50 / 55

第50話 黄泉の泉

真贋のお披露目を終え食事を済ませて、康太達は飛鳥井の家へ 清隆、瑛太、玲香は、会社へと戻って行った 榊原のアウディに乗り込むと、康太は眠りに落ちた 飛鳥井の家へ着いても、康太は目を醒まさず、榊原はベッドに入れ寝かせた そして、榊原は、掃除と洗濯に勤しんだ 掃除が終わっても……洗濯が終わっても… 康太は目を醒まさなかった 一生が覗いても、 聡一郎が覗いても 隼人が覗いても 慎一が覗いても 康太は、眠っていた 夜になっても、朝が来ても…… 康太が目を醒ます事はなかった 康太は………2日、眠り続けたままだった 堪え切れず榊原は、弥勒の家を尋ねた 弥勒ならば何か知っているのではないか…… 知らないのなら……命を懸けて調べてくれる ……そんな確信が有ったから…… 弥勒は榊原の姿を見るなり 「伴侶殿、康太の事で参られたのか?」 と、総て知っていて、榊原を迎えた 「康太が目を醒まさないんです…」 榊原が言うと思案して 「今日で2日?」と、問い掛けた 「そうです。」 榊原が答えると弥勒は榊原に、微笑んだ 「ならば、明日、目を醒ます。」 「明日?」 「康太の魂は黄泉を渡った 紫雲が付き添い行っている 」 「黄泉……?死ぬんですか?康太は?」 榊原が、聞くと、弥勒は慌てた 「違う。康太は必ず伴侶殿の側に帰って来てる 康太は今、黄泉の世界に行き真贋を正式に引き継ぐ為に黄泉の泉にいる 飛鳥井の真贋は、正式に真贋を引き継ぐと黄泉へ行く 伴侶殿は、待っててやってくれ 今も康太は闘っておる だから、抱き締めて、帰る時を待っててやってくれ 俺も康太が必ず帰る様に願う 最悪、黄泉まで迎えに行って、伴侶殿へ渡すから…… 今は堪えて待っててやってくれ。」 弥勒は、榊原に頭を下げた 弥勒は命を懸け榊原に約束した 榊原は、了承して弥勒に礼を言い、康太の側に帰って行った 榊原は、ずっと康太の側を離れなかった 康太が目を醒ますのを、待ち続けた だが………康太は3日経っても… 目を醒まさなかった 榊原は、このまま、目を醒まさなかったら… と、思うと胸が張り裂けそうだった 榊原は、康太を揺すった 「目を醒ましなさい…康太…」 康太は目を醒まさない 「康太…康太…早く目を開けなさい。 僕に笑いかけて お願いだから起きて… 早く目を醒まさないと、浮気しますからね!」 心にもない台詞を……榊原は吐いた そして、溜め息を着く…… すると……! 寝ている筈の康太の腕が榊原の首を掻き抱いた 「そしたら、お前の息の根を止めてやるかんな!」 と、康太はキッパリ言った 榊原は、康太の顔を覗き込んだ 「康太……。」 榊原は、康太を抱き締めて泣いた…… 「伊織、4日も寝てたからな お風呂に入ってるのか?この体は?」 「お風呂は入れてませんが、毎日拭きました。」 「なら、良いな オレを抱け、伊織。」 康太は榊原を、押し倒した 「康太?」 「浮気されたら困るかんな。」 康太は笑い 「愛する伊織を誰にも渡したくないからな。」 と、キスをした 「鍵をかけてませんよ?」 「見られても、誰も止めはせん! ならば、伊織は寝てろ オレが上に乗る」 康太は榊原の服を脱がせた そして、自分の服も脱ぎ捨てると、榊原に愛撫を施した 康太が触ると……榊原は、直ぐに反応した 康太の唇が…榊原の硬く聳えた肉棒を舐める 美味しそうに……その舌は榊原のソレを舐め上げた 榊原は、康太を体に跨がせお尻を向かせると、秘孔にキスを落とした 指を入れ、掻き回すと、康太の腰が蠢いた 康太は榊原の上に乗ると…… 榊原の太い灼熱の肉棒を、蕩けきった襞が榊原の亀頭を食べる様に飲み込み‥‥中へ中へと招いて‥総てを飲み込んだ ジリジリと康太の中へ飲み込まれて行く肉棒が、卑猥だった 瑛太は一生達と、寝室のドアを開け…… その光景を……目にした 仰け反る康太は…妖艶だった 仰け反り、ピアスの入った自分の乳首を弄った そして、振り返り、艶然と笑った 流し目を受けて……一生は、慌ててドアを閉めた 「ったく……性格の悪い……。 目が醒めて、オハヨーを言うより、旦那の相手かよ。」 一生は、ブチブチ文句を言いながら、康太の部屋を出て行く 瑛太は衝撃で、クラッとしつつ、康太の部屋を出て行った 瑛太の目の前に、別の生き物がいた 妖しく……愛撫に色ずく……妖艶な生き物が…… 一頻り、榊原と交わり……康太は浴室で、榊原に体を洗ってもらった 榊原は弥勒から大まかな事は聞いていたが、やはり康太の口から聞きたくて問い掛けた 「何処へ行ってたんです?」 「黄泉の泉まで行き、飛鳥井家の真贋になる引き継ぎをして来た。 代々真贋を正式に引き継ぐと、黄泉の泉に出向き、女神に逢いに行く習わしだかんな 龍騎と共に黄泉の泉に出向き、真贋の引き継ぎを正式に行った 元々オレの眼は歴代の真贋よりも視え過ぎる眼を持っていたかんな‥‥ 危惧した女神がオレの眼にフィルターを貼ってたんだよ 正式に真贋を継いだって事で、総ての制約を解除して貰ってフィルターも外して貰った オレは前よりも視える……そして詠める まぁオレの場合は稀少の真贋……元々視えるんだなな…… ……まるで、化け物の様にな…」 康太は自嘲的に笑った 「自分を卑下しないで! 君が化け物なら、僕はその化け物の伴侶になってしまうでしょ? 僕の伴侶は飛鳥井康太。君でしょ?」 康太は頷いた 「弥勒に聞いたら3日目に帰って来る…って言ってたのに……今日は4日目ですよ?」 「黄泉から帰ってたんだけどな 体力使いまくるからな、眠くて寝てた そしたら、伊織が浮気するって言うから慌てて目を醒ました…」 「しませんよ。浮気なんて そう言えば目を醒ましてくれるかなって……思ったんですよ……」 榊原は、そう言い接吻した 「康太、黄泉へ行くのは決まっていたの?」 「突然だった 知っていたら伊織に話していくに決まってるやん!」 「そうですか このまま目を醒まさなかったら……って思うと…不安でした。」 「オレが伊織を置いて行く筈はねぇかんな! オレが逝くなら、伊織も連れて行く! 絶対に離れねぇ!オレのもんだ伊織は!」 康太の腕が榊原の首に巻き付いた 浴室から出ると、榊原に支度してもらい、服を着せてもらった 榊原も支度するのを康太は待った 支度が出来ると、康太と榊原は寝室を出た 榊原は、寝室に鍵をかけ、康太を促す 一階の応接間へと行くと、一生達は、ソファーに座っていた 「あれ?瑛兄は?」 「部屋に帰って行ったぞ。」 一生が答えてやる 康太は一生の座ってるソファーを見て笑った 康太の何時も座る席の横だったから…… 康太は何時もの席に座り、一生に抱き着いた 「おはよう!一生、待たせたな。」 すると一生は、康太の首を掴み、頭をグリグリした 「俺等に、おはよう言うよりエッチが先かよ 俺等もどんだけ心配したか解ってるのかよ!」 「解ってる でもな一生、オレの亭主は寝ている妻に、早く目を醒まさないと浮気しますからね!って台詞を吐くもんだからな…… オレは惚れた弱味で、亭主に浮気されないように、一分でも早く相手をしなければならなかったんだよ! 許すしてくれ!」 康太に言われれば許すしかなかった 榊原の心中を思えば…許さざるを得ない でも、そこは四悪童、悪乗りをする 「寝てる妻に、その台詞はねぇわな!」 と、一生が康太に言う 「だろ?おちおち寝てもいられねぇもんよー!」 康太が言うと、榊原は康太を自分の膝の上に乗せた 「そんな事を言う口にはキスしてあげませんよ!」 榊原に言われると、康太は弱い 「一生…キスして欲しいから…… もう言わない事にするかんな」 一生は、笑って 「それは、困るわな お前は旦那にべた惚れだからな もう言わんで良いぞ。」と、フォローしてやった 応接間には、一生と聡一郎がいた 「一生…」 「……ん?何だ?」 「話を聞いてくれ……」 「寝てる間の?」 「違う…寝てる間の話もするが、先の話だ だが、もう始まっている。」 康太は寝ている間の事を先に話した 「飛鳥井の家は古い 朝廷の世から、神器を使い、黄泉の目を使い、星を詠み、覇道を伝う それら総て、黄泉の泉の【眼】の恩恵だ。 飛鳥井の真贋は、正式に引き継ぐと呼ばれる 陰陽師 紫雲龍騎は、その道案内の為に、菩提寺の裏山に住んでいる オレは当然、黄泉の国に呼ばれ、正式な真贋としての儀式を受けて来た 元々オレは稀代の真贋と謂われるだけあって、生を成した瞬間から視え過ぎる眼を持って産まれたんだ 女神はそれを危惧してオレの眼を封印しフィルターを貼った だがそれも真贋を継いだ以上は、慣例に乗っ取り新しい眼も授けねばならねぇ その前に眼の封印も解除せねばならなくなり、女神は嫌々オレに眼を渡した んで、やっとこさオレの目は、前より鮮明に見える様になった その能力は、桁違いに凄い モノクロTVがハイビジョンの3Dに変わる位の雲泥の差だ オレは正式に黄泉の眼を女神から譲り受けた もう源右衛門は正式に見えなくなった これで、オレが、正式な飛鳥井家の真贋だ 変わりはいねぇ!」 康太がそう言うと、聡一郎は 「康太の変わりなどこの世にはいない! 我等は康太が、飛鳥井康太で有る限り共に在る それだけだ!」と、言い捨てた 一生も「康太が背負うものを俺等も背負う それだけだ で、本題を聞かせろ!」 と、康太を促した 「瑛兄には、一歳になる娘がいた 琴音と言う女の子だ だが、京香が家を出てすぐ…事故に遭い命を落とした オレは……その魂を転生して、オレの子として還す 転生の義を唱える儀式をやった それが、8月の頭だ 一生と、聡一郎は、牧場に帰っていた時だ オレは琴音を一条隼人の子供として下ろし、自分へ還す事にした オレは………隼人の子供を………貰う約束してたからな でも………それが隼人を地獄に落とす所業になろうとは……… オレは見えていなかった オレの罪は深い オレは………許されない 人の命を………操作したのだからな… 隼人は、本気で愛する女性を見付けた ここ最近、別行動が多いのは……デートだ もう少ししたら…隼人はオレに彼女を紹介する…… だが……その女性は……心臓に欠陥を持っていた それでも、彼女は子供を産む…… そして命を落とす そうしたら………隼人の苦しみは…… 想像すらつかない オレが作った罪だ……」 康太は苦しそうに言葉を告げた だが、一生は、康太に食って掛かった 「それのどこが、お前の所為なんだ! お前は隼人の恋人まで見えていたのかよ! そこまで想像出来たのならお前は、罪を作った! だが、相手までは見えてなかったんだろ! だったらお前は罪なんか作っちゃいねぇ! 運命まで、自分の所為にすんな! 隼人の運命は、隼人のもんだ! お前は隼人の子供に少し細工しただけだ…… それは罪なのか?違うだろ? だからもう自分を責めるな…… お前の宝なら、俺達も守る…… 命にかえて守ってやるから、お前は悩むな……」 一生は、そう言い……康太を抱き締めた 「一生……、オレには伊織もいる お前達もいる 辛くても……この道を行くしかねぇ でもな……一生……隼人の受ける定めは余りにも辛い 親と引き離され、大人の都合で生きてきた そんな隼人に、幸せを掴ませて遣りたかったんだ……オレは…」 榊原が、康太を抱く 「隼人は康太に出逢えて幸せでしょ? 隼人の育ての親は、飛鳥井康太 これ程の幸せはないでしょ? 息子の為に命をかける母を隼人は持っている」 聡一郎も康太を抱いた 「僕の命に変えても、隼人を守ってあげます だから康太は…苦しまなくて良いです。」 康太は目を閉じた 優しさが染みて来て、涙が溢れそうだったから…… 応接間に、慎一と力哉が帰って来て 康太の姿を見て、抱き着いて泣いた 慎一は……一生と同じ顔して泣いていた 「康太が、目を醒まさなかったら…… 俺も一生と聡一郎と共に行くつもりだった… 主を亡くしたら……生きらる訳ない! 康太が拾って連れて来たんだろ…俺を置いて行くな!」 と、泣いた 力哉も……ベソベソ泣きながら、康太に抱き着いた 「僕を戸浪から持って来たのは君なのに… 僕を放り出さないでよ!」 と、泣いた 康太は苦笑した 「力哉…お前には一生がいるじゃん。 オレなんかいなくても、一生がいればOKだろ?」 応接間から「ええええっっっっ!!!!!」と言う奇声が上がった 力哉は康太を殴った 「例え一生がいたって、君がいなきゃ僕は…居場所を無くして生きては行けないのに…… しかも、君を無くしたら一生だって生きてはいないじゃないですか? 僕は…また一人になってしまう…… もうあの孤独の中では生きては行けません……」 康太に抱き着き……泣いた 康太は溜め息を着いてボヤく 「やっぱ力哉の顔にやられたか……」 康太のボヤきに一生は 「顔じゃねぇよ まぁ顔も好みだが亜沙美とは違う人間だって理解してる 力哉の諦めなきゃって、必死に俺と接してる姿見るとな…。 愛しくして堪らない。 慎一が現れて、同じ姿見たら、緑川の子供は慎一に託そうって思った オレの子供は世界で一人 そう心に決めた。」 一生の心の叫びを聞いて慎一は 「一生…多分、俺はお前の期待には添えない」 と告げた 「慎一?」 一生が呼んでも慎一は黙ったままだった 仕方なく康太が、慎一の気持ちを代弁してやった 「慎一は、この先、子を残す気はねぇんだよ だから、託されても……無理なんだ。」 一生は、えっ……!と、言う顔で伸一を見た 「一生、慎一には、慎一の人生がある 押し付けるな!」 康太に言われ、一生は、溜め息を着いた 「押し付けてはいねぇけどな…… 慎一が現れて救われた 長い夜を救ってくれた力哉の手を取っちまったからな……」 一生にとって、慎一は救いだったのだ 慎一は、下を向いたままだった 康太は助け船をだしてやった 「だってな、慎一には、既に子供がいるかんな その子供を蔑ろにして、他には作れねぇ 慎一の想いだ。」 一生は、えっ……嘘…と呟いた 「一生…地に落ちた慎一にも、救いの時期は有ったんだ 慎一に救いの手を出してくれた女と愛し合った だが、両親が反対して駆け落ちした 幸せに暮らしてたけどな、子供が出来た… 出産が切っ掛けで親にバレ引き離された。 慎一が15、彼女は、17だったからな 無力だったから仕方がねぇ… 出産すると……彼女の親が慎一と引き離した 慎一は乳飲み子を抱えて生活出来ないから、双子は施設に入れた 慎一は、自分の手で子供を育てられなかった罪悪感がある… 何時かは子供を引き取り親子三人で暮らすのが、慎一の夢だ」 慎一は驚いた顔して康太を見た 「慎一、お前の子供は、綾香が退院して来たからな 施設から出して、綾香に渡しといた お前を緑川を名乗らせたのは、綾香と親子になる必要があったんだよ でないと、お前は未成年者 子供は施設から出せねぇからな…。」 慎一は「嘘…」と呟いた 「絢香は二歳の双子の祖母になって、毎日が大変で、長生きしなきゃなって、言ってる ………これから行くか?牧場へ?」 慎一は康太に抱き着き……泣いた 「慎一、辛かった日々も半分、幸せも半分 残りの人生は幸せが多いとオレは言わなかったか? 子供はまだ2歳 やり直せる年だ 子供の側にいたければ緑川に行けば良い お前にそっくりの男の子が二人 一卵性双生児だ 綾香は、お前に詫びる気持ちで二人を育ててる 孫を持てた幸せを味わっている 綾香は幸せな顔してたぞ お前が与えた幸せだ こうしてお前は緑川の子供になって行け」 康太は慎一を抱き締めた 「康太……俺……何て言えば良い?」 「何も言うな、解ってくれる。 飛鳥井の家にいる人間は…お前の事を解ってる。」 慎一は頷いて……泣いた 「慎一、牧場に行くかんな その前に、絢香に電話しねぇとな」 康太が慎一の側を離れると、榊原が慎一を抱き締めてやった 榊原は「康太は最初から知っていた そして君の力になろうと動いていた 慎一、君はもう一人じゃないだろ? 康太がいて、君達がいる。」と優しく声をかけた 慎一は、榊原に縋りついて、泣いた 康太は応接間に入って来ると、 「さぁ、行くぞ!」と声をかけた 一生は「誰の車で行く?」と聞いた 「伊織の車で、慎一と一生だけな 他は留守番だ。」 康太はそう言った 康太にそう言われ……聡一郎と力哉は固まった 「綾香は勘の良い女だかんな 力哉は不味い 一生が、力哉を母親に紹介すると言うのなら、構わないが…… 違うなら、置いて行け。 聡一郎、力哉を見ててくれ!」 聡一郎は「解りました」と引き受けた 康太はその返事を見届けるとスタスタと歩きだした 榊原は、一生と慎一を連れて外へと向かう アウディのロックを外すと、車に乗り込んだ 康太は後部座席に、一生と共に座った 「そのうち……綾香を説得してやる…だから、今は堪えろ 病み上がりだからな綾香は。」 一生は、康太に抱き着き、肩に顔を埋めた 「康太……ごめん……」 一生の母親の入院費は、康太が支払った 康太は綾香に個室に行けと言ったが、綾香は退院まで大部屋で過ごした 手術は成功して、退院した日も康太が迎えに行って、牧場まで送って行った 自分の母親の事なのに、総て康太任せにした…… そして……また、母親を説得してやると言うのか…… 優しすぎるよ康太 優しすぎる……… お前は人の事ばかり… 本当に………ありがとう 緑川牧場に着くと、駐車場に車を停めた 康太は車を下り、慎一の手を引いて牧場の奥へ入って行く 小さい子供に配慮して、玄関にはフェンスが張ってあった 康太はフェンスを開け、家の中へ入って行く 「綾香、慎一を連れて来た 和希と和馬を連れて来て下さい。」 康太が声をかけると、奥から子供が走ってきて康太に抱き着いた 「和希元気だったか? 和馬、鼻水は止まったか?」 康太は二人を同時に抱き上げた 「慎一、お前の子供だ しかし……偶然だな お前が一生の事を知る前に、自分の子を 《かずき》って名前を着けてるなんてな」 康太が慎一に話し掛けていると 和希と和馬が「こーしゃん。ぴゃぴやらぁー」と、話しかけてきた 「そうだぞ、パパだぞ! ほら、お前の子供だ!」 康太は和希と和馬を、慎一に渡した 慎一は…自分の子を抱き締め……涙が止まらなかった こんなに早く手に出来るとは想いもしなかった…… 康太に出会ってなければ…… ……多分……諦めてたかも知れない 死んでしまおうと…諦めた時もあった こんな自分が……親だなんて…… 子供に顔を出せる事なんてして来なかった 家の奥から綾香が出て来て、康太に頭を下げた 「康太さん、本当にありがとうございました 私は一生の子は諦めていたので、孫に逢えて本当に嬉しいです。」 綾香はそう言い、慎一の背中を撫でてやった 「綾香知ってたんだ?」 「車で送ってもらって、男とキスしてたら解りますでしょ? ったく、抜けてるんだから。」 「一生の子はオレが貰うからな」 「それが定め 私は何も言いません 一生も好きな子と、生きていけば良いんですよ どうせ、康太さんのいる場所でなければ生きられないんですから…」 と、綾香は笑った 康太は和希を抱き上げた 「一生、慎一はお前の存在を知らない時から、自分の子供に《かずき》と名付けていた この子供は和希 綾香の孫になる そして、慎一が抱き締めてるのが和馬 一卵性の双生児になる お前の甥っ子だ。」 康太は和希を一生に渡した 「綾香、タブルかずきだぞ。」 「まぁ、本当に……。 一生の子供の頃にソックリ。」 綾香は笑っていた 一生の手から抜け出した和希が、綾香の前に来て抱っこをねだる。 「ばーばー。らっきょ」 綾香は和希を抱っこして抱き締めた 「ばーばー、ぱぁーぱぁー」 父親を指差し、和希が笑う。綾香も笑う。 綾香はもう、病魔の影はなかった 綾香は、和馬も慎一に渡し部屋の中へどうぞ。と、招き入れた 緑川の家の中へ招かれ応接間へ行く ソファーに座る慎一の膝の上に、和希と和馬が甘えて擦り寄る 康太は慎一を見て、微笑んだ 「慎一、お前の子供も緑川を名乗らせた これからどうするよ? 此処で子供と暮らしても良い お前の好きな場所で過ごせ。」 康太がそう言うと、綾香が淋しそうな顔をした 「義母さん、子守りが大変なら此処へ住居を移します ですが、俺は勉強して来なかったから、学ばねば子供に顔向けが出来ません 週末とか、時間を作って来るので、暫く見てもらえませんか?」 「慎一も一生も、緑川の子供 そして和希と和馬は、私の孫 一緒に過ごせば、愛しさが増す 離れたくはないのが、本心 育てさせてくれるなら、このまま育てて行きたいと思っています。」 康太は綾香に 「ならば、長生きしねぇとな。」と微笑み言った 「長生きします 和希と和馬を、育てられるだけ、精一杯育てたい でも、この子達の父親は慎一、貴方です。 顔を忘れない様に、顔を出しなさい この牧場は、貴方の家です ちゃんと帰ってきなさい。」 「義母さん……」 慎一は、綾香に頭を下げた 康太は和希と和馬に、一生を指差した 「和希、和馬、この人は誰だ?」 康太が聞くと「かじゅー」と名を呼んだ 「そう、当たり、凄いぞ お前の叔父さんだ 遊んでもらえ。馬を教えてもらえ。」 康太は和希と和馬の頭を撫でた 「慎一、お前は学ばねぇとな 大学へ行け 時間を作って此処へ来て、子供と遊べ そして学べ そして、慎吾の悲願のサラブレッドを育てろ」 慎一は頷いた 諦めた人生だった 諦めて……堕ちるしかなかった そんな、どうしょうもない人生に 終わりを告げてくれた人 決して逃げ道を用意せず 命を懸けて歩く君の盾になろう 君がくれた人生だから 君といたい 君のいる場所で過ごしたい

ともだちにシェアしよう!