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【3】-2
伊藤がメモで指示したクリーニングバッグを探し出し、そこにドレスを押し込むと机の足許に置いた。
シンデレラの時間の終わりだ。
ジーンズに木綿の白いシャツを着た、ふだん通りの二十二歳の男に戻る。酔いもようやく醒めてきた。
(でも……)
あれは、現実だったのだろうか。
唇に指を当てると、かすかな感触がよみがえる。とたんに心臓が速くなり、頬がカッと熱くなった。
(なんで……?)
同性からキスをされたのに、それが全然嫌ではなかった。気持ち悪いとも思わない。逆に、今も思い出すと甘い疼きが身体の芯に生まれてくる。
(なんでだよ……)
戸惑う。
今夜の自分は少しおかしい。
(麗しの王子は、意外と手が早いんだ……)
女性だと思って、玲を口説こうとしたのだろう。そんな周防に失望しようとするのだが、その失望がなぜだか少し苦い。
もしも玲が女性だったら、あのまま周防のものになれたのだろうか。
そんなことを考えて、やはり今日の自分はおかしいと、酔っているのだと首を振った。
「とにかく帰ろう。明日も仕事だ」
独り言を呟いて、事務所の鍵を手にした。
忘れ物がないか、一通りあたりを見回す。
靴のことを別にすれば、ドレスは言われた通り片付けたし自分のバッグも持った。まだ新しい事務所には荷物があまりないので、特に見落とすようなものもないような気がした。
「よし……」
後は金庫の鍵をかければいい。
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