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第4話
「お待たせしました。」
克樹を呼び出した相手は、14時丁度にやって来た。
克樹自身は、呼び出しの30分前に1階の喫茶店で待機していた。店の中でずっと睨まれていたのが落ち着かず、この喫茶店に避難して穏やかなクラシック曲を聴いていた。
克樹の正面に座った男は、短髪の黒髪に切れ長の右目の下にほくろがある。その鋭い眼光で、席に着いてからもずっと克樹を睨んでいた。
「この度はお時間をいただき、ありがとうございます。単刀直入に聞きます。・・・あんたが晶のストーカーか?」
男の質問に、克樹の頭の上には疑問符が飛び散る。akiraに告白はしたが、ストーカーをしている訳ではない。どこに住んでいるかも知らない上に、彼が大学生であるというのも執事喫茶に通ってから知ったくらいだ。コスプレで併せをしている時と今を比べても、相手のことについて知っている事柄は多くない。。
「違います!ストーカーなんてとんでもない!!」
「それでは晶とどのような関係で?」
克樹は身に覚えのないことなので、音が鳴るくらい首を横に振って全力で否定する。だが相手はその答えに納得せず、克樹に詰め寄る。初対面で、敵意むき出しの相手に自身の趣味に関わる話をするのは気が引ける。しかし克樹は、akiraのストーカーではないことを信じてもらうためだ、と重い口を開いた。
「実はakiraさんとは、コスプレで一緒に行動する間柄でして・・・。」
言葉が見つからず、上手く説明できない。条件を絞って複数人でコスプレをすることを意味する”併せ”も、オタク知識がなければ意味のわからない言葉だ。それをどのように説明しようかと考えていたところで、相手の顔色が変わった。じっと前かがみになって克樹の顔を見つめる。
「・・・もしかして、朔月さんですか?」
一発で克樹のコスネームを言い当てた男に、克樹はそうです、と頷いた。すると、男の表情は青ざめていき、額をテーブルに勢いよくつけて謝った。
男の名前は磐城学
akiraの幼馴染であり、彼専属のカメコだ。akiraから朔月は信頼できるコスプレイヤーとして聞かされていたため、ストーカーではないかという疑念は一気に消えた。
「実は、1ヶ月くらい前からバイト先のロッカールームに侵入して大量の手紙や隠し撮りした写真を入れるという被害を晶が受けていて・・・。バイト帰りは俺が一緒ですし、尾行されているということもないので家は突き止められてないとは思います。」
学はakiraのストーカー被害について、詳しく説明してくれた。被害は全て執事喫茶内のみで起こっている。ロッカールームは関係者以外立ち入り禁止だ。しかし、隣接する備品室には業者が出入りしている。学は店長に許可をもらってロッカールームにカメラを仕込んだところ、顔は見えないが体格が明らかに男だった。この店に訪れる男性客は女性と見間違えるほどのルックスを持つakira目当てが多い。学は被害に遭った時期に店内で急激に親しくなった克樹を怪しんだとのことだった。
「俺に出来ることがあれば協力します。」
「ありがとうございます。」
克樹は学の話を聞いて、akiraのストーカーを捕まえるための協力を申し出た。その言葉に、学は礼を言って深々と頭を下げた。
想い人の憂いを晴らしたい、克樹の中でその気持ちは大きくなった。
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