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【28】-2
玲は笑ったが「でも、男だからとか女だからとかは重要じゃない、そういうことで人生が決まるわけじゃないって思ってたでしょ?」と母はおだやかに言う。
玲は頷いた。それは単なる事実だと思っている。男か女かで、人生が決まるわけではない。
「そういう子だったから、十歳のあの時……」
ケアンズ滞在中、玲は周防に出会った。玲が周防に向けるまなざしや態度を母は近くで見ていた。
「玲は、いつもトモさんを目で追いかけてて、ちょっとでも手が空くと駆けていって、嬉しそうにいろんな話をしてた。邪魔になるからって連れて帰ろうとすると、すごく寂しそうな、切ない目をして……」
周防がかすかに笑う。
「この子は、トモさんに恋をしているんだなって、思いました。好きで、好きで仕方がないんだなって……」
男だから、女だからという概念が薄い玲ならば、そういうこともあるだろうと、同性だからどうこうとは考えずに恋もしても、それも自然な気持ちなのだろうと母は思ったという。
「二週間しかいられないのにって、ちょっと可愛そうに思ったくらいでした。だから……」
玲を助けて周防が怪我をした時、玲が受けたショックは相当大きなものだったのだろうと思った。亡くなったと聞かされたので、できればそのことを玲に伝えたくないと思った。いっそずっと思い出さないままでもいいのではないかと思ったと続けた。
「でも、ご無事で。玲も、ちゃんと思い出して、こんなふうに……」
口元をハンカチで押さえ、母はまた少し涙ぐんだ。
そして、周防に向かって頭を下げる。
「どうか、玲をお願いします」
財閥の御曹司でもなく、ホテルの経営トップでもなく、ただ一人の男として周防に頭を下げる。我が子が恋した相手を信じて。
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