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第53話 昇華①
昇華の反対は昇華なり
相反する2つの昇華を手にする時
2つの存在は表裏一体となる
飛鳥井の菩提寺の駐車場に車を停めると、康太は車から下りた
駐車場には、弥勒が待ち構えていた
そして、滅多と山を降りぬ紫雲龍騎が……住職と共に待ち受けていた
康太の到着に深々と頭を下げた
「お待ちしておりました
康太は、我等と
伴侶と仲間の方は、住職と共に、来てくだされ。」
謂われ、康太は弥勒と紫雲の方へ歩を進めた
榊原と、一生、慎一は、住職の方へ歩を進め
別々の方へ、離れて歩いて行った
断崖絶壁の山へと続く道を通り、道なき道を行く
紫雲は「準備は良いか?」と、尋ねた
康太は不敵に嗤い
「万端だぜ!」と答えた
弥勒が「体調は?」と、聞いた
「力が内から満ちて来て、今のオレは結構すげぇかもな!」
「ならば、行くぜ!」
弥勒は腕時計を見て「夜明けまで5時間もねぇぞ!
夜明け前に登り、最終奥義に入らねばな。」と、告げた
日付が変わると、飛鳥井の家を出た
飛鳥井の家から一時間ちょい
AM1時から断崖絶壁を登り、道なき道を歩いて進み
上に着くのは早くても三時間はかける
AM4時には頂上に上がれるとしても、儀式に入るのは夜明け前でなければいけない。
気が抜けない……スケジュールだった
康太は腕だけで断崖絶壁を登った
そして、道なき道を歩いて、また絶壁に出る
その繰り返しをして上へと登って行く
康太は当初からペースを落とすことなく絶壁を上って行き、見えているかのように、道なき道を歩んだ
そして、当初の予定より早く、山の頂上へとたどり着いた
後を追う、弥勒と紫雲が……着いて行けぬ程の早さで頂上へ辿り着き、頂上かは康太が笑って二人を見下ろしていた
弥勒は「絶好調なのは確かだな。」とボヤいた
紫雲は「百年の時を経て来られし真贋の本領発揮ですか?」と、余りの凄さに問い質した
「オレには守るべき伴侶がいる
仲間がいる
家族がいる
それ等を守る為に、オレはいる
産まれてくる子供の為にもな、オレは闘わなきゃいけねぇんだよ。」
康太はニカッと笑った
「さぁ、行こうぜ。これからが、本番だ!」
康太は神殿へと向かって歩き出した
神殿に着くと、紫雲は陰陽師の衣装に袖を通した
弥勒と康太は白装束に身を包んだ
康太に白装束を着せたのは弥勒だった
全裸にした康太の素肌に白装束を着せて行く
総て着せると、康太に草鞋を履かせた
「オレは何時でもで良いぜ!」
康太の瞳が光る
康太の前に紫雲が現れると、最終奥義の巻物を広げた
巻物の文字が、康太目掛けて吸い込まれて行く
康太の胎内に吸い込まれて行き文字は……消えた
「これより、光臨奥義 昇華の義を唱える儀式を始める
この儀式を生きて無事終えれたのは、百年前の貴方だけだ。」
「今度の体はちぃさぃからな
生きて帰れるかはオレでも解らねぇよ。」
「伴侶が小さいのが好みなのですか?」
「違う。伴侶はオレの魂なら何でも愛してくれるさ
体がちぃさぃのは、伴侶と共に転生した時に、一緒に輪廻の輪を潜ったからだ
その時に魂が押し潰されて……
今世のオレは少し小さいだけだ!」
弥勒と紫雲は言葉もなかった
そしてふんぞり返って言う子が愛しくて……
そんな仕草も愛しくて堪らなかった
「光臨奥義は…人の感情も命も貴方の手で、どうにでも出来る……
一族の人間だとて文句は言えません……
神になろうと思えばなれる……そんな奥義です。」
「オレは神になりてぇ訳じゃねぇ!
人は死して生まれ変わる生き物
摂理を変えれば果ては歪む
オレはそんな事は望んじゃいねぇ
巻物が呼ぶから、ついでに来てやっただけだ。」
康太がそう言うと、弥勒は大爆笑した
「昇華が呼んだか?
お前しか存在意義を見いだせぬ巻物だからな、呼びぶかも知れんわな。」
「百年前も今も、オレは人間だ。
化け物扱いされてもな、オレは人間だ
堕ちはせんよ
オレは人間であり続けたい。
そして伴侶に抱かれる体を持ちたい。
だからな、神なんぞクソ食らえなんだよ!」
「お前は飛鳥井康太だ!
それ以外にはなれねぇ!そうだろ?」
弥勒は笑って康太の肩を叩いた
「さぁ、行くぜ!」
弥勒の号令で、試練の裏山の洞窟目指して向かって歩き出す
靄の掛かった向こうの世界に渡り、洞窟に足を踏み入れるなり試練が始まっていた
目の前に……列車事故で潰れた死体があった
蠢く体に……呻き声が響いていた
康太は素通りして通りすぎて行く
『 助けて……』と康太の足を掴む手を、払い除け、康太は歩く
誰一人助けることなく康太は歩いた
『なぜ助けぬ!』
天空から声が聞こえる
「オレの力で、全員は無理だ。
助かる命と、見過ごされる命と線引き出来ねぇからな……。
ならば、オレは誰一人助ける気はねぇよ」
康太が言うと笑い声が聞こえ
『百年の時を経ても、お主は変わらぬな。
でも、百年前とは違うぞ。一緒だと思うなよ』
戦国の世に飛ばされた
目の前でザバザバ人が切られていた
目の前を霞めて行く刀は本物で、気を緩めば、切られて死ぬ
辺り一面………死体が転がっていた
襲いかかって来る輩を、刀を出して斬るしかなかった
情け容赦なく人の命を斬る……戦国の世が……そこに在った
ひっきりなしに刃先が飛んでくる
気が緩むと……死ぬ、世界
体力も気力も底を着くのが早い
「康太!昇華しろ!」
「まだ巻物が完全にオレのもんになってねぇよ!」
「それでも!やれ!!
このままじゃ死ぬ!」
「くそったれが!
何で昇華の刀が、妖刀マサムネなんだよ!」
「俺に聞くな!知らんわい!」
「何で弥勒が聖剣なんだよ!くそ!」
弥勒の手には聖剣エクスカリバーが握られていた
「やっぱ、俺って持つに相応しいんじゃねぇか?」
ふふんっと弥勒が謂うと、康太が
「それを、寄越せ!」と剣をふんだくろうとした
「無理だって!
そんなに可愛く拗ねるな!
可愛く拗ねると抱きたくなるだろ!」
「お前……斬るぞ!」
康太に睨まれ、弥勒は苦笑した
「冗談だってばぁ……」
「仕方がねぇか?
オレは可愛いからな!」
康太はニカッと笑って親指を立てた
「自分で言われると……何かムカつく…」
康太は弥勒の尻を蹴り上げた
「痛てぇな!蹴るんじゃねぇよ!」
「昇華やるから、刃を越させんじゃねぇぞ!」
「守ってやるがな!
お前に刃が行く時は、俺の命はねぇ時だろ!」
そう言い弥勒は康太のガードに徹した
刄一本 康太の前には通さぬ!
弥勒は構えた
康太は刃先に、思念を送る
体の巻物を細胞に取り入れて……想い起こす
康太は刀で印字を切った
刃先に…………人の苦しみ……無念…悲しみ…刹那…憎しみが集中する
1つの………精神世界が……そこに在った
康太は、それらを刃先に集め………覇道で還す
康太は……思念の籠った刃先を振りかざした
「……っ…クソ重てぇな……昇華ぁぁぁぁ…!!」
物凄い力で……振り飛ばされ…天に昇華されて行く様は、壮絶だった
弥勒は一人ごちた
「この昇華の奥義は美しい奥義なのにな……
康太の手に掛かったら……
わらわらバラバラやん
やっぱ繊細さがねぇと美しさは出ぬか……」
弥勒の頬を冷たい刃先が当たる……
「美しく飛ばされてぇか?」
弥勒はブルンブルン首をふった
康太と弥勒が……漫才ばりの珍道中を繰り返し……ステージを攻略して行く最中
榊原と一生と慎一は、菩提寺で、修行僧より辛い修行を……難なくこなしていた
「康太の無理難題より楽でんがな!」
と一生は、物足りなさを醸し出していた
榊原は、掃除も洗濯も大好きで
修行僧が起きる前から……仕事を取り上げていた
康太を抱かねば寝られない
疲れて気絶して、起きたら掃除で気を紛らわしていた
慎一は……器用に……仏具の掃除をしていた
施設に入っていた時に…
その施設が寺の管理するもので、やらされていたと……言った
住職は…一生と、慎一の2人に………従者の義を唱える儀式をやります……と告げた
その昔…賢者にお仕えした従者の請けた儀式を……2人は受ける
一生と、慎一は、儀式の間へ僧侶と共に向かった
そして榊原は、伴侶の義の最終奥義を、受けなさいと告げられた
康太が昇華なら、榊原は真逆の【 昇華 】を御用意致しました!と住職は言った
「昇華の反対は昇華しか存在はせぬ
百年の時を越えた真贋の伴侶ならば、出来るでしょう。さぁどうぞ。」
住職は………榊原の目の前で…巻物を開いた
巻物の文字が……榊原の胎内に……吸い込まれて行った
榊原のサポートには紫雲龍騎が、出る事となった
榊原は、本殿を奥に入っていった、祭殿横の扉を開け
奥義の間に紫雲と共に、中へ入って行った
「覚悟は宜しいか?伴侶殿。
伴侶の義より、遥かにハードで精神的にキツい……
それが最終奥義【 昇華 】です。
康太がやる昇華の表裏も、また【 昇華 】なり
行きますぞ、伴侶殿。」
「康太が進む道ならば、僕も進まねばなりません
この命を賭して、僕は行きます。
サポートお願いします。」
紫雲は頷いた
そして暗い部屋の中へと…入っていった
靄がかかった暗闇を歩いてい行くと、
目の前に壮絶な事故現場が現れた
榊原の目の前に……苦しみ……悶える……
絶叫を吐き……息途絶える骸の山を目にしていた
その中に康太がいた
康太は血を流し……絶命寸前だった
榊原は、康太には目を止めずに歩き出す
榊原は願った
救われない魂の昇華を……
願って………昇華をさせようとした
手には正剣 正宗
紫雲はそれを見て、笑った
「康太は妖刀 マサムネで、伴侶殿は 、正剣 正宗ですか
夫婦ですから、呼ぶ剣も同じですか。」
榊原は、微笑み、剣を構えた
「何だか……僕の胎内の巻物が教えてくれてるので、やってみます。」
榊原は、剣の刃先に想いを籠めた
痛み……苦しみ……悲しみ……怒り……憎しみ……
憎悪…恨み辛み……総て刃先に想いを籠めた
そして剣を振り上げると……覇道で地に堕とす
康太が天に上げ還すならば、榊原は地に堕とし地に還す
魂は綺麗な浄化を遂げ霧になり地に還った
「流石伴侶殿
美しい奥義【 昇華 】でした。
康太の昇華は、わらわらバラバラ、天に上がって行ったみたいですが……」
「我が妻は……雑いので……」
榊原は、苦笑した
「さぁ、行きますよ。此処は地獄…甘くはないですよ。」
榊原は、頷き歩を進めた
一生と、慎一は、住職に連れられて、儀式の間に連れてこられていた
僧侶は、二人の目の前で、2つの巻物を見せた
「この巻物は、従者の義を唱える儀式の巻物です
1つが表、1つが裏の、従者の義です
この巻物は開いた時に、どちらかを、巻物が選びます
そしたら、後ろの儀式の間にお入りください。」
僧侶が二人の目の前で巻物を開く
開かれた巻物は、まるで意思があるかのように、文字が浮かび上がり
選んだ人間の方へ目掛けて吸い寄せられて行った
表の巻物が選んだのは……慎一だった
裏の巻物が選んだのは……一生だった
僧侶は「貴方達は、此より従者の義を行います。
表の慎一さんは精神世界を魅せられ、心との闘いです。
裏の一生さんは、肉体で闘って抜け出して下さい。
さぁ。どうぞ、お入り下さい
尚、命に関わる場合は、私が入り、中止にしますので了承してください。」
襖が開けられ、一生と慎一は中へ入った
慎一は……見渡す限り……思念の渦の中にいた
一生は……突然、刃で襲われそうになった
戸惑っていたら、こっちがやられる
二人は動き出した
一生は、慎一に「何があっても出るからな此処から!」と、声をかけた
慎一は「当たり前だ!俺には子供がいる!死んでなんていられません!」と、叫んだ
「なら、行くか!」一生は構えた
そして手に聖槍、ロンギヌスの槍を出した
「槍かよ!エクスカリバーとかじゃねぇのかよ!」ボヤき、槍を振り回した
慎一の手には三日月の様に長く撓った三日月宗近が握られていた
慎一は、剣を構えると空を切った
一生は、来る奴を槍で薙ぎ倒した
そして、歩を進めて、奥へと入っていった
康太、榊原、一生、慎一の、長い闘いが始まった
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