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【13】-1
翌朝になると、『サンドリヨンの微笑』と消えたシンデレラの話題は、さらに大きくなっていた。さまざまな憶測がネット上をにぎわせ、ワイドナショー寄りニュースでは、何度も同じことが繰り返し取り上げられた。
ほかに目ぼしいニュースもなく、周防グループの御曹司とダイヤのネックレスを残して消えた謎の美女の物語は、手ごろな娯楽として重宝された。
周防智之の経歴や、メディアに登場した際の顔写真などがテレビ画面やネット上に溢れ、その王子様ぶりに世間は狂喜した。『サンドリヨンの微笑』の画像や情報を求めて『SHINODA』のホームページにアクセスが集中し、一時的にサーバーがダウンするというアクシデントもあった。
一度はメディア発表の前倒しを指示した拓馬だが、あまりの注目度の高さを知ると、周防との決着が先だと判断し指示を撤回した。発表のタイミングは未定のままだ。
玲の映像はそれほど多くなかった。千人規模のパーティーの中、著名人や女優、セレブタレントなどの姿も多く、名もないモデルの撮影をする者は少なかったようだ。ほかの誰かにフォーカスした映像に移り込んだ姿を拡大し、荒い画像のまま繰り返し画面に映しだされた。
玲は厳密には一般人である。きちんと訴えれば肖像権の侵害になるのではないかと、ムッとしながら思ったが、訴えるためには正体を明かす必要がある。それはできない。諦めるしかないとため息を吐いた。
「大変なことになったな」
朝食のシリアルを掬いながら、拓馬が呆然とテレビ画面を見ている。
「こうなってくると、一日も早く『サンドリヨンの微笑』を取り返さないとまずいよな……」
周防の元にネックレスがある理由や、それが返却されない事情など、説明できないことが多すぎる。今の状態で新作を発表するのはリスクがあると、それがどんなリスクになるのかさえわからないのが怖いと言った。
「うちみたいな商売は、信用が命だ。今のままじゃ、どう考えてもまずい」
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