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第5話
学から話を聞いてから、克樹は店内を見る目が変わっていた
ただ、akiraに会うだけではなく、不審な人物が居ないかという目で
―話を聞いた通り、男性客はakiraさん目当てなんだな
克樹だけでなく、男性客の多くはakiraと楽しそうに話をしている。彼らが長々と話をしている時、さりげなく話を切り上げてakiraを連れて行く学の姿があった。克樹が経験した鋭い睨み程でないが、相手を警戒しているのはわかる。
「・・・あれが番犬モードの磐城くんね。」
いつか女性客がひそひそ声で言っていた意味を、克樹は知った。学はakira目当ての男性客全員に警戒を示していた。
akiraがストーカー被害に遭っていると知って2週間が経った
「すっかり遅くなってしまった・・・!」
克樹は執事喫茶に向かって走っていた。
昨日のイベントで、コスネームが書かれたakiraの名刺が入った名刺入れを克樹が拾った。夕方までにそれを返す予定だったが、研究が立て込んでしまい空はすっかり暗くなっていた。
学とは1階の喫茶店で一度だけ会って話を聞いている。彼の話では被害は止むことなく、未だにストーカーの正体は掴めないままだという。
「早く行かないと・・・!」
自身を鼓舞するように、克樹は足を動かす。大通りと目的の場所が建っている通りを繋ぐ細い道を通る時、階段近くで立つakiraが見えた。克樹は大学を出る時に、遅れることと1階の喫茶店で待っててほしいという連絡は入れていた筈なのに。
細い道を抜けて、akiraの許に行こうとした時
突然、akiraは執事喫茶の前を離れた
◇◇◇
右側から寒気が走る。店内で何度か経験した気配だ。
「どうしよう・・・。」
僕―新庄晶 の呟きは夜の闇に消えていった。学は用事があり、先に帰っていた。別れる前に1人になるなよ、と念を押されていたものの、忘れ物を届けてくれる朔月さんと会うだけだ。そんなに遅くならないだろうと高をくくっていた。
嫌な気配が徐々に近づいてくる
それが耐え切れなくなって僕は走った。何としても距離を取りたかったから。
けれど、運動音痴の僕の足では相手にすぐに追いつかれた
「晶さん!」
腕を掴まれ、恐る恐る後ろを振り向いた。そこは大きく息を切らした恰幅の良い男が立っていた。身長も僕より10センチくらい高く、顔が逆光で良く見えない。
「俺の顔を覚えてます?何度かお店に行ったことあるんです。その時に君に一目ぼれしました。」
早口でまくしたてられていることが怖さを助長させる。掴まれた腕を振り払いたくても力が強くて抜けない。すると腕を掴んだ男の手が、両肩に移動した。触られただけでも悪寒がした。恐怖のあまりに何も言えなくなった僕にさらに男は追い打ちをかけた。
「俺の君への愛を受け取ってくれた?ロッカーに大量にラブレターを入れたのは俺なんだ!俺は君のことが本当にっ・・・!」
早口で勝手に話し続けていた男の正体がストーカーだと分かった途端、身体が震え出す。どうしたらいいのかわからずに目を閉じていたら、突然ストーカーの声が途切れた。恐る恐る目を開けると、ストーカーと僕の間に人が居た。左肩に置かれたストーカーの手は、間に現れた人物が思いっきり掴んだ拍子で離れていた。
「アンタがakiraさんのストーカーか?」
「ストーカーだなんてっ!俺は晶さんを愛してっ・・・!」
ストーカーを引き離してくれた人が朔月さんだと声で判った。朔月さんはストーカーの右腕を背中に回して地面に押し付ける。問いかけた彼の声に怒りが籠っている。ストーカーは右腕に掛けられた痛みで、解答が途切れ途切れだ。
「好きなら覚悟決めて面と向かって相手に言え!一方的な愛なんて、ただの押し付けなんだよ!!」
朔月さんの怒号が、住宅街に響いた。
ストーカーはその言葉にうなだれ、力を失った。
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