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【27】-1
台風一過の秋晴れの中、玲は『SHINODA』の『ホテル周防インターナショナル』支店に出勤した。
この日も店は忙しかったが、一昨日とその前日に比べれば若干落ち着きを取り戻していた。休みなく来店があるが、正規の休憩時間が取れないというほどではない。
しかし、やはり立ち仕事はダイレクトに腰にくる。
夕方の休憩を長めに取るため昼休憩を十五分短くしたのだが、午後四時を回る頃には、油断すると大きなため息を吐いてしまいそうなほど、腰にキていた。
時計を見る。五時半だった。
あと少しで休める。しかし、玲は憂鬱だった。
朝、出勤前に会った時、六時から記者会見を開くと拓馬は言った。
『何の会見?』
玲の問いに『新作のプロモーション・イベントを兼ねて、会見の席でネックレスを返してもらう』と拓馬は言った。
周防立ち合いの元で。
すでに周防とは話が着いていて、会見には周防も参加するという。
いったいいつそんな話をしたのだと聞くと、拓馬はニッと笑った。
『昨夜。あれは事後だったんろうな。だいぶごゆっくりお楽しみだったのか、夜中の一時をまわっていた』
ご機嫌だったぞと、ニヤニヤ笑いを浮かべて人の顔を覗き込んでくる幼馴染みを、玲は殴りたくなった。顔が赤くなっていただろうが、もう構うものか。
場所は『ホテル周防インターナショナル』の中だという。貸会議室として使われるホールの一つで、収容人数は五十人弱。控室として小さな部屋が隣接している。
そこへ玲も来るようにと言われた。
周防が『サンドリヨンの微笑』を返すという場所に、夕方の休憩時間を調整して来いと言われたのだ。嫌な予感しかしない。
ドレスは着ないとはっきり言ったし、拓馬は「わかっている」と言った。拓馬を疑うわけではないが、百パーセントまっさらの純真な心で信じるには、玲も大人になりすぎた。
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