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【19】-4
「いいよ。後で行ってくる」
「悪いな。頼む」
拓馬が行ってしまうと、何もすることがなくなって、一人でいるのが怖くなった。
何かをしていないと、おかしなことを考えそうだ。早々にエレナの見舞いに行こうと思った。
路線バスに十分ほど揺られ、地下鉄の駅の近くで降りた。拓馬のマンションからそう遠くない場所にエレナが入院する総合病院はあった。
エレベーターで八階に上がり、ナースステーションに寄ってから一番奥の個室に向う。
エレナと伊藤が笑顔で出迎えてくれた。
「レイチャン」
「来てくれたの? ありがとう」
エレナの様子を聞き、報道の件で困っていることはないか、拓馬が心配していたことを伝える。
「ありがとう。最初の二日間は、どこから聞きつけたのか外に人が集まってきたりして困ったんだけど、最近は意外と落ち着いてるのよ。会社のホームページでプロモを公開したのがよかったのかしら?」
消えたシンデレラがエレナとは別人であることは、すでに認知されている。
それでも、最初の騒ぎが大きかっただけに、シンデレラ探しはもっと白熱するのではないかと、伊藤は危惧していたという。
「あのまま根掘り葉掘り調べられて、玲ちゃんがモデルの『レイ』だって突きとめられたらどうしようって相当悩んだわ。玲ちゃんを引っ張り出したのは、私なんだもの」
あの日、バンケットホールに急ぐあまり、拓馬と玲は周囲に気を配る余裕もなくバックヤードを走り、そのままロビーに出て、エントランス脇のエレベーターに乗り込んだ。
玲が戻ったところも誰かが見ていたはずで、その後の「レイ」の足取りが掴めなければ、遅かれ早かれ、同じ時刻に『SHINODA』に出入りしていた玲の存在に行き当たるのではないかと、伊藤は予想した。
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