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【12】-2
「脱いでたんだよ、靴を。それで……」
呆気にとられた顔で拓馬が見上げる。玲の頬はにわかに火照り始めた。
「それで、どうしたんだ」
「それで……」
あの男にキスをされた。欧米の人たちが挨拶で交わすようなキスではない。もっと情熱的な、恋人同士のキス……。
「玲……? 大丈夫か?」
赤くなって口ごもる玲を拓馬が心配そうに見上げる。
「何だか知らないが、そこで周防に会って、靴を忘れてきたってことでいいのか? その時ネックレスはどうなってた?」
「わからない……。たぶん、その時まではしてた」
嘘ではない。本当にその直前まではしていたと思うし、その後のことはわからないのだ。
ただ、周防の言う通りなら、その時に外されたのだろう。さらりと何かが滑り落ちた感覚も覚えている。
「だったら、そこでネックレスも落としたのかもしれないな。完成したばかりだと思って、留め金のチェックが甘かったか。うちの職人に限って間違いはないだろうと信じ切ってた。……俺のミスだ」
「違う、俺が……」
「取りあえず、あれがうちの商品だってことを、はっきりさせないとな」
秋の新作としてカタログの表紙を飾る予定で、新しいCMも作ってあるのだが、正式な発表は九月の末を予定している。今はまだ九月の三週目が始まったところだ。
パーティーは絶好の機会だったので事前のデモンストレーションとしてお披露目したが、『サンドリヨンの微笑』は、まだ一般には広く知られていなかった。
「今朝のニュースでは『サンドリヨンの微笑』がどういう宝飾品かまでは言及されてなかっただろ。宝石そのものの価値は言ってたけど、所有者については、消えたシンデレラのことしか言ってなかったよな」
「そういえば、そうだね」
「あれがうちのものだってはっきり知っているのは、考えてみれば、業界内の人間だけなんだよな。ショップカードを受け取った人たちは、もしかするとわかっているかもしれないけど」
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