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 周防が目を見開く。 「その時の暴力を理由に、玲は退職願を書かされた。支配人ていうのが、周防家の親戚筋らしくて、セクハラのほうは組織ぐるみでもみ消されたよ」  おまえの会社がしたことだと、暗に拓馬は周防を責める。グラスの表面を見つめながら周防が言った。 「原武夫(たけお)という男か……」 「確か、そんな名前だったな」 「母の、従姉妹だ」 「へえ……」  親のいない瑤子を引き取り、養女として育てた家の息子だという。 「母には、そういう親戚が腐るほどいる」  父親のわからない私生児だった瑤子は、七歳で母親と死別している。親戚を転々とし、最終的に武夫の両親の家に落ち着いた。  瑤子の美貌に目を付けた里親は、幼い頃からモデルとして瑤子を働かせていた。女優としてデビューさせ、これからという時に、突然結婚するという話になった。  早すぎると、初めは反対したが、相手が周防の御曹司だと知ると一転して態度を変えた。瑤子は十六で女優になり、十八の時に当時の周防家御曹司の妻となっている。身分違いの恋は財産目当てだと批判を受けた。  玉の輿、シンデレラと騒がれながら、周防の一族には無視され、一方では顔も知らない「親戚」が後から後から現れるようになった。 「魑魅魍魎に取りつかれたようなものだ」  周防は言った。周防家というのはそういう家だと囁くように付け加える。 「そのうちの一人が、『ホテル周防インターナショナル』の総支配人だった男、原武夫だ」 「支配人、だった(・・・)?」  拓馬が耳ざとく言葉尻を捉える。 「今日、辞表を書かせた」

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