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【29】-11
封筒を逆さまにすると、写真の束と一緒に青く光るものが零れ落ちた。
「あれ?」
白いシーツの上に落ちたものを見て、玲と周防は息を止めた。
「ユリシス……」
「誰かがマグネットを拾った話は、聞いていた。届いてたのか」
周防が立ち上がり、壁際のチェストの抽斗ひきだしに別の抽斗から持ってきた鍵を挿しこんだ。中から小さな箱を取り出して戻ってくる。
「もう一頭の蝶は、ここにある」
箱を開くと七宝に似たきらめきを放つ青い蝶が現れた。
「持っててくれたの?」
「ああ」
二頭の蝶のマグネットを使い、周防は写真を一枚、枕元のスチールメモスタンドに留めた。十歳の玲と明るい髪色の二十歳の周防が笑顔を見せている。
「玲……」
周防が玲を引き寄せ、キスをした。
チュッと可愛い音がする、挨拶のようなキスだ。
「玲、気づいてたか? いくら海外でも……」
おもむろに周防は言った。
「日本人同士で、ふつう、唇にキスはしない」
「あ。確かに、そうかも……」
互いの目を見て、ふっとおかしくなって笑いだす。
「とっくに、玲に手を出してた」
「トモ……」
今度は玲から小さなキスをした。
「大好き……」
あの頃と同じ気持ちで囁く。周防がキスを返し、何度か繰り返すうちにバスローブが乱れていった。
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