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【16】-5

 空になったボトルを見て、「何かお持ちしますか」と中居が聞く。  周防はなぜか、ムッとした顔で言った。 「ロマネ・コンティがあったな」 「か、確認いたします」  仲居は慌てて、次の間に下がった。内線電話で二言三言何かを話し、戻ってくると頭を下げた。 「ご用意できます」 「ちょ、ちょっと、待って!」  叫んだのは、玲だ。 「何、考えてるの? いくら何でも、なんでもないふつうの日に、それは無理」  ものによっては一本の値段が玲の年収ほどもするワインを、ただの「お疲れ様会」的な食事の席で飲むのは、さすがに抵抗がある。 「気にするな」 「気にするよ!」  面倒くさい奴だと、周防は鼻に皺をよせた。 「では、シャトー・ラトゥールを」 「ダメ。高すぎる! 却下!」 「うるさい奴だな。ワインには、詳しいのか」 「研修の時に、有名な銘柄の名前と値段くらいは覚えました」 「研修……。うちのか」  周防に問われて、はっとする。逃げるように、ゆっくりと視線を逸らした。 「どういたしましょう」  困っている仲居に、赤を注文していいのなら、さっきの白と同じクラスのものをと勝手に頼む。  周防が「うちの、オーストラリアのワイナリーのものがあるはずだ」と仲居に言った。 「それなら、いいだろう?」  渋い顔で聞かれて、ようやく玲は頷いた。

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