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【29】-10

 腕を伸ばして首に回すと「忘れていただろう」と笑われた。背中を抱かれて髪を撫でられる。 「ケアンズで応急処置をした後、動けるようになって帰国するまでに三週間くらいかかった。その間もその後も、うちのじじばばたちが大騒ぎして、なんとしても事件を隠したがって……。体裁が悪いとかなんとか言ってね」  玲や玲の家族に連絡を取れば、騒ぎになった時に迷惑が掛かると脅された。『周防ケアンズ』の上層部には、何か問い合わせを受けた際には、とにかくもういないと答えるようにと周囲の者が指示した。 「スタッフも含めて、僕は助からなかったと誤解したはずだ」 「うちの家族みたいに?」 「縁があれば、いつかは会えると思うことにしたんだよ」 「俺、面接の時にトモを見て、ちょっと何か思い出しかけたのかな」  母と姉の話を思い出して、考えた。 「その後も、トモに呼び出されたホテルの部屋で夢を見たりして……」  少しずつ、記憶の扉が開き始めた気がする。  そして最後に全部思い出した。 「よかった。思い出せて」 「ああ」 「あ。そうだ」  抱き合うようにもたれかかっていた周防の胸を離れて、玲は浴槽を出る体勢を整えた。 「家から持ってきた写真があるから、見る?」 「いいな」  二人同時に湯船を出る。  バスローブに身を包んで寝室に戻った。玲はクローゼットの箱の中からケーキ屋の紙袋を探しだし、ベッドの上に持ってきた。 「ずいぶんあるな」 「千枚ちょっとだって。こっちのケースが二百枚の五冊で、こっちが……」

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