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【24】-4
「どういう意味だ?」
「長くなる。割愛……」
「するな」
拓馬に促されてダイニングの椅子に腰を下ろした。
「周防ホールディングスの役員面接で玲に会った時、僕は奇跡が起きたと思った」
十年以上前にケアンズのホテルで出会い、自分に勇気と希望を与えてくれた少年が、本当にホテルマンを志して周防グループの入社試験を受けにきたのだ。
テーブルの向かいで周防が目を細める。
当時と同じように、自分の進む道に迷いが生じていた周防は、玲との再会によって再び勇気を取り戻したと続けた。
「俺……? 何か、した?」
「それは、後で話す」
ほかの役員の評価もよく、玲は晴れて『周防インターナショナルホテルズ&レジデンシャル・ホールディングス』の内定を得た。
すぐに会いに行こうと思ったが、当時の周防にはやるべきことがあった。いずれは入社してくる。研修を終えて本社に配属になれば、その時はいつでも顔を合わせるようになるだろう。そう考えて、楽しみに待っていた。
ところが、六月になって新入社員が配属されてきた時、そこに玲の姿はなかった。
「辞めたと聞いた。ひと月も経たずに……」
「それは……」
言いかけて言葉をのみこんだ。
テーブルの横に立った拓馬が玲を見下ろし、「俺が理由を言ってもいいか」と静かに聞いた。玲は黙って頷いた。
「玲は、周防の支配人にセクハラされたんだよ」
冷蔵庫から出したアイスティを三つのグラスに注ぎ、拓馬がテーブルに並べる。
「研修でベッドメイクをしているところにそいつが来て、乱暴されかけた。玲には、昔からそういうことが多かった。だから、護身術めいたことも少しは身につけてる。玲はそいつの股間を蹴って、ついでに鼻の真ん中を殴って逃げた」
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