52 / 191
【12】-4
いいよ、と軽く肩を叩かれて、申し訳ない気持ちになった。『サンドリヨンの微笑』をなくしたことは玲の責任だ。
「でも、それなら、どうやって返してもらう?」
「しばらくは、様子見かな。周防が何をしたいのかが、今の段階じゃ全くわからない。相手の出方を待ってから作戦を考えたほうがいいだろ」
うん、と頷いて、そのままうつむいた。
拓馬は立ち上がり、「あんまり、気にするなよ」と言って、もう一度、玲の肩を叩いた。
「いつも、ごめん」
「バーカ」
窓際に立ち、拓馬がスマホを耳に当てる。明るい室内が反射する嵌め殺しのガラス面に、夜の街がぼんやり重なって見えた。
ずっと、拓馬には迷惑をかけてばかりだ。
ため息を吐いて、立ち上がった。
時計を見ると午後八時に近い。昼の間に通いの家政婦が作っておいた夕食を温め直し、テーブルに並べる。
そうしながら、玲はもう一度、「はあっ」と深くため息を吐いた。
(ダメだな……)
「拓馬、食べよう」
「おう」
テーブルに着いて待ちながら、拓馬がいなかったら自分はどうなっていただろうと考える。
『おんなおとこ』
幼い頃のいじめっ子の言葉。なんでスカートを穿かないのだと、しつこく繰り返し言われた。
俺は、男だ。バカにするなと、怒って泣き喚いて、ケンカばかりしていた。
それだけならまだ……。悪寒がして、ブルッと背中を震わせた。
「なんだ? 風邪か?」
ともだちにシェアしよう!