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 周防には、すでに心に決めた人がいる。  確かめてみてもどうにもならない。そう心が警告していた。  それでも、あの日玲のために大きな怪我をした人が、命を落としたという話を信じたくなかった。  何かの間違いで、今も元気でいてくれるなら、それを確かめたい。  そして、生きて、幸せになってくれるなら、それが一番の福音だ。たとえ隣にいるのが玲の知らない誰かでも。  トモは周防なのかと、ひと言聞くだけでいい。  約束の時間にはまだ一時間以上あったが、ぼんやりとした思考のまま玲は拓馬の家を出た。  早く着いてもロビーで待てばいい。『ホテル周防インターナショナル』までは、徒歩八分。  ゆっくりと、雑踏の中を歩き始めた。

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