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第3話

「お帰りなさいませ、ご主人様。」 akiraを男と知ってから、克樹は彼の働く執事喫茶に通い詰めていた。 理工学部の大学院生である克樹の通う学校は、この執事喫茶から徒歩10分程度と近い。女性客ばかりである空間に慣れれば、この場所は存外居心地が良い。研究の息抜きによく訪れるようになっていった。 来店スタンプカード―1枚に30個押す欄がある、が全て埋まった頃 小さな異変が現れた 「ご注文を確認いたします。ナポリタン1つとコーヒー1つですね。」 日常化した執事喫茶通いで、克樹の注文をakiraが取っていた。通い詰めていると、目当ての店員も把握される。akiraが休みの時や他の客と対応してる時以外は、克樹の対応をしてくれる。 「それでは失礼いたします。」 akiraはそう言って一礼し、克樹の席を離れようと後ろを向いた時。笑顔を絶やさないakiraの表情が一瞬陰ったように、克樹には見えた。気にはなりつつも、気軽に聞ける程の間柄ではない。克樹とakiraはコスプレ仲間であっても、執事喫茶内では客と店員の関係だ。 ―そういえば、イベントでも元気がなかったな。 注文した料理を待っている時、克樹はふと一昨日のアニメイベントのことを思い出した。 今期の話題のアニメのキャラクターの併せをakiraとしていた時のこと。オンオフでも集中力を切らさないakiraが、珍しく休憩時にため息をついていたのだ。 「・・・大丈夫かな。」 克樹は別のテーブルで注文対応しているakiraを見つめて呟いた。 誰に聞かせるでもない、小さな声で。 ◇◇◇ 「ご注文のコーヒーとサンドイッチになります。・・・あと、こちらも。」 店内でakiraの異変に気付いた翌日。克樹は戸惑っていた。店に入るとakiraは休みなのかフロアに居ない上に、注文対応をしてくれている店員にやたらと睨まれているからだ。口調は怒っている様子もなく至って普通なのが逆に怖い。 注文したサンドイッチとコーヒーが運ばれ、テーブルに置かれる。それと共に、半分に折りたたまれた紙片もテーブルに置かれた。何だろう、と思い、克樹はそれを手に取った。 『番犬モードの磐城(いわき)くんね!』 『久しぶりに見たね。』 両手で半分に折られた紙を開こうとした時、斜め前の女性客2人がひそひそ声で話しているのを聞こえた。彼女たちの会話に首を傾げながら、克樹は開いた紙に書かれた文字を読んでいた。 “晶のことで話があるので、14時に1階の喫茶店でお待ちください” 睨みをきかせている割には丁寧な文言に面食らった。 akira=晶であることは、この店のネームプレートを見て既に知っている。克樹の中に、嫌な予感が駆け巡った。

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