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【17】-2

「なんとでも言うといい」  さあ、と手を差し出す。玲を帰らせる気は、最初からないらしい。 「本当に、『サンドリヨンの微笑』を返してくれるんだよな」 「約束する」  周防が頷く。 「今夜、あの男のところへ帰さなくて済むのなら、それでいい……」  暗い瞳で呟いた。  今までの男たちと何が違うというのだろう。  蔑みは感じないまでも、何かと引き換えに身体を求める男に、愛情などあるとは思えなかった。  周防は玲を愛しているわけではない。一夜の愉しみと引き換えにネックレスを返すと持ち掛けているだけだ。  それでいいと割り切って、ゲームのように玲を誘っている。  シンデレラでもなく、女性でもない玲をわざわざ望む理由がわからない。  本当にいいのかと問いたくなる。  そもそも男を抱けるのか、と。  それでも、触れてほしかった。屋上庭園のあずまやで官能を呼び覚ますようなキスをされてから、ずっと玲はこの男に触れてほしかったのだ。そのことに、今、気づいた。  理屈などわからない。ただ、触れてほしい。今夜、周防が玲を抱きたいと言うのなら、抱かれてしまいたいと本能が望んでいた。  あの夜、偽りの「レイ」が掴めなかった何かを、嘘でもいいから掴みたいと願った。  心を伴わない欲望でいい。  獣のような野蛮な衝動でもいい。  周防の身体の熱を、玲自身の身体で確かめたいと思った。  背中を軽く支えられ、ラウンジの先のエレベーターホールに進む。四角いカードキーを押し当て、鏡のように磨かれた艶やかな壁面を持つ立方体に乗り込んだ。  静寂の中を、魔術のように上昇する機械の箱。

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