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【19】-2

 いいや、と拓馬は首を振った。玲は眉をひそめた。  昨日の朝、返すと言ったのに。拓馬と相談すると、確かに言った。 (ああ、そうか……)  急に全部が腑に落ちた。  周防はもう、シンデレラのことなどどうでもいいのだ。「レイ」に会えなくても平気だから、ネックレスを持っている必要もなくなった。  いつでも返す。そういうことだ。 (うそつき……) 「昨日、一昨日と、店も忙しかったし、今日は本社から応援を出すから、少し休めよ」 「大丈夫だよ」  首を振るが、拓馬はうんと言わなかった。「ひどい顔をしてる」と口をへの字に曲げて首を振る。 「でも、店長や高山主任だって、休んでないのに……」 「彼女たちはいいんだよ。売れてる時の販売員のお姉さま方を舐めちゃいけない。彼女たちは、今、脳から大量のアドレナリンを出している。ちょっとやそっとじゃ疲れない」 「そんなはずはないだろ」 「本当だって」  昨日の二人がどんなだったか思い出せと言われて、思い出す。  悲鳴を上げながらも、確かにテンションは高かった。目がらんらんと輝き、顔には笑みが浮かび、全身からやる気がみなぎっていた。 「今、あの人たちに休めと言っても絶対に休まないから。いっぺんに倒れられても困るし、今日のうちに玲が休んで、明日からまた頑張ってくれ」 「そっか。わかった……」  テレビ画面に『SHINODA』のCMが流れた。『サンドリヨンの微笑』を首に巻いたエレナが映し出される。 「これ……」 「ああ。差し替えてもらった。ネックレスは戻ってこないし、いろいろ不安はあるんだけどな」

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