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【6】-2
まだ若いポーターだった。背が高く、端整な顔立ちをしていて、流暢な英語を話すのでどこの国の人なのかはわからなかったが、玲に話しかけてくれた日本語はとても自然だったので、日本の人だったのかもしれない。
(いつか、あの兄さんみたいな人になりたい……)
玲の中に芽生えた思いは、いつしかホテルで働きたいという気持ちに育ち、ほかに特別な選択肢が現れない中、自然な形で玲の夢となり目標となっていった。
旅をする人たちに幸せな思い出が残るような仕事がしたい。あの人のように、確かな安心感を与える人になりたい……。
夢の時間をすごす魔法を、今度は自分がかけてみたい。
だから、『周防インターナショナルホテルズ&レジデンシャル・ホールディングス』に内定した時には、本当に嬉しかった。
ずっとここで働いていく。そう心に誓った。
それなのに……。
食器を片付ける手を止めて、玲は小さく首を振った。
過ぎたことをいつまでも悔やんでもいても仕方ない。
一度道を逸れてしまったけれど、玲は今、別の形で立ちたかった場所の近くに立ちつつある。
(ホテルスタッフじゃないけど、ホテルの中で働けるんだ……)
昨日から心を覆っていた憂鬱の厚い雲から、かすかな光が覗く気がした。
(今度こそ、しっかり頑張ろう)
胸の内にまだいくつもの悩みを抱きつつも、マンションを出る頃には、秋の空の澄んだ水色を見上げて頬に小さな笑みを浮かべられるくらいには、気持ちの落ち着きを取り戻していた。
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