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第4話 天使、常識を覆す
「はぁ」
寝室を見渡せばひどい状態だ。
ぐしゃぐしゃになったシーツはどう考えてもそのまま眠るには汚れすぎている。
どっちの体液か分からない、いや、2人のそれが至る所に染みついていた。
「ウサギなぁ」
ベッドですーすーと寝息を立てだしたガブリエルはもうウサギの恰好はしていない。
頭についていた長い耳のついたカチューシャは部屋の端っこに投げ飛ばされていたし、レースがついた、どこで買ってきたのかもよくわからない、短すぎるホットパンツも床に落ちている。
ウサギだった真っ裸の天使は、白くて細い両脚をわずかに開き、祈るように両手を重ねシーツに横たわっている。プラチナブロンドの髪は汗に濡れてペタリと肌に張り付き、それでさえレオを煽るのだ。
「ガブリエル、風呂行くぞ」
「むん、」
「ん?」
むにゃむにゃと口を動かしたガブリエルはレオの腕を掴み引き寄せた。バランスを崩し華奢な体を潰さないように覆い被るといたずらな天使はエヘへと笑う。
「起きてんのか?」
「レオさんじっと見つめてくるんだもん。起きちゃいました」
「それなら風呂入ろう。体がベタベタだろ?」
「もうちょっとだけこうしてたい」
「少しだけな?」
あれ、耳がない、とガブリエルは髪に触れ、シーツに指を這わせて探し始めた。
「ウサギさんの耳……」
「あそこだ」
「床……ねぇ、レオさんはぼくがウサギなのがやなの?」
「さっきも言った気がするけどな、そうじゃなくてお前の衣装に問題があるんだよ」
これまた、言い方を間違えた。とレオが気づいたのは一秒後。
さっきまで幸せそうに微睡んでいた天使の瞳に涙が溜まってきた。
誰のせいだ、と聞かれればこれはレオのせいだろう。もう少し気の利いた言い方をしていればガブリエルが勘違いする必要はなかったのだから。
「ぐすっ、問題って、似合ってないってことですかっ!」
「ち、ちがう!そうじゃないって!」
かわいい子の涙には誰でも弱いもの。
必要以上にレオは焦り始めた。
「似合ってる。似合ってるんだけどな。あの衣装だとお前のケツが見えそうだし、あの靴下だと余計に視線が太ももに集まるし……」
「……?」
「俺が言いたいこと分かるか?劇だろ?舞台に立つんだぞ?みんながお前の体に注目することになるんだぞ?」
「……?」
それの何がいけないんだ?とガブリエルは頭をかしげた。
布で隠れていない場所、と言えばズボンとニーハイソックスで隠れない部分だけ。ほんの拳くらいのギャップしか見えないのだから慌てることもないはず。
それとも、ガブリエルの脚はみんなに見えちゃいけないものなのだろうか?見てしまったら気分を害するようなひどい体ではなかったはずだ。
――確かに、痩せすぎだ、とガタイのいい天使たちにバカにされたことはあるけれど
「みんなに、お前の体を見せたくないって言ってるんだ」
「なんで?」
「なんでって。裸はみんなに見せるもんじゃないだろ?」
「え、でも、体育の着替えの時とか……」
ベッドに寝そべっていたレオはがばっと起き上がった。
聞捨てならないことを、今聞いてしまった気がする。
「着替えがどうしたって?」
「体育の着替えで、裸になりますよね?」
「ハダカ、に?」
「はい。制服から体操着に着替えるときに、裸にならないと」
「ハダカ、に……いや、待て。裸になる必要はないだろ」
「え?」
とんでもない展開になってきたとレオは頭を振った。
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