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【17】-1
金色の雫が零れる『ホテル周防インターナショナル』の車寄せでハイヤーを降りた。光の世界への扉の前でドアマンが恭しく頭を垂れる。
「玲……」
まばゆい室内を背にして、周防が右手を差し出した。
おいで。
無言で誘いざなう黒髪の王子……。
「どうして……」
シンデレラを探しているはずなのに、この男はなぜ気まぐれで玲を誘うのだろうか。
「俺、男だよ……?」
「知ってる」
「でも……」
あなたは異性愛者でしょう?
心の声に答えるように、王子は囁いた。
「相手の性別を気にしたことはないよ」
「つまり、見境なしかよ……」
周防がふっと笑う。
「玲は、気にするの? しないだろう?」
質問ではなく確認のための問いだった。
玲は黙って首を振った。わからなかったから……。
見知らぬ男たちが向けてくる理不尽な欲望を、ずっと嫌悪してきた。そこにあるのは暴力的な蔑みばかりで、愛情など欠片も感じなかった。
気に入った容貌の人間を見つけ、自分の愉しみだけを求めて触れようとする。相手の気持ちなどお構いなしだ。
相手が同性だったから嫌悪したわけではなかったのだと気づいた。
人としての尊厳を踏みにじられたから傷ついた。悔しかったし、許せなかった。
それは、今も同じはずなのに……。
「卑劣な男だな」
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