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第5話

「船長。ぼく、船好きだよ」 「そりゃよかった」  ユストと船長は顔を見合わせて笑った。マストの上だ。  帆はすべて綺麗にたたまれている。ユストも手伝いで活躍した。 「もっと船に乗ってたかったのになあ」 「俺もユストを引き抜きたいんだがなぁ。おまえはいい水夫になるぞ」  えへへとユストは照れ笑いを浮かべた。 「なにしにシーザ国へ行くのか知らねぇが、ま、用事が終わったら頼って来な。力になってやる」 「ありがとう。あ! ハーラントさんが戻ってきた。ハーラントさーんっ!」  預けていた馬を取りに行っていたハーラントに手をふる。 「わっ。すごいね! ハーラントさん気がついてくれたよ」  豆粒みたいに小さいハーラントと視線が合ったことにユストはびっくりした。 「ひゃー。おっかない旦那だなあ。この距離で見えるのか……」 「じゃあぼく行くね!」 「おう。元気でな」 「うん!」  ユストはロープに手と足を絡ませると滑り下りた。甲板で顔馴染みの水夫に構われながら船を降りる。 「ハーラントさーん! お帰りなさいっ」  走って来た勢いのままハーラントに飛びつく。ハーラントはビクリともせずユストを抱きとめた。 「これが馬? すごく大きいねっ」  ユストが見上げるほど大きいハーラントよりさらに大きい。馬は、ブルルルッと嘶いて鼻面をユストに押しつけて来た。 「ひゃっ! つめたーい。鼻水つけられちゃったぁ」 「よかったな。気に入られたみたいだぞ」 「さわっても大丈夫?」  ハーラントはくふっとヒゲを動かして「たぶんな」と笑う。 「よろしくね。えっと?」  ユストが馬の名前を目で問うと、 「ブロンだ」  ハーラントが教えてくれた。 「ブロン、仲良くしてね」  そおっと鼻面を撫でると、またもやブルルッと鼻しぶきを飛ばされた。 「ユスト、ブロンの名前の意味は噴水だ。気をつけろよ」 「ええー。それさきに言ってよぅ」  ユストは手で顔を拭いながら唇を尖らせた。 「馬車にしようかと思ったんだがな、ユストは馬車より乗馬の方が好きそうだから俺と相乗りだ」  ハーラントはユストを下しながらそう言った。 「馬車ってなに?」 「向こうを見てみろ。ああして馬に車をひかせているだろ。あれが馬車だ。おまえは船でもマストに登ってる方が性に合ってるようだったからな」  たしかにそうだった。ユストの船酔いはマストに登るようになってからすっかり良くなったのだった。 「しばらくは天気が続きそうだし遠乗り気分で馬を走らせるのもいいさ」  ハーラントはユストを眺めた。 「ちゃんと俺の言った服装だな」  今朝ユストはハーラントから最初の寄港地で買いそろえていた乗馬服を着るように言われていたのだ。着込むのが苦手なユストは初め嫌がったのだが、尻の皮が剥けるぞ、と脅されてしぶしぶ言うことをきいたのだった。 「これを着たら出発だ」  ハーラントはそう言ってブロンの背につけた振り分け荷物から大きな布を取り出した。 「なにこれ?」 「乗馬マントだ。風や埃よけになるし、万一落馬しても体を守ってくれる」  マントの留め金を首元で止めてもらいながらユストはうへえと眉を下げた。だがそれもブロンにまたがってしまえば満面の笑顔だ。 「すごーい! たかーい!」  キャッキャッとはしゃぐユストをハーラントが後ろから抑える。 「ユスト、そんなに暴れるとすぐに疲れるぞ」 「大丈夫!」  これはしばらく好きにさせて疲れさせるに限るな、とハーラントは小さく笑った。

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