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【3】-5

(こんな……)  悲しみの水たまりが胸の内に広がる。  こんな姿で自分は人の前に立っていたのか。  男の眼差しが、水たまりの水を氷点下に凍らせる。 (あの人は、どう思っただろう……?)  背の高い美しい男の姿が、頭の中に浮かんだ。自分とあまりにも違う、まばゆい星のような『麗しの王子』。  ネックレスを探さなくてはいけない。何よりそれが最優先だと思うのに、周防の姿を思い出すと、そして、その姿を心に思い描くことさえ自分には許されないのではないかと思い始めると、何かに立ち向かう勇気が根っこから枯れてゆくような気がした。  じわりと涙が滲み、そんなことで泣く自分をまた情けなく思う。 「泣いてる場合じゃないだろ……。ネックレスを、探さなくちゃ……」  あの人のことを考えている場合でも、自分のみっともなさを嘆いている場合でもないのだと心で繰り返す。  全部のエレベーターに乗って床を探し、バンケットホールの入り口まで戻る。  ホールの扉はすでに閉まっていた。宴会係が室内の点検をしながら片づけをしている。落とし物や忘れ物があれば、届いているはずだ。  尋ねてみるが、玲の探しているものは届いていなかった。  ほかに何ができるだろう。もし、落としてしまったのだとしたら、あのネックレスは戻ってくるだろうか。  一粒一粒が生涯を誓う指輪の台に嵌めこまれてもおかしくない価値を持つ。  ほかに何をすればいいのか、もうわからない。玲は諦めて、拓馬の帰りを待つべくマンションに足を向けた。

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