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第51話 忌諱
慎一は、子供の存在を知り、更に康太に忠誠を誓い恩返しをする気で励んでいた
11月11日 ポッキー&プリッツの日
その日が榊原の誕生日だった
10日の日に、榊原のネクタイを買いに、
康太は一生、聡一郎、慎一と、百貨店に来ていた
なんせ寝てたから、慌ててネクタイを買いに来た
色々ネクタイを探して歩く
聡一郎は、素朴な疑問を康太に投げ掛けた
「しかし……何でネクタイ?」
と、聡一郎に聞かれ………
康太は顔を赤くした
「伊織のネクタイ……ダメにした」
なんて、顔を赤らめて言われたら……
ネクタイで濡れる場所を縛った……としか、結論は出て来なかった
「オレが弥勒に体を与えたから、伊織は怒って……」
縛った訳ね……イッちゃう部分を……
一生も、聡一郎も、慎一も、榊原の気持ちが解った
愛する康太の体を誰にも触らせたくなどないのだ……
聡一郎は康太を慰めた
「探しましょうね
伊織に似合うのを探してあげます
ついてに、僕達もネクタイをプレゼントしてあげます。」
聡一郎が、言うと、一生も慎一も、
「なら、俺等もネクタイをプレゼントすっか。」
「そうだな。」
と、仲良く答えを出していた
学校をサボって、ネクタイを見に来た
だが、康太の回りには……店員すら寄って来なかった
プレジデントの増刊号が発売され、飛鳥井康太の独占インタビューが乗ったからだ
子供の様な顔してても、存在感はあり、果てを見れる瞳が印象的な写真が表紙だったから、話題になった
話題にはなったが……関わりたい人間ではないのは……あからさまだった
学園でも、康太と目を合わせようとする奴など、兵藤と清家…と、東矢位だけだった
康太の瞳は驚異に映る、それを目の当たりにさせた
聡一郎は、榊原のネクタイを見繕い渡した
「これなら、伊織に似合います
支払いしてらっしゃい。」
言われ康太は首をふる
康太は現金を聡一郎に渡した
「康太?」
「お前が払って来てくれ
オレは…止めとく」
康太が行けば店員はパニックになる……
明らかに店員達は康太を怪異の目で見て、目を合わせない様に必死だった
「オレが行けば…逃げるだろ…」
康太は自嘲的に笑った…
聡一郎は、静かに怒っていた
ネクタイとお金を掴むとレジへ向かった
レジにネクタイを置くと、贈答品だから包装なさい!と、命令した
「綺麗に包みなさい!
お客の接待に出て来ない店員など不要!
お客を何だと思ってるんですか!
それとも、僕達は客にすらカウントされてないのですか!失礼でしょう!」
聡一郎は、康太を想い……怒っていた
店員は、自分の非を認め謝った
その光景を……百貨店の視察に来ていた、副社長の道明寺達也の目に留まった
道明寺は、眉を顰め……聡一郎の方へ近寄って行った
「御客様、何か失礼が御座いましたか?」
と、道明寺は、聡一郎に声をかけた
聡一郎は、声をかけて来た男を睨んだ
「客の接待にも来ない!
逃げて回ってる店員を見て、文句を言わない客などいない!
僕達は客ではないのか?
そんな態度をされて、康太は傷付かないと思ったか?
まるで化け物扱いだな!
バカにするのもいい加減にしろ!」
聡一郎は叫んだ
康太は、卑下されて良い存在などではないから…
康太は自分の立場を知っている
自分の目がもたらす驚異を知っている
自分は驚異の存在だから……と、今も目を伏せてる
逃げて行く店員に……逃げて行く人間に傷付かない筈などないのだ!
道明寺は、聡一郎に問い返した
「我が店の店員がした行為なのですか?
それに間違いはないのですか?」と。
道明寺には信じられなかった…何故その様な振る舞いを……?
そんな道明寺に聡一郎は、一歩も引かない
「ならば、貴方に問おう!
あそこに居るのが、このネクタイの購入者だ!
彼の回りに店員は居るのか?
店員が見立てているなら、わざわざ僕がレジまで持って来ずとも、包装をしてくれる筈!
違いますか?
何故、僕達はわざわざレジまで来なきゃ行けない?
店員が見立すらしないからだろ!」
道明寺は、聡一郎に頭を下げた
「申し訳ありません
我が社の店員がした事は、責任者の私の責任
謝罪の言葉を、あちらの方にも申し述べないといけませんね。」
道明寺は、康太の側に行き、声をかけようとして………その姿に気付いた
プレジデントの増刊号を飾っていた子だと……
「飛鳥井康太様?」
と、名を呼ぶと、康太は伏せていた瞳を、道明寺に向けた
あぁ……この瞳………
伏せていたら解らないが、開ければ一目瞭然
道明寺は、康太を真っ直ぐ射抜き、頭を下げた
「我が社の社員は、未熟者故…お許し下さい
お詫びに、その商品をお持ち帰り下さい」
道明寺が言うと、康太は嗤った
「馬鹿にするな!
物乞いに来た訳じゃねぇ!
聡一郎、そのネクタイはもう良い!帰るぞ!」
康太は背を向けた
「来んじゃなかった!」
康太は呟いた
道明寺が近寄ろうとしたら、一生と慎一が、康太の壁になった
双児の様な顔をした男が、道明寺を警戒して動く
主を守る忠実な人間は、無駄のない動きで康太を守っていた
「お待ち下さい!
此処で貴方に帰られたら、我が百貨店の名が廃れます!
貴方が買い物を終えるまで、このフロアーは閉鎖致します!何人たりとも入れません
私が貴方のネクタイの見立てをします
それでお許し戴けませんか?」
道明寺は、康太に頭を下げた
康太は、それを飲むしかなかった
「このネクタイはオレのじゃねぇ
伴侶のネクタイだ
オレに見立ててもらっても困る。」
「では、その伴侶様に似合うように、お見立て致します
伴侶様のお写真とか有りますか?」
康太は、スマホを道明寺に見せた
「この方が伴侶様ですか
男前ですね。
でしたら、この様なネクタイは如何ですか?」
道明寺は、榊原のイメージからネクタイを見立てた
やはりプロの目は凄い
榊原に似合う逸品を選ばれて、康太は笑顔だった
「すげぇな。やはり、プロは違うな。」
「康太様、その商品はお買上下さい
心を込めて梱包させて貰います
ですが、お詫びとして私からの謝罪として
もう一品、見立てさせて下さい。
商品で誤魔化そうとか、そう言うモノでは御座いません
本当に心よりのお詫びで御座います
お受け取りください。」
道明寺は、そう言い、ネクタイを選んだ
「これなど、伴侶様にお似合いかと。」
康太は、道明寺を見て、
「それでは、対価の方が高くつくぞ」と、言い放った
値札など見せてはいないのに……
総てはお見通しか……道明寺は、苦笑した
「いいえ。飛鳥井家の真贋に向けた失礼です
この対価でも見合いはしません
ですが、これ位で、お許し下さい」
道明寺は、悪戯した子供の様に笑った
「ならば、ほんの少しアドバイスを下さい
康太様は、どうして、当百貨店へお越しに?」
「我が伴侶の義父、榊清四郎に教えてもらった
ネクタイを買うなら、この百貨店だと、品数と品質が良いと。」
「伴侶様は榊様の御子息でしたか
康太様は、この百貨店を見て、どう想いましたか?
率直な意見をお聞かせ下さい」
「オレに聞くか?」
「はい。」
「この百貨店は、何を目指しているんだ?」
「何を……?」
「玄関付近は重厚な入り難さを醸し出し
店内はリーズナブルをアピってる。
人は、入る時に顔を見る
予算で買える顔か見て入る
だが、顔が高貴すぎると、人は躊躇う
客足が増える筈などないわ。」
ズバズバ言われ…道明寺は、苦笑した
「今のご時世店員の意識の向上も必要だ
例え客がオレでもな
恐れず客の接客をする意気込みがなくば、プロとは言えぬ
アンバランスな店内に、素人の店員
客が店員を見るのだぞ!
店員が客を選んでどうする?
お粗末過ぎる
飛鳥井なら解雇通告を突き付けてやる程だ」
飛鳥井建設の真贋の情報は、週末に企業に伝わり知れ渡った
そして、一般の人間にもプレジデントの増刊号で知る事となる
その時、康太の携帯電話が鳴り響いた
康太の胸ポケットから、慎一はスマホを取り出し、少し離れて通話を押した
「康太は今、電話に出れない。」
「慎一、何をしてるか教えなさい。」
「康太は今、貴方の誕生日プレゼントを選んでます。」
「何処の百貨店?」
「花菱です。来なくて……」
良いですよ……と、言う前に、行きます!と告げ、榊原は電話を切った
慎一は溜め息をついた
康太の所へ戻ると、胸ポケットにスマホを返し
「伊織からだった…」と康太に告げた
「来なくて…」康太は言おうとすると
「良い!と、言う前に電話を切られました」
と、慎一がため息混じりに答えた
「プレゼントにならねぇじゃねぇか!」
康太が落ち込む
一生が「康太、旦那が来る前に、支払いを済ませ、包装してもらって来い!」と言った
それしか、ないから……
康太は「包装してくれ」と道明寺にお金を払い、頼んだ
道明寺は、暫くお待ち下さい。と言い、包装をしに行った
一生は「仕方ねぇよ……。
世間の康太を見る目を旦那は気にしてる……
康太が傷付かねぇ様に……側にいようとしてるんだ
解ってやりなはれ!」と、康太を慰めた
暫くすると、立派な花で装飾された箱を二つ
綺麗な紙袋に入れて、康太に渡してくれた
完璧な仕事だった
しかも約束を違える事なく、もう一つの高価なネクタイも、包装してくれていた
康太は、道明寺に名刺を渡した
「これをやる
運気を詠んで欲しければ、電話して来い
お前なら、多少の無理は聞いてやる」
道明寺は、信じられない想いで名刺を受け取った
飛鳥井の真贋に運気を詠んでもらうには、何年も待たねばならない
それでも、気に入らない仕事だと、断られる事もある
しかも鼻から受けてはくれない時もあると言うのに……
その真贋が名刺をくれて、運気を読んでやると言うのだから……
信じられはしないだろう
康太の横にいた慎一が康太から離れて榊原を、迎えに行った
道明寺は「何故ですか?」と、康太に尋ねた
「オレは……伴侶に合うネクタイを選ぶのさえ諦めていた。
なのに、お前は見繕ってくれ、包装も綺麗にかけたくれた。
オレは伴侶に相応しいプレゼントが買えて嬉しい。その代価だ。
お前は客に対して誠実だった
お前は、客を愛している
天武の商魂。客を愛して配して、お前の百貨店は甦る。」
父親のやってる会社だった
大学時代は百貨店で、バイトをした
将来、背負う世界を知る為に
仕事を初めて、接客した客に有り難うと言って貰った時……感動した
客を喜ばせる百貨店にしたいと、想い続けて来た
総ては客を喜ばせる為に店を作ろうと……
そう思っていたの……何時から忘れた?
副社長職に着いてから、客と対面する事さえなくなった
忘れてた気持ちが蘇り、道明寺は康太に頭を下げた
康太のお礼は、それ程、新鮮だった
「康太様、有り難きお言葉です
そもそも、店員の失態ですから、管理する側としては当たり前です
それを勿体ないお気持ち、有り難いです
週末にでもお電話を差し上げますので、宜しく御願いします。」
道明寺は、深々と頭を下げた
そこへ、榊原がやって来て、康太の側へと行った
榊原は、腕にした康太を見て胸を撫で下ろした
「何故…朝は学校へ向かって、休み時間にはいないんですか?
心配するでしょ?」
榊原の腕が康太の腰を掻き抱く
道明寺は「伴侶様ですか?」と、微笑んで康太に話しかけた
道明寺の目の前に、榊 清四郎を若くしたような若者が姿を現し、臆する事なく、その腕の中に康太を抱いた
「おう。オレの命だ。」
康太は笑って榊原を、見上げ
「伊織、この方が諦めてたお前のプレゼントを見繕ってくれて、綺麗な包装をかけてくれた。御礼を言ってくれ。」
榊原に紙袋を見せた
紙袋の中には美しく包装された箱に、綺麗な花がアレンジしてあり一際華やかに際立たせていた
榊原は、深々と頭を下げた
「プレジデントの増刊が出て以来、僕の康太を怪異な瞳で見る方が増えて、気にしてたんです。
妻が世話になりました
我が父、榊 清四郎が紹介だけあります
お世話になりました。」
榊原は康太を腕に抱き、嬉しそうに笑った
「さぁ、帰りましょうか?」
「うん。これは伊織んだから。」
康太は紙袋を榊原に渡した
榊原は紙袋を貰い、康太を促した
道明寺は、二人に深々と頭を下げ見送った
榊原は、康太を守る様に歩いた
エスカレーターに乗る客が、擦れ違い様に康太から顔を背ける
あからさまな態度をされる
『人にとってオレの存在など、怪異だ。』
と康太は言った
まさに、今、康太の言う通り、康太の姿は恐れられていた
なのに、康太は胸を張り、前を見据える
堂々として、康太は歩く
その姿に一点の濁りも引け目もない
飛鳥井と言う、家を背負い、飛鳥井一族の未来をその背に背負っている
どこから見ても、飛鳥井康太だった
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