126 / 191

【24】-4

「どういう意味だ?」 「長くなる。割愛……」 「するな」  拓馬に促されてダイニングの椅子に腰を下ろした。 「周防ホールディングスの役員面接で玲に会った時、僕は奇跡が起きたと思った」  十年以上前にケアンズのホテルで出会い、自分に勇気と希望を与えてくれた少年が、本当にホテルマンを志して周防グループの入社試験を受けにきたのだ。  テーブルの向かいで周防が目を細める。  当時と同じように、自分の進む道に迷いが生じていた周防は、玲との再会によって再び勇気を取り戻したと続けた。 「俺……? 何か、した?」 「それは、後で話す」  ほかの役員の評価もよく、玲は晴れて『周防インターナショナルホテルズ&レジデンシャル・ホールディングス』の内定を得た。  すぐに会いに行こうと思ったが、当時の周防にはやるべきことがあった。いずれは入社してくる。研修を終えて本社に配属になれば、その時はいつでも顔を合わせるようになるだろう。そう考えて、楽しみに待っていた。  ところが、六月になって新入社員が配属されてきた時、そこに玲の姿はなかった。 「辞めたと聞いた。ひと月も経たずに……」 「それは……」  言いかけて言葉をのみこんだ。  テーブルの横に立った拓馬が玲を見下ろし、「俺が理由を言ってもいいか」と静かに聞いた。玲は黙って頷いた。 「玲は、周防の支配人にセクハラされたんだよ」  冷蔵庫から出したアイスティを三つのグラスに注ぎ、拓馬がテーブルに並べる。 「研修でベッドメイクをしているところにそいつが来て、乱暴されかけた。玲には、昔からそういうことが多かった。だから、護身術めいたことも少しは身につけてる。玲はそいつの股間を蹴って、ついでに鼻の真ん中を殴って逃げた」

ともだちにシェアしよう!