「でも、周防さんは知ってたんだろ」 「あれは、知ってただろうな。その上で、すっとぼけてやがった」 　広報に、一週間前倒しで発表を早めるよう調整させると拓馬は言い、サイドテーブルに放り出してあったタブレット端末を手にした。 　ジュエリー『ＳＨＩＮＯＤＡ』のホームページを開くために指を滑らせる。すぐに「なんだ、これは」と画面を睨んで指を止めた。 「どした？」 　玲も横から覗き込む。 「あれがうちの商品だってことが、すでにネットに広まってる……」 「え。だったら、よかったじゃん」 　考えてみれば、そういう時代だ。それならば、さすがの周防も返却に応じるだろう。 「だけど、ちょっと待て。世間が求めてるのは、どうやらそんな情報じゃないらしいぞ」 「え……？」 「周防のやつが、俺と会ったのにネックレスを返さなかったことまで、リークされてる」 「どういうこと？」 「うん……。これは、世の中全体が、シンデレラの登場を待ち望んでるってことじゃないか？　『サンドリヨンの微笑』って名称まで格好の話題になってる。シンデレラ、あるいは『レイ』というモデルを探せって、検索ワードの上位に……」 　拓馬と顔を見合わせた。 　周防は「レイ」に直接返すと言っている。 「やだからな」 「玲……」 「やだよ。もう女装なんかしないっ！　次は、ドレスじゃないんだろ。絶対、バレる。ごまかせっこない！」 　拓馬がじっと玲の目を見る。そして、ため息を吐いた。 「……だよなぁ」 「……ごめん」