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恋愛の確率

かれこれもう彼に恋して2年になる。 井上は同じ部署で一緒に仕事をしている課長の山際に惹かれている。 4歳歳上の筈なのに、童顔の山際は下手したら井上よりも歳下に見えた。 山際の癖っ毛の髪は、毎朝寝癖がついていてそれすら愛しく思えていた。 そんな風貌なのに、恐ろしいほど頭の切れる彼は、仕事の上でやり難く感じる同僚も多い。 だけど、何か困った時に頼られてしまうのもまた彼だ。 そんな山際に、井上は2年間恋してる。 でも世の中はままならないのだ。 山際の左手の薬指に輝く指輪がそれを物語っている。 「井上ー、昼メシ行ける?」 「今終わりましたよ!行きましょう!」 毎日こうしてランチに行ったり、隣で仕事をして顔を見てるだけでいいのだと井上は自分に言い聞かせていた。 ある日、女子社員が給湯室で立ち話していた。 『山際さん指輪最近してないよねー』 『えー、マジで?!どうしたのかなぁ』 ふと見てみると確かに指輪をしていない。 聞いてみると最近、つけるのを忘れてしまってと笑っていた。少し寂しそうに。 そうして3ヶ月後。山際先輩は離婚した。 私にも狙えるかしらー、と女子社員たちはきゃあきゃあと話してた。 (そりゃいいよ、君たちはさ、確率が上がってさ こっちは恋愛できる確率なんてないに等しいんだから) やさぐれながら井上がとぼとぼと帰ろうとした時、噂の山際が走ってきた。 「お前、今日ひま?飲みに行こうぜ!」 気がついたら今日はプレミアムフライデーだ。 (こうなったらやけ酒してやる…!) 数時間後。 井上はすっかり呑みすぎて寝てしまった。 「井上くーん…って、戻ってこないかあ」 遠くで山際の声が聞こえていたが、井上はもう返事することすらめんどくさくて、寝たふりをしてた。 「もー、しっかりしなよー」 そう言いながら、井上の髪を触る。 山際は何かと身体を触ってくる癖があるので、気にせずそのまま寝たふりをしていたのだか… 自分の髪に、息がかかってる気がして井上はそっと目を開けた。 すると山際は井上の髪をくんくんと嗅いでた。 「う、わあ!?」 思わず起きて、立ち上がる。 完璧に、井上は目が覚めた。 「あ、起きた」 「起きたじゃないですよ!何嗅いでるんですか!」 山際はキョトンとしている。 「いい香りするなーと思って」 「お、女の子じゃないんですからそんないい香りはしません!」 そっかー、と山際は笑う。 人の気も知らないで、と不貞腐れる。 「あー、もう結婚も恋愛も当分要らないや」 山際が赤ら顔で呟いた。 「課長…」 「でもお前ぐらい気がついて色々動いてくれる子ならいいなー」 「はあ…」 「そうだよ、女だから面倒なんだ!」 「…は?」 「井上、今日から俺の嫁になれ!」 指さされて井上は固まる。 何を言い出すのかと思えば…! 「井上とならうまくいく!」 ニコニコ笑いながら頷く山際。 「何言って…」 「だって君、俺のこと好きでしょう」 目を見開く井上。 山際は見たことのないようなSっ気まるだしの微笑みを浮かべた。 「気づいてないと思ってた?」 「え、あの…」 井上は驚きつつも、つい反論した。 「…寂しいとか、女の代わりとかなら、僕は代わりになれませんよ」 いっときの迷いに流されてたまるかと井上は思いながら山際を軽く睨む。 山際がブハッと笑い、井上の背中を叩く。 「大丈夫って!」 その自信の根拠はなんだ、と思いつつも井上もなんだか可笑しくなってきた。 恋人になれる確率がないに等しいと思ってたけど、数パーセントでも確率があるならかけてみた方がいい。 これも棚ぼたと思ってやる。 心底、好きにならせてやる。 【了】

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