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「気に入ったかな」 「すごく美味しい。でも、どうして、俺に、こんなごはんを御馳走してくれるの……?」 「腹を空かせていただろう?」 「だからって……」  こんな、贅沢な。  のみ込んだ言葉を掬い取るように、周防はぼそりと答えた。 「篠田よりもしょぼいものを、食べさせるわけにいかないからな……」 「拓馬……?」 「あいつ、玲とはどういう……」  周防の言葉の途中で、玲は「あっ」と叫んだ。 「拓馬に電話しなきゃ。夜ごはん、冷蔵庫に入れといてもらわないと」  周防が剣呑な気配を見せる。  玲は「ちょっと、失礼します」と断ってスマホを取り出した。すすっと、座布団から離れ、部屋の隅に移動する。夕食の保存を頼み、『今日は、忙しかっただろう?』と聞いてくる拓馬に、人と一緒なので帰ったら話すと言って通話を切った。 「玲」  周防が呼んだ。  黒塗りの座卓に戻りながら「ごめんなさい」と謝る。 「でも、早めに言っておいたほうが、拓馬も……」 「玲、きみは篠田と、あの男と一緒に暮らしているのか」  吸い椀の松茸にうっとり見惚れながら、そうだと頷いた。 「松茸、大きい。豪華な香り……」 「玲……、いったい、あいつとは……」  眉間に皺を寄せる周防を、首を傾げて見つめ返す。「失礼します」と仲居が戸を開け、根菜の煮物と茄子の田楽風、鰻の山椒煮を運んできた。玲は目を輝かせる。

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