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【11】-3
「な、なんでっ」
「邪魔だったから」
黒い瞳を向けたまま、周防が玲の首に手を伸ばした。ネクタイを締めた襟に軽く触れる。
「キスをするのに、邪魔だった」
心臓が跳ねた。
「玲……」
「な、な、なな……っ」
慌てて身を引いた拍子にバランスを崩し、広いベッドに仰向けに倒れる。
周防がかがみこみ、耳の脇に手を突いて玲の顔を覗き込んだ。心臓がバカみたいにドキドキ騒ぎだす。
「きみの名も『レイ』だったな。崎谷、玲」
笑みを浮かべて、周防は玲の頬を撫でた。
「顔も、よく似ている」
ドキドキのピークに達していた心臓が、突然氷を押し当てられたようにひゅっと動きを止める。代わりに嫌な汗が全身を流れ始めた。
(バレた? いや、まだ大丈夫……?)
バレてほしくない。
震える唇を両手で覆い、玲はぎゅっと目を閉じた。周防から逃げるように顔全体を手で隠す。
しばらくして、周防がふっと笑った。「冗談だ」と囁きながら、玲の手の隙間から額を軽くつつく。
「昨日の『レイ』は、どこからどう見ても女性にしか見えなかった」
玲は目を開けた。指の隙間から周防を見上げる。
「取りあえず、食事にしよう」
周防が立ちあがる。窓際のテーブルに向かって歩き始めた。
「サンドイッチならすぐに届けられると言うから、勝手に頼んだが、何かほかに食べたいものがあるかな」
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