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【20】-3

 必死にツッコミを入れるが、頬が赤く染まってゆくのがわかる。端末の向こうで周防が笑った。 『それでも、会いたいんだ。必ず、来て』  時間と場所を告げて周防は通話を切った。 「はあ……っ」  深いため息が漏れた。 (それって、どういうこと……?)  熱のある声で会いたい言う。意味がわからない。  やはり、周防は玲を揶揄からかっているだけなのだろうか。 『ユリシスの伝説を知っているか』  そう周防に聞かれたのは、昨日の朝のことだ。知らないと首を振ると、周防はそれきり何も言わなかった。  そしてついさっき、伊藤の口から同じ蝶の名前を聞いた。周防の母、原瑤子という人の恋物語とともに。  ユリシス。別名、オオルリアゲハ。  オーストラリア北東部やニューギニアなどの熱帯雨林に生息し、翅を広げると十四センチほどにもなる大きな蝶だ。翅の鮮やかな青色は構造色といって日の光をよく反射する。反射した光は数百メートル離れた場所にも届くという。  キュランダに向かうスカイレールの上から見下ろした広大なレインフォレスト。どこまでも続く深い緑の森の上を飛ぶ、青く光る二頭の蝶の飛翔が脳裏に浮かぶ。  とても遠い、高い場所から見ていたのに、青い翅はきらきらと、明るく鮮やかに輝いて見えた。  あの蝶を一緒に見る。それが何かの運命だということだろうか。  ケアンズを訪れたのは十歳の春のことだ。南半球の季節は秋だった。勤続十五年を労う長い休暇を、父は会社から与えられ、春休みの玲と姉と母を連れてオーストラリアの旅に出た。

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