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第7話

(※ 受けのユストに対して暴力表現があります。大丈夫な方のみご覧ください) 「ハーラント、ご苦労だったな。して、それが生粋の人魚の雄か?」  金色のたてがみをした獅子獣人の王に見つめられてユストはハーラントの影で小さくなった。  うずくまった石の床は冷たく湿っている。分厚い壁はなんの汚れか黒くくすんでいてぞっとする雰囲気だった。  ユストはあれほど鬱陶しく着るのが嫌だった乗馬マントを胸元にかき集めた。縋りつける距離にハーラントの大きな背中があるのだけが頼りだ。  城に着いた早々、ユストとハーラントはこの建物に連れて来られたのだった。「なぜ実験室で?」と不満も露わに呟いたハーラントが印象に残っている。彼にとってもこの対応が予想外だったのだろう。  これからどうなるんだろう。  ユストは目の前にあるハーラントの乗馬マントの裾をギュッと握りしめた。 「では間違いないか確かめろ」  王の言葉で隅に控えていた白いローブを纏った獅子獣人がユストに近寄って来た。灰色のたてがみの貧相な体躯だ。 「やだ! やめてっ」  伸びて来た手を払いのけるのと、ハーラントの懐に抱き込まれるのが同時だった。 「麗しい同族愛だな、ハーラント」 「陛下っ!」 「おまえたちキメラの一族が我が配下であるように、そやつも私の忠実な僕だ。秘密は秘密のまま守られている。なにも気にすることはない。なにも、な」  ユストの背中からハーラントの腕が滑り落ちた。 「ハーラントさん……?」 「許せ、ユスト」  ハーラントがユストから視線をそらせる。  ひんやりした空気がユストを取り巻いた。  立って、逃げなきゃ!  辺りを見回すが窓は遠い。 「おやおや、怖がってらっしゃる」  灰色の毛並みの獅子獣人が笑った。 「怖がることはありませんよ。あなたケガがすぐ治るでしょう? それをね、確かめさせてほしいだけです」 「ど、どうやって?」 「簡単ですよ。少し、腕でも足でも切らせてください」  石を組んだ壁はなめらかに削られていて、よじ登る手掛かりはなさそうだ。それでもユストの細い指ならなんとか引っ掛かるかもしれない。 「このナイフはメスといってとても切れ味が鋭いんです。痛みなく切れますし、傷口も美しいのですぐ治りますよ。安心してください」  窓は正面の壁の上だ。灰色の獅子獣人の横をすり抜けないといけない。それよりは、とユストは横に視線を走らせた。壁を回り込むことになるがすり抜けるよりはグルリと壁を這って移動したほうが捕まらないかもしれない。  ヘルゲなら楽々とやってのけるだろう。  ぼくにできるかな……。  自信はない。でもやるしかない。  ユストは這いつくばった姿勢で手足に力を込めた。  いけっ! 走れ!  手足で床を搔いて壁に飛びつく。ガリガリと爪が滑った。隙間に指先をねじ込みよじ登る。 「まるで猿のようですねえ。ああ、そういえば猿獣人に育てられたんでしたっけ」  のんびりした声が聞こえたと思ったら足首を掴まれた。床に叩きつけるように引きずり落とされる。 「ギャッ!」  指先が火をつけられたように熱い。 「爪が剥がれましたね」 「ユストッ!」  ハーラントの声にユストは痛みに霞む目を瞬いた。ハーラントはなにかを堪えるように体中に力を込めて唇を噛みしめている。 「この爪は剥いでしまいましょう。どちらが治りが早いのか興味がありますね」 「ヒギャッ!」  ぶつん、と肉がちぎれる衝撃があった。 「ルトムート、拷問ではないぞ」 「そうでした。申し訳ありません陛下」  ルトムートと呼ばれた灰色の獅子獣人はユストの手を離すと王に向き直って頭を垂れた。再びユストの方に向き直ると小首を傾げて思案する。 「さて、手の治癒は爪でみるとして……それでは足の腱でも切ってみましょうか。逃げられても困りますから」 「いやーーーーーーーーっ!」  そこでユストの意識は途切れた。

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