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【11】-5
「ほかの理由も教えてください」
周防は上着の内ポケットを外側から手で押さえた。
「二つ目は、あの男が気に入らないからだ」
「はあ……?」
気に入らないって、拓馬のことがか?
「そんな理由で?」
周防がムッとした表情になる。
「悪いか」
悪いとかいいとかではではない気がする。なんなのだろう、この人は。
(子どもかよ)
ただの意地悪で「返さない」と言うには、対象物が、なんというかアレすぎるだろう……。
コホンと咳払いが聞こえる。
「それから、三つ目」
「その前に、なんで拓馬が気に入らないんですか」
周防が再びムッとする。
「……個人的な事情だ」
なんだかわからないが、それ以上は何も言わなそうなので続きを促す。
「三つ目。これはガラスの靴だから」
「ガラスの靴?」
「そう。これがあれば、もう一度、シンデレラに会える。必ずね」
「そ、そうでしょうか」
嫌な予感しかしない。玲の頬がヒクヒクひきつる。
「シンデレラは、現れないかもしれない……ですよ?」
「ん?」
周防の眉が片方上がる。
「だが、少なくとも」周防は続けた。「これを僕が持っている限り、シンデレラは、僕の前から消えることはない。そうだろう?」
ひきつり気味の玲の顔をじっと見て、麗しの王子はにこりと魅惑の笑みを浮かべた。
「時間がなくなる。食べようか」
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