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【2】-9
自分がどうなってしまったのか理解できないまま広い肩に腕をまわす。このままもっと、この人に触れられていたいと本能が求めていた。
脇腹を撫でていた指がドレスの上を滑らかに這い上がってゆく。その感覚にも全身が反応した。
けれど胸のあたりに指が移動し、もどかしい気持ちになってその場所を見下ろした玲は、ふいに冷たい水を浴びたように現実に引き戻された。周防の唇が触れているのは詰め物をした胸元だ。慌てて両手で覆い隠す。
「レイ……?」
(だ、だめっ!)
声に出さずに心の中で叫んだ。
中身のない胸を触られたら、すぐに自分が男だとバレてしまう。絶賛女装中の姿など誰にも知られたくない。中でも目の前にいる完璧な男にそれを知られるのは絶対に嫌だった。
自分が男だと知ったら、この人は……。
渾身の力を込めて押し返すと、周防は驚いたように目を瞠った。
「嫌だったのか?」
ゆっくりと首を振って離れようとする玲に、周防はかすかな笑みを見せる。
「怖がらなくていい。もっとよく顔を見せてくれないか」
(顔を……?)
疑われているのだろうか。背筋を冷たいものが走る。
とにかく急いでここから離れよう。ぼうっとした頭でそれだけ考えると、ふらふらする足で立ち上がった。
「レイ……?」
あとずさりしてあずまやを出ようとすると、周防も立ち上がった。
「レイ」
腕を掴まれそうになるが、軽く振りほどいて背を向けた。そのままバンケットホールへの扉に向かって走り出した。
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