171 / 191
【29】-10
腕を伸ばして首に回すと「忘れていただろう」と笑われた。背中を抱かれて髪を撫でられる。
「ケアンズで応急処置をした後、動けるようになって帰国するまでに三週間くらいかかった。その間もその後も、うちのじじばばたちが大騒ぎして、なんとしても事件を隠したがって……。体裁が悪いとかなんとか言ってね」
玲や玲の家族に連絡を取れば、騒ぎになった時に迷惑が掛かると脅された。『周防ケアンズ』の上層部には、何か問い合わせを受けた際には、とにかくもういないと答えるようにと周囲の者が指示した。
「スタッフも含めて、僕は助からなかったと誤解したはずだ」
「うちの家族みたいに?」
「縁があれば、いつかは会えると思うことにしたんだよ」
「俺、面接の時にトモを見て、ちょっと何か思い出しかけたのかな」
母と姉の話を思い出して、考えた。
「その後も、トモに呼び出されたホテルの部屋で夢を見たりして……」
少しずつ、記憶の扉が開き始めた気がする。
そして最後に全部思い出した。
「よかった。思い出せて」
「ああ」
「あ。そうだ」
抱き合うようにもたれかかっていた周防の胸を離れて、玲は浴槽を出る体勢を整えた。
「家から持ってきた写真があるから、見る?」
「いいな」
二人同時に湯船を出る。
バスローブに身を包んで寝室に戻った。玲はクローゼットの箱の中からケーキ屋の紙袋を探しだし、ベッドの上に持ってきた。
「ずいぶんあるな」
「千枚ちょっとだって。こっちのケースが二百枚の五冊で、こっちが……」
ともだちにシェアしよう!