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 ふだんは静かなブランドストリートに、人が大挙して押し寄せてきたのだ。  開店当日でも馴染みの顧客を含めて数十組程度だった来店数が、この日は店を開けるや否や十組以上が一度に入ってきた。  店の規模が小さいため、平日のシフトは二人体制だ。この日は高山が休みで、葛西と玲の二人が出社していた。  商品の性質上、可能な限り一対一で接客したいのだが、それもままならない人数である。  半数以上の客は値札の数字を見て引き返していったが、残りの人たちは購入の意思を滲ませながら真剣に商品を吟味している。ほとんどの客が、『SHINODA』の中では比較的手ごろな半貴石のジュエリーを購入していった。  手ごろとはいえ、単価はどれも十万を超える。それが次々売れてゆく。  午後になるとショーケースの中が貧相になり始め、金庫を開けて、出せる限りの商品を補充した。発注をかけている暇はない。本社との短いやり取りを経て『サンドリヨンの微笑』と同じデザイナーの手による秋の新商品で、小粒の石を組み合わせた繊細なモチーフのシリーズ商品をケースの中に並べた。  まるで、海外からの貴重な美術品を見るように、次から次へと人が押し合い、その輝きを眺めていく。  ネックレスとピアスをセットで購入する者もいた。どちらも桁は七桁だ。  何が起きているのかわからなかった。  食事を取る暇も休む暇もなく、あっという間に一日が過ぎていった。はっきり言って、売り上げは恐ろしい額になっている。  途中、強化ガラスの向こう側に目をやると、通りの様子もいつもと違って見えた。敷居の高さや厳かな空気が消し去られ、ふだんは見かけないようなラフな服装の若者や見物目的のサラリーマン、ランチ帰りの主婦たちの姿が目立った。  ホテルのポーターとガードマンがこちらを見て何か話していた。背の高い目を引くポーターで、昨日来店した二人の女性客が言っていたのは彼のことだろうかと、どこか麻痺した頭で考えた。

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