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【29】-1
各階に十二室ある『周防レジデンス』は高級賃貸住宅である。
2LDKと1LDKで構成され、居住者は子どもがいないカップルと単身者がほとんどだ。ホテル仕様のカーペットを敷き詰めたコの字型の廊下に沿って十二の部屋が並んでいる。
一般的なマンションよりかなりゆったりとした造りで、各部屋の専有面積も大きい。
その最上階にあるオーナーズルームは、十二室と廊下を合わせた専有面積を有する。とても個人の住宅と思えない広さだが、同じクラスの賃貸マンションを複数所有する家の人間にとっては、広大なその部屋さえも別宅の一つにすぎないのだろう。
どうしても玲に会いたいという瑤子の希望で、周防の実家に挨拶に行くことになった。
迎えのクルマに乗って着いた先は、料亭『華よ志』でさえ霞むような荘厳な和風住宅で、どこか現実離れして見えた。
あまりに異世界すぎて、緊張することも忘れて玲はぽかんとしていた。
そんな玲を、周防の両親は温かく迎えてくれた。
日本庭園を望む和洋折衷の居間でにこやかに微笑む彼らと対面した時、玲は唐突に、自分はこの人たちに孫の顔を見せてやれないのだと考えた。
「トモ……」
周防のスーツの裾をぎゅっと掴んでうつむいた。
「どうした、玲?」
「本当に、俺でいいの?」
ダメだと言われても、もうどうすることもできない。諦めることなどできないのに、聞いていた。
「急に、なぜ、そんなことを聞くの?」
「だって、俺……」
さらにスーツを引っ張って周防の耳に唇をよせた。
「赤ちゃん、産めないよ? お父さんとお母さん、孫の顔が見たいんじゃない?」
一瞬、目を丸くした周防が、次の瞬間、ぷっと噴き出した。
眉をひそめる玲に「悪い」と謝る。
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