったが、体を舐めれ…精液を与えた
瑛太は衝撃を受けた
飛鳥井の為と言え……
その体を差し出すとは………
康太は潔癖な所がある……
下手したら……その命……断つかも知れなかった
「弥勒は夢を見た……と言ったのだろ?
だったら、それは夢だ
夢だったんだ
康太は伊織のものだ
弥勒はそれを解っている
壊したい訳ではない
叶えたかっただけだ……
だから、忘れろ
お前の罪は兄が背負う
お前の苦しみは兄がもらう。
お前は何も変わらない
飛鳥井康太だ。
穢れてなどいない
だから、胸を張って伊織に逢いに行け
気取られるな、康太。
伊織に気付かせるな
隠すなら、吐き出してはいけない
隠せぬなら、伊織に言え。
言えぬなら、隠し通すしかあるまい。」
康太は瑛兄……瑛兄……と、縋り着き泣いた
そして、涙が乾いたら、
「どうしたら良いのかな?」
と瑛太に尋ねた
「隠し通せ、康太
弥勒に絆など感じはしない
一生と弥勒は違う。
兄が背負う
お前の罪は兄が背負う
だから、言うな
何も言うな
伴侶をなくしたくなければ、その口は噤め良いな……康太……」
瑛太は康太を抱き締めた
「飛鳥井家の為にした事は、お前の意思ではない
兄はお前の罪を背負う
だから、お前はその背の荷物を下ろせ。
康太は何も変わってはいない
私の弟の、康太だ
伊織の元へ行け
そして甘えて来い
伊織こそお前の伴侶だ
伴侶に言うばかりが絆ではない
守り通すのも、愛だ。
愛してるなら、守り通せ
良いな?康太。」
康太は頷いた
頷いて、立ち上がった
「伊織の側に帰る。」と告げた
康太は病室を出て行った
それでも……足は重く、罪悪感で潰れそうだった
病室の外には……一生が待っていた
「どうしたよ?康太」
一生の腕が康太を抱く……
康太は一生の、腕の中で泣いた……
一生は、聡一郎にタクシーを停めるように告げた
「康太、場所を移す。」
一生は、康太を持ち上げると走った
一生は、ホテルニューグランドに部屋を取った
そして、聡一郎と、隼人には別室に移ってもらい、ソファーに座らせた
康太は一生に、話した
飛鳥井の家の為に……弥勒と寝た事を……
一生は、言葉を失った
「入れたのか?」
総て差し出したら……康太は死ぬ…
康太は首をふった
「入れてはいない
入れられたら……生きてない
でもそれ以外はやった
助けてもらって……差し出さずに過ごせる筈などないからな
飛鳥井の為に動いたのなら……対価を払う
それがオレの体でもな……。
仕方ねぇと解っていても!
伊織に逢えない……逢う顔など持ち合わせてはいない
迷って…瑛兄の所へ来た……」
「瑛太さんは何て?」
「夢ならば、忘れろ……と。」
「ならば、忘れろ!
話して許されなかったら……おまえは死ぬだろ?」
康太は頷いた
「なら、黙っていろ!
飛鳥井は救われた。
それで良い!忘れれば良い。」
康太は……泣いて……伊織の顔は見れない…
と、答えた
「オレ達は隠し事のない夫婦
1つ隠せば、それの上塗りをせなばならぬ
そして…何時か……崩壊するのなら、話すしかない…」
一生は、康太を殴った
「俺達は、お前を死なせたくねぇんだ!
本当は今日も行かせたくはなかった!
そんな常識の通らない世界にお前だけをやって、平気でいられると想ったのか!」
一生は、怒鳴った
康太は一生に抱き着いた
そして決意を決めた瞳を、一生に向けた
「伊織に逢いに行く…
オレは迷っていた。
何処かで狡い事を考えていたのかも知れねぇな……」
「一緒に行くか?」
「嫌……一人で大丈夫だ
オレにはお前達がいる
勝手な事はしねぇから、安心しろ。」
一生は、康太の背中をポンッと、叩いた
そして、片手を上げて、部屋を出ていった
康太はホテルを出ると、今度こそ、榊原に逢う為に、タクシーに乗った
タクシーに乗り、飛鳥井建設まで向かう
受付嬢に、片手を上げ最上階へ上がるエレベーターに乗った
康太はエレベーターが止まると、深呼吸をして、歩き出した
そして副社長室のドアをノックすると、ドアが開いた
榊原が、ドアの前に立つ康太の姿を見て……
息を飲んだ
そして、部屋の中へ、康太を招いた
榊原は、康太を抱き締めた
「生きていてくれて……良かった…」
榊原の腕が震えていた
康太は深く深呼吸すると、榊原に話がある……と、言った
康太は自ら死刑台の上に乗って…裁かれるのを待った
康太は、総て話した
今日の出来事を……総て話した
そして、助けてくれたのは……弥勒で
その代価に、体を差し出した事を…………
話した
弥勒が出なかったら……勢和会と、天王寺との戦争に勃発したかも知れない
無傷で……誰の命も落とさなかった代償が………康太の体だった
榊原は、静かに聞いていた
そして……瞳を閉じた
榊原は、康太を見た
「弥勒は夢だと…言ったんでしょ?
夢で終わらせるつもりだったんでしょ?
ならば、何故、君は……話すの?
黙っていても良かったんですよ?
これを僕が聞いて、どう思うか……考えなかったんですか!」
「お前に偽りを言えば……
それを守るために、嘘を塗り重ねなければならぬ……。
ならば、最初から話しておいた方が、何時かはバレないかと怯えなくて良い…。
総て話して……オレが穢ければ、オレはお前の目の前から姿を消す
判断はお前に委ねる
それがオレの下した、結論だ。」
榊原は動けずにいた
辛すぎる現実に……
身動き出来ずにいた
総ては飛鳥井の為……家の為
「君は……賓田には何億積まれても嫌だと言った……
なのに何故弥勒には体を差し出した?
何故なんです?答えなさい!」
「飛鳥井の家は難題から救われた
金で、納得いってくれる相手なら、それなりの代価を払う
金も何も言わず受け取らぬ輩に、何を与えれば納得してもらえる?
タダで助けられるなどと甘い現実は、ない
ならば、欲しいと言うものを与えねば……
弥勒は引かない
オレの体を与える以外の方法は想いつかなかった……」
康太は自嘲的に笑った
「どんな答えを望んで、来たのですか?」
榊原は冷たく康太に聞いた
「どんな応えでも、伊織の出す答えなら、オレは受ける。」
「もう二度と、その顔を見たくない!と、言ってもですか?」
康太の瞳が揺れる
辛い現実を……この手で、導き出さねばならぬのも定めなのか……
「あぁ。お前の答えなら、オレはそれを受け止める。」
「ならば!目の前から消えて下さい。」
康太は、何も言わず、榊原に頭を下げ、背を向けた
そして、康太は歩き出し、副社長室のドアを開けた
榊原は康太の肩を掴むと、振り向せた
その瞳は……泣いてはいなかった
覚悟を決めて来たのが……良く解った
榊原が下す答えを受けるつもりで、康太は来たのだ
「何故!真に受けて去って行こうとするんですか!
闘う約束はどうしたんですか?」
「伊織……死刑を執行されて……闘える程、厚顔無恥ではない
オレはどんな答でも伊織が下せば聞く」
「僕が君を離すと思ったんですか?」
「………伊織…」
「飛鳥井の家の為なら……仕方ないです
君は飛鳥井の真贋
避けては通れないでしょう
でも!もう体を差し出すのは!止めて下さい!
その体は僕だけのモノの筈……」
康太の瞳から涙が溢れだした
トメドなく流れる涙に……康太の後悔を……
知る
知るのだが…誰にも触れては欲しくはないのだ
「君は…僕と離れて生きて行けるんですか?
真贋の伴侶はこの世で唯一人
僕をなくして…君は生きていけるのですか?」
「伊織……許して……」
「夢なんです、康太
君は弥勒に夢を見せた
その体内に挿入させた訳ではないのですから、夢で終わらせてあげます
ですが、今晩は僕の好きにさせてもらいます
誰かの手垢のついた体を……
僕のモノにしなければ気が済みません。
覚悟をなさい。」
榊原は、康太のスーツを脱がせた……
自分の着けた跡は……見れば解る
ネクタイを解き、Yシャツの釦を外す
そこには、昨夜着けた跡しかなかった
榊原は、ソファーに座ると康太を膝の上に乗せた
「キスして…康太
君の男はこの世で一人、僕しかいない筈でしょ?」
康太は榊原に唇を重ね、深い接吻を落とした
舌が、絡み付き……康太を味わう
榊原の腕が……康太の背中を撫でた
流石と……副社長室で……これ以上は……
ヤバい……
でも……触れれば止まらなかった
そして、確かめたかった
全身、隈無く、調べたかった
ともだちにシェアしよう!