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第44話 副社長代理

アウディに乗り込み飛鳥井建設に向かう 地下駐車場から康太を抱き上げたまま最上階へ向かうエレベーターに乗り、副社長室に向かう 部屋に入ると康太をソファーに寝かせた ネズミのぬいぐるみの足に康太は頭を置き、康太は眠る 榊原は、書類に目を通し、決済を行う 筋の通らない書類には、作成した人間を呼び出し、直させる。 手法は………まるで瑛太と同じ まるで、瑛太の仕事を見て来たかの様な手法に、佐伯は青褪めた 「佐伯、この書類を作成した社員を呼びなさい。」 佐伯は、慌てて、その社員を呼び出した 榊原は、副社長室の机の上で構えていた 代理だから……ナメてると……理詰めの質問が飛びまくる 飛鳥井瑛太を若くした様な容姿の、代理は下手したら副社長より……容赦がないかも…… 「この不出来な書類を直しますか? それとも貴方の頭を直してあげましょうか? 頭を直されたくなかったら、書類直してきなさい! この程度の書類で通そうなんて、半世紀早いわ!」 と、熾烈な言葉が飛んでくる そんな中でも…康太は寝ていた 榊原の声を聞きながら、幸せそうに寝ていた 玲香が覗きに来ても、清隆が覗きに来ても、康太はスヤスヤ眠っていた 社長室や広報室に……副社長代理の……辛辣なクレームに対する泣きが入り込んでくる 玲香は清隆に、お茶を飲みながら言う 「副社長は伊織に代替えしても良いかもな 社員は久し振りに緊張して、会社内が活気に満ちてるわ」 そう言い玲香は笑った 「あんな手厳しい男が康太には甘いのだからな…… 康太以外は冷徹……瑛太を見ているようだな」 「だな、あんなに容姿まで似ていようとはな‥‥他人だと想えぬな」 何処かで繋がりある‥‥そんな榊原の容姿と言い手腕に二人は何かを感じていた 玲香は楽しそうに 「康太の伴侶は榊原伊織だからな。 真贋の伴侶なれば、それ相応の地位は用意せねばな」と言った 清隆は名案が浮かんで楽しげに 「ですね。あの男は飛鳥井には、無くせない存在。 瑛太の不在すら感じさせない……そればかりか、立派な副社長姿だ 私の席は瑛太に譲ろう、そしたら副社長の座は伊織がやれば良い…」と言った 玲香もそれに乗り 「我も京香が来たら、席を譲ろうかのぉ、二人して隠居して、子育てしょうかのぉ…」 と、玲香は笑った 清隆も笑い、それも良いな……と、呟いた 榊原は黙々と書類に目を通し、決済を行う 後は瑛太が印を押せば良いだけにしておいた よくもまぁ、こんなに仕事を溜め込んだ…と、榊原が愚痴ると、佐伯は 「クレームを入れて来た人間が、極道で話が通じず… 副社長は奔放してましたからね… 康太さんを出したくないから…寝る暇も惜しんで、クレーム処理をしてました。」 と、瑛太の近況を話した 榊原は、瑛太の苦悩を垣間見た 言えば康太が出て来る 康太を……常識の通用しない世界の人間相手に出したくはなかった…… 瑛太の心は……何時も弟の事ばかり… 榊原は瑛太の想いに応えようと必死に仕事をした その書類の束の中に一枚の書類を目にして、動きが止まった 「何なんです?このふざけた書類は?」 榊原が言うと……佐伯は、押し黙った 経費の請求の書類の項目に……榊原は、切れそうだった 「マン喫やJUMPが経費ですか? 副社長は、こんなふざけたのを通していたんですか?」 榊原に言われ佐伯も、その書類に目を向けた 佐伯は「通してないと思います……」と答えた 「この設計部の城田琢也を呼んで…… 嫌、本人の部署まで行きます 着いてきなさい!そして僕を案内しなさい!」 榊原は、そう言い立ち上がると、佐伯は榊原を設計部まで連れて行った 榊原は副社長室を後にすると、設計部へと足を運んだ そして部署の中へ入ると、責任者を出しなさい!と迫った 榊原の剣幕に……責任者でもある、部長の栗田一夫も押される 榊原は、責任者に書類を見せると 「こんなマン喫とJUMP…その他諸々の請求を回して、通ると思いましたか? 副社長の代理だから、甘いとか、チョロいなんて思って出したのなら、取り下げなさい! 僕は絶対にこんなのは通しません!」 責任者の栗田は……言葉をなくした 榊原が言い切ると、城田は、笑って出て来た 「通りませんかぁ~」 と、バカにした様な態度で…… 榊原は、怒りに満ちた瞳で、城田を見た 「これが通る会社だと、君は思ってるんですか?」 榊原が言うと、城田は笑って 「思ってた なんせ代理の飛鳥井康太はバカそうだから… 四悪童なんて持て囃されてるが、バカじゃん。」 ふん…と鼻を鳴らし、城田は言った その時、寝ている筈の康太の声がした 「そうか。 オレってソコまでナメられてたか 幾らオレがバカでもな、こんな書類は通す訳がねぇんだよ!」 康太はそう言い、書類を清隆に渡した 「代理をバカにするって事は、会社をバカにするって事なんだぜ。 この不景気な中、無駄飯を食らう社員を雇っておく会社はいねぇ! 解雇通達の書類を作れ佐伯! オレはこんなクズに給料を払う気は一切ない!」 城田は……青褪めた 「城田琢也、オレに榊原邸の設計図にクレームを付けられ、設計士の交代をされたから、嫌がらせのチャンスと思ったか? そんな無能な設計など、元より飛鳥井には必要すらない!辞めて他へ行け!」 康太は城田の前に、躍り出た その後ろには社長の飛鳥井清隆の姿が…… 康太は更に、城田に告げた 「お前の描く図面には、生活空間も、配慮もない 只の部屋を作ろうと、図面を引いてる 図面は誰の為に引くんだ?応えろ!城田琢也!」 康太に問われ……城田は食って掛かった 「俺はちゃんと図面を引いていた! 学校では首席だった! お前みたいはバカとは違う! オレの図面が賞を取ったんだぞ! そんな凄い設計士に、お前はクレームばかり付けた!俺を無能呼ばわりしやがって!」 康太は恵太に、榊原邸の図面を持って来いと告げた 「恵太!榊原邸のコイツの引いた図面と、お前が引き直した図面をもって来い! そして、此処に並べて置け!」 康太の言葉に恵太は、慌てて、図面を取りに行った 恵太は、2つの図面を並べて置くと、康太に 「用意が出来た」と、告げた 康太は不敵に笑うと 「設計部の人間に決めて貰え 住むとしたら、どっちの図面の家に住みたいか? 恵太以外は、どっちの図面か解らねぇ筈だ 城田、お前はその目で、自分の実力を知れ!」 康太が言うと、設計部の面々は、図面を覗き込んだ そして、2つの図面を見比べる そして、康太に同じ言葉を告げた そして、それを代表して、設計部の部長の栗田が出て来て、康太に 「此方の図面には人の住む空間があります 住む人の気持ちを組んで、揺ったりとした空間を作ってあります………… が、そっちの図面は……生活する人間の配慮が全くなされてない 部屋を創る。それだけだ。 私なら、こんな家には住みたくない。 息が詰まって……いられないと思います。」 と、プロとして生きて来た人間としての感想を述べた 康太は城田に 「賞を沢山貰っても、使えねぇ仕事してるのには変わらねぇんだよ! しかも、仕事すらしねぇ奴に会社にいる資格はねぇ 解雇手続きを今やらせてる 自主的に止めるなら、退職届は、副社長室に持って来い。」 康太はそう言い、背を向けた そして、清隆に 「しかし父ちゃん、マン喫にJUMPだぜ 良くもまぁ、オレもナメられたもんだよ 会社内の軌道修正が必要か? 真贋として、黙ってらんねぇな!」 と、話した 飛鳥井家には、真贋と言う、本物を見抜く目を持った者が必ずいて 真贋の言う事は聞かねばならない…と、入社して直ぐの社員教育で習う 飛鳥井建設独自の掟があった 社員は皆、それを知っていた 知っていたが……若過ぎる康太に恐怖は無かったのかも知れない 康太は振り返り、出て行く前に、部屋の人間を見た 社員は……あの瞳には見られたくはなかった すっと反らされる視線に、康太は 「見られたくなくば視線は合わせるな でもな、オレは視線は合わせずとも、人を見れば果てが見える 覇道を詠めば居場所が解り、星を詠めば、その人間の思考や、誰と情事をしているか、さえ解るぞ 不倫してる奴は注意だな。」 そう言い笑った 「伊織、戻るぞ 戻れば佐伯が解雇通達書を渡してくれる。 楽しみだな。 オレは飛鳥井の為になるなら、どんな事でもしてやる 反旗を翻す奴には、どんな手を使っても潰してやる! オレが潰れるか、そっちが潰れるか…試しにやるか?」 康太は皮肉に笑い「恵兄、後は任せた。」 と、言い背を向けた そして、榊原が側に来るのを確認すると、部屋を出て行った 静まり返った部屋に、恵太の笑い声が響く 皆は、静かな男が笑う様を、ゾッとして見ていた 「ったく康太は!」そうボヤき、歩き出した 「僕の弟は馬鹿なのではない 底辺から人を観察してるんです。 頂点の人間を観察してる。 頂点にいても、それに傲ればクズにしかならぬ……と。 そして、頂点の人間こそ、底辺の人間をどう見るか……観察してるんですよ。 彼の人脈は現総理、賓田政親から、トナミ海運社長、そして一条隼人 そして伴侶の親は榊清四郎。 今回、うちが抱えていた暴力団からの嫌がらせも、我が弟、飛鳥井家の真贋、飛鳥井康太が出て来て、片付けた。 彼は昨日の朝、命を懸けて家を出たと、母は言っていた。 常に康太は家の為に命を懸ける。 会社の人間は、そんな真贋の上に成り立っていると、知るべきだ。 設計家、脇田が、うちの再開発の為の図面を引くにしても、あれは真贋の人脈。 想い知ると良い。 飛鳥井康太を敵に回す時、それは地獄の始まりだと、身を持って知ると、良い。 僕は我が弟ながら、怖いので逆らいたくはないです さぁ、仕事をしますよ ったく……康太は……」 損な役回りをさせて……と、恵太はボヤいた 康太の後ろを榊原は、着いて歩く 「康太…」 榊原が呼んでも、康太は振り返らなかった 副社長室に戻ると、清隆は社長室に戻った 「康太…大丈夫?」 榊原の腕が、康太を抱く 康太は榊原を見た 「オレは大丈夫だ 心配するな オレの瞳は、驚異だからな…仕方ねぇだよ」 榊原は、康太の頬を挟み、顔を持ち上げた 「僕は君の瞳は大好きですよ 僕だけ見てれば良いんですよ 僕は君に見られて怖い事なんてない…… 見てみますか僕の中を……君にあんな事やこんな事をしたいと思ってる僕がいますよ。」 そう言い榊原は笑った 「伊織、キスして」 康太にねだられ、榊原はキスを落とした その後ろで、佐伯が「ゴホンっ」と、咳払いをした 「イチャ着きたいのは解りますが、仕事しましょう 今日は昼過ぎには帰るんですよね?」 佐伯が康太に問い掛ける 「瑛兄の所へ行くかんな 見張ってないと出て来るからな、アイツは!」 佐伯は苦笑した あんた達は皆、そんなんばっかでしょうが!……と。 榊原は、仕事を始めた。 康太はソファーに座り、力哉に電話をいれ、何やら話して電話を切った そして、一生に瑛太は静かに寝ているか?と電話を入れた すると『今、退院すると、駄々をこいてる!』と、康太に告げた 康太は電話を変わってもらった 「瑛兄、退院許可が、降りないのに帰ったら、ぶっ飛ばすかんな! 仕事は伊織が片付けてる 何なら当分入院してても構わんぞ。」 と、康太が言うと、電話口の瑛太は 『康太……大人しく寝るから…御見舞いに来て…… お前の元気な姿を確かめさせて 兄は、それを確かめないと……心配で寝てられぬ……』 と情けない声で言った 「今日は必ず行くから寝てろ! 一生を困らせるな! オレはこれから片付けねばならぬ事がある 軌道修正しなければ、飛鳥井は地に落ちる」 瑛太は解った……と言い電話を切った そして、榊原に「駄々っ子だった。」と、笑った 榊原は苦笑した 瑛太は自分の体より、康太が心配で堪らないのが解るから…… 暫くすると、康太はソファーに深く座り直した 何かを待ち受ける見たいに、肘置きに肘を着き、足を組んだ 「佐伯、後、一時間で帰る 病院に行かねば、強制退院して来そうだ」 康太が言うと、佐伯は 「直ぐ、行かれても構いませんよ。 仕事も半分以上片付きました。 見通しが立ちましたから、帰られても構いません。」 と、言った 「これから、栗田が来る 城田の矯正をしなきゃなんねぇ 帰るなら、それからだ。来るな……」 康太が言うと、佐伯はドアの前に立った その時、副社長室のドアがノックされた 佐伯がドアを開けると、設計部の部長、栗田一夫と、城田琢也が立っていた 康太が「通せ!」と言うと、佐伯は部屋に招き入れた 「久し振りだな、一夫 部下の尻拭いか? 管理職も大変だな。」 康太は皮肉を敢えて言って、ソファーに座らせた 康太の瞳が栗田を貫いた それに臆する事なく、栗田は康太を見た 「一夫、城田の解雇通告を取りに来たのか?」 「違います! 貴方に軌道修正させに来たんです!」 栗田はそう言い、康太を睨んだ 栗田は年の頃なら40前の渋い男前だった 昔……恵太はこの男に抱かれていた 性欲が無いんじゃなく……相手が違うのだ だから、女しか産まれない…… 「城田を?恵太を?」 「城田!です!」 「それを使えるようにしろと? オレに言うのか?」 「そうです。使えるようにしてこその、真贋だろうが!」 栗田は皮肉に嗤う 「源右衛門は、そんな面倒な仕事はしなかった筈だが?」 「先代はそうでも、貴方は違う 貴方の側に仕えてる俺だからな、それをお願いしてる。」 「未練を断ち切れと言った報復か? 切れてねぇのに報復されてもなぁ…」 「その口を、縫ってやろうか!」 「それは困る 縫われたら伴侶に愛の囁きすら出来ねぇ 伴侶のを舐められぬ。」 康太はそう言い、ニャッと笑った 栗田はお手上げをした 「今も愛するは唯一人か?」 康太は栗田に問うた 栗田は首をふって 「今更です。 今更願って……手に入るモノでもない……」 と、諦めの言葉を吐き出した 「栗田、お前にチャンスをやると言ったら、どうする?」 「……手にします。」 康太は、栗田をチョイチョイと呼ぶと、耳元でゴソゴソ、ゴニョゴニョ、ヒソヒソ、話し出した 「嘘…本当ですか?」 「あぁ、チャンスは今しかねぇ それをどうするかはお前次第だ オレは今しか言わねぇ 欲しいなら取りに行け 抱けば体が思い出す。」 栗田は、康太に頭を下げて出て行こうとした …………!…そして、踏み留まった 「ったく、貴方は!」 康太は笑って、力哉を呼び出した 力哉は康太の側に来ると、書類を渡した 康太はその書類を受け取ると、栗田に渡した 「宿題だ。オレの要求する条件のモノを引かせろ 軌道修正は、それからだ。」 康太が言うと、栗田は書類の中を開けて見た 封筒の中には土地面積の青図が入っていた そして、依頼者の要望、理想、要求が入っていた 「その要望、理想、要求通り引かせろ それを見て、使えるか、切るか決める」 栗田は、納得して、城田に書類を渡した 「城田、お前の先を決める事だ…心して引け。」 城田は不貞腐れていた 栗田は城田に 「飛鳥井康太を怒らせれば、お前を使う会社はない 追い込まれて、逃げても、地獄まで追い込む、それが飛鳥井康太だ。 嫌なら会社を辞めろ じゃあ世話になったな。」 康太は栗田に手をふった 栗田がいなくなった後、榊原は康太に彼と何を話したの?と問われた 「大学時代から恵太は、栗田とデキていたんだよ だが…栗田には、妻がいた 結婚してるのに… 栗田は、恵太を抱いていた。 恵太は初めての男を愛していた 結婚していると……知らなかったから、悩んでいた。 恵太は栗田とケジメを着ける為に別れた。 そして結婚したんだよ ヤケクソだな。当て付けだな 恵太は、栗田に別れを告げた…栗田は大人の男として引いたよ 本当は栗田は離婚して、恵太だけのモノになろうとしたのにな…… だが、総ては遅かった 恵太から別れを切り出され、挙げ句に結婚された。 栗田はそれでも、離婚した。 今も恵太を愛してる。 そしてその恵太が、最近可奈子と別居してんだよ。 やはり……可奈子は早すぎた… 二人目を出産して以来、可奈子は東雲の家から帰って来ない。 それもその筈、可奈子は猛勉強して高校3年生から始めた。 今、二人は分岐点に来てる。 手を出すなら今だぞ。と、教えてやった」 榊原は……言葉がなかった 「可奈子は学生気分を満喫して、もう家庭には戻らない。気持ちは、自立。 子供は東雲の親が引き取り育てる。 恵太は養育費を払い、別れるしかねぇ。 ならば、よりを戻す位させてやらねばな…… 栗田に別れてやれと……言ったのはオレだ」 康太は自嘲気味に笑って、榊原の頬に手をやった 「なぁ、伊織、男しか愛せない兄弟を見て、飛鳥井の終焉を感じないか? 飛鳥井の子供は子を成さない…… 当たり前だ 男にばかり走る。それは何故か解るか?」 榊原に問い掛けた 榊原は、解りません、と首をふった 「古くから代々伝わる家は……滅ぶが定め 滅ばない為には外の血を入れるしかねぇ 飛鳥井は、まだ、外の血が入っていねぇ 終焉とは男に走るばかりではない 跡取りが早死にしたり、家出をして戻らなくなったり、色々だ…… 飛鳥井の子供は何故か…男に走る……5人子供がいて、5人とも……男を知っている 瑛兄も高校時代から付き合ってる男がいた 蒼太は節操なしで、今は矢野を選び… 恵太は…栗田に抱かれ…当て付けに結婚し オレは伊織と夫婦になった 悠太は……子は成すが……男を選ぶ まともに結婚出きる人間はいねぇ このままでは、飛鳥井は終わる…そう言う時に来ている。 だから、外の血を入れる 飛鳥井の名を名乗らせて、外の血を入れ、風を入れる そうしなければ、飛鳥井は10年しないうちに終焉を迎える 多分、男に走らねば、誰かが死んでいたかも知れねぇな 誰が悪い訳でもねぇが、子供が産まれない この事態は異常だと……誰も気付かない事事態、異常なんだけどな…… 何代も続く旧家とかも、そうだ。 女しか産まれねぇ時期がある そう言う時は、婿養子を取って、当主を変える 変えずに女が居座ると、終わる道は早くなる 血は濃いが、濃すぎると狂気を産み出す 何代も続くには、それなりの血も、風も入れねばならぬ…… そう言う事だ。」 榊原は、康太の言葉を静かに聞いていた 「飛鳥井の明日の為に……血を入れ換える… それで飛鳥井は、また軌道に乗って走り出す オレが真贋でいる間は……終わらない。」 「まっ、飛鳥井の家は……の、話だ。」 だから……飛鳥井の血以外をいれるのか… 榊原は、納得した……そして、男へ走る飛鳥井兄弟に……、康太は男が好きなのか? 榊原が好きなのか?聞いてみた 「男が好きなの?僕が好きなの? 康太は、僕と出逢わなければ、誰を愛したんでしょうかね……。」 「オレは伊織でなければ、愛さなかった。 多分…伊織だから、飛鳥井の家のオレでも受け入れられた 他は逃げてく……オレの瞳を知れば……側にいる事を怖がる 一緒にいてくれる人間なんていねぇよ……」 康太は化け物でも見るみたいに、見られて育ったのだ…… 「君の初恋は僕?」 最初から榊原にしか興味がなかったと、前に康太は言った 榊原に聞かれ、康太は顔を赤らめ頷いた 「何処が好きだったの?」 「総て……全部が好きで、目が離せなかった…」 榊原は、康太を抱き締めようとした…… 二人の世界に突入しそうで、佐伯はオホンッと咳払いをした 「今日は、もうお帰り下さい! 男と別れたばかりの私には目の毒だわ!」 佐伯は怒っていた 「佐伯…医者と…別れたのか?」 佐伯の額にピキッと怒りマークが着いて、榊原は慌てた 「康太!言ってはいけません!」 慌てて榊原が止めたけど………遅かった 「よくもまぁ!人が傷付いてる事を!!」 康太に机の上のモノを投げ付けた 榊原は、慌てて、康太と鞄と車の鍵を掴むと、副社長室を飛び出した 「もう……康太は……」 榊原は、めっ!と、康太を怒った 「すまん。伊織。女心は難しい。」 「僕に言わないで下さい! 僕は女は母しか知りません その母とも疎遠でしたから、女心なんてもっと解りませんよ。」 榊原もボヤいた 康太と榊原は、地下駐車場に行きアウディに乗り込むと、瑛太の病院へと向かった 病院の駐車場に車を停めて、瑛太の病室へと向かい、ドアをノックすると、一生がドアを開けてくれた 病室の中へ入ると、清四郎が御見舞いに来ていた 康太は清四郎に頭を下げると、瑛太の側へ向かった 「瑛兄、体調はどうなんだ?」 「………精密検査された 何でも弟が頼んだからって……。」 瑛太は拗ねた顔をした 「この機会に調べてもらえ。」 「嫌です。康太は見舞いに来ないし、副社長の座は伊織に盗られてしまいます。」 「そしたら、社長になれば、良かろうが?」 「そんな、父さんと同じ事を言わないで下さい!」 瑛太は不貞腐れた 「父ちゃん来たのか?」 「ええ。世代交代を仄めかして帰って行きました。」 「瑛兄、総て片付いたし、当分は体を治せ」 「嫌です。」 康太はお手上げをした 本当に殴りたくなる位に頑固…… 清四郎は、笑っていた 瑛太は子供はみたいな部分などないと、思っていたから…… そして何より、瑛太の容姿は………清四郎の亡くした兄に良く似ていた 清四郎は、息子の榊原に電話したけど、中々出なくて、一生に電話したら瑛太が入院していると聞いた 榊原は、瑛太と康太の代理で会社に行っている…と、教えてくれた だから慌てて、お見舞いに飛んできたのだ 清四郎は 康太に 「私が御見舞いに来た時も、帰るって駄々っ子でしたよ。」と話す すると瑛太は「清四郎さん…」と、情けない顔をした 康太は、瑛太の側に行くと、瑛太に 「恵太は栗田にくれてやったかんな。」と、告げた 瑛太は「えっ……本気ですか?……」と、聞いた 「近いうちに弁護士を派遣して話を付ける。」 「しかし……趣味悪い……」瑛太はボヤいた 「瑛兄、言ってやるな。」 「オッサンなのに……」 瑛太は……自分より年上の男と言うのが……許せなかった 「瑛兄!飛鳥井の化け物よりはマシだろ? 言ってやるな……」 康太が言うと、瑛太は顔色を変えた 康太が言うと、清四郎は康太を怒った 「康太は化け物じゃない 自分を卑下する事は、我が息子、伊織を卑下しているのですよ。」 「清四郎さん……」 「さぁ、ケーキを買って来たので、食べなさい。」 清四郎は、康太にケーキを差し出した 康太がソファーに座り、ケーキを食べる あんまり、美味しそうに食べるから 榊原は一口食べたくなって口を開けたら、康太が口に放り込んだ 「甘い……なら、君のお口も甘いのかな…」 榊原は、父親の目の前で、康太の唇を舐めた。 そして膝の上に康太を持ち上げ乗せた 「父さん、康太の瞳は人の果てを見ます。 飛鳥井の家の真贋と言うと、心無い言葉を受ける時もあります 見られたくなくて、康太を化け物でも見るような目で見る時もあります そんな時、康太は平気なフリをするんです傷付いてるのに……ね。」 榊原は、そう言い、膝の上の康太を抱き締めた 榊原は、康太の頬にキスをして、瑛太の方を見て微笑んだ 「総て聞きました そして、今朝方、弥勒が康太の1日を見せてくれました 康太は僕に少しの嘘偽りもなく、話してくれました。 僕は…それを許し、弥勒も許しました。 唯、二度と康太に触れるなと約束させました…… 僕達は何も変わらない。 僕は康太を手放す気はありません。 康太が逃げるなら、その息の根を止めます 僕以外のモノになるならば、殺す。 それが、僕達の覚悟です。」 榊原の瞳から覚悟が伺える 二人は苦しみ……乗り越えた強さを秘めていた 瑛太は、安心したようにニッコリ笑った なのに榊原は…… 「瑛太さん、仕事ためすぎです。 佐伯はまた、医者の彼氏と別れました さっき、康太が、また別れたのか…って言って、部屋から追い出されました。 ですから、佐伯のヒステリーは、ピークです もう少し入院してなさい。」 と、追い討ちをかけた 「伊織……副社長の椅子を狙ってますか?」 瑛太は泣きを言う…… 「説教しがいがあって、鬼……と化してます。」 榊原は、笑った 「なら……来年、伊織が卒業したら、副社長の座を譲ります…」 と、瑛太は淋しそうに言った 榊原は、笑って 「冗談ですよ 僕は飛鳥井の人間でないので副社長なんて、なれません 言ってみただけです。」 と言った 元より、なる気なんてないのだ 「嫌…君は飛鳥井康太の伴侶 副社長の座は譲ります。」 と、瑛太は真剣に言った 「瑛太さん……冗談です。」 「伊織…君は、父さんや母さんは、呼ぶのに義兄さんとは呼んでくれないのだな…」 と、瑛太は拗ねた 「えい……義兄さん。 本当に副社長の座は要りません。」 「なら社長?会長?」 「義兄さん!僕にも仕事があります。」 「調整すれば可能だろ? 考えておいて下さい 父さんが適任だっていってましたよ。 母さんなんて、乗り気でした。」 瑛太の言葉に榊原は、困った顔をした その時、ドアがノックされ開けられた 主治医の久遠が、検診に入ってきた 久遠に病室の全員が頭を下げた 「飛鳥井瑛太、君の人間ドックの結果は、大した事なかった 潰瘍も治まった 明日以降で退院して良いぞ。」 医者が言うと、康太が 「退院させたら無理するから、もう少し入れといて下さい。」 と頼んだ 瑛太は康太の名を呼んだ 「康太!なんて事を言うんですか!」 瑛太は叫んでも、医者の耳には届かなかった 「なら、今週は入っとく?」 医者が聞くと、康太は、うんうん。と頷いた 「飛鳥井瑛太 君の退院は来週月曜日な。」 今日は……火曜日だ! 瑛太の声が「先生~」と呼んでも、無視して、病室から出て行った

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