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【12】-5
向かいの椅子を引き、身体を滑り込ませながら拓馬が聞く。
「ちょっと寒気が」
「ふうん」
合掌し、声を揃えて「いただきます」と唱えた。
お寺が経営している幼稚園の年少組で、玲と拓馬は出会った。最初から二人は馬が合った。
幼稚園から小学校に上がる頃まで、拓馬の両親は『SHINODA』の拡大に忙しく、拓馬はよく玲の家に預けられていた。
拓馬と玲と玲の姉の三人は、本当のきょうだいのように育った。
拓馬の両親が『SHINODA』を成功させ、隣町にある高級住宅地に大豪邸を建てて引っ越していってからも、玲の家と拓馬の家とは家族ぐるみのつきあいが続いた。中学から私大の付属高校、そのまま進学した大学もその学部もずっと一緒で、玲は人生の大半を拓馬と一緒に過ごしてきた。
そして、その間、ずっと玲は拓馬に助けられてきた。
玲の母は、出産後もちょこちょことモデルのアルバイトを続けているくらいで、はっきり言って美人である。そして、玲と姉はどちらも母に似ていた。
しかも、どういうわけか姉よりも玲のほうが似ていた。「おんなおとこ」などと揶揄からかわれるのは、その外見によるものだ。
外見が与える情報は、人の判断に大きく影響する。
いじめもそうだが、幼い頃から、玲は男に狙われることが多かった。拓馬の力を借りずにはどうすることもできなかったくらいに。
小学校の低学年の時に、近所に住む中年の男に悪戯されかけた。拓馬の機転で事なきを得たが、一人だったらと思うとゾッとする。
それを皮切りに、年齢が上がるにつれてさまざまな目に遭ってきた。電車の中で身体を触ってくるのも、夜道で後をつけてくるのも、道端で突然抱き付いてくるのも、全部、男。思春期に受ける愛の告白も、ほとんど全てが男からのものだった。
女子にとって、玲はよくてペットだ。ほとんどの場合、自分の想い人を争うライバルのポジションに置かれた。玲のほうには、まったくその戦いに参戦する意思も希望もメリットもないのにだ。
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