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【12】-6

 そんな状況なので異性との恋愛は、ついぞ経験してこなかった。  かといって玲は自分を同性愛者だとは思っていない。  顔に似合わず性格は負けず嫌い。拓馬と男兄弟のように育ったせいか、拳が出るのも早い。そのくせ、線の細い身体には筋肉が付きにくく、力がないわけではないのにウエイトに欠け、そのせいでケンカはあまり強くはなかった。  おかしな男に頻繁に狙われ、ケンカをすればすぐにやられる。玲のために、拓馬は時に玲と付き合っているフリまでしてくれた。男を遠ざけ、トラブルそのものを避けるために。  もちろん、全部方便だ。拓馬も玲も、同性に恋したことは一度もない。  ふいに、周防の顔が脳裏に浮かぶ。心臓がコトリと小さく鳴った。 (別に、好きになんかなってないぞ……)  誰にともなく反論した。  見ているだけでドキドキするほと魅力的な男だけれど、性格は悪そうだし、何を考えているのかわからないし、天然の「たらし」だし、手は早いし、その上子どもじみた意地悪でネックレスを返さないと言う。  全然、好きではない。  周防ホテルのスイートで、美味しいはずのサンドイッチをもそもそ口に運びながら、周防は何をしたいのかと考えていた。  玲が周防を「忘れた」と言い、だから「覚えてもらう」と言ったわりに、それに対する話をするわけでもなく、ネックレスを返してくれないかと聞けば、同じ話を繰り返す。 『本物のシンデレラが手に入ったら、歓んで返そう』  けれど、本物のシンデレラが手に入ることはないのだ。周防が探している「レイ」は決して現れないのだから。  玲は二度と、女装なんかしない。

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