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王子様も眠れない(6)

 土曜日、玲が店に出勤してしまうと、周防はある男に連絡を入れた。男は素っ気なく『夕方からなら会える』という返事を寄越した。  周防が会いたいと言った時、多くの人間は一も二もなく飛んでくる。しかし、周防はそういう人間を求めているわけではなかった。その点でも彼は好ましい。 「夕方か……」  時間は追って。  おおむね、六時頃には身体が空くという。  ほかに話が出来そうな友人がいないわけではないが、万が一、玲の存在が外に漏れた場合、相手を疑わなければならなくなる。それは避けたいことだった。  信頼していた友人や親戚の何人かを母が遠ざけたのは、つい先日のことだ。そのことで大きなダメージを受けたのは、もちろん口の軽い連中のほうだったのだろうが、母自身も深く傷ついていた。  大切にしてきた友人を失うのは辛い。不要な種は蒔かないのが一番だ。  玲の存在を隠したいわけではないし、まして恥じているわけでもないが、公にするにはまだ時期が悪い。周防の花嫁探しの話題が完全に忘れ去られるまで、ある程度の期間、玲をパートナーに迎えたことを周防は隠しておくつもりだった。玲がこれまで通りの暮らしを続けるためには必要な措置だと考えている。  玲のために、今はまだ秘密にしておきたいのである。その点、彼なら安心だ。  周防の知らないところで、ずっと玲を守ってきた男。玲と同じ二十二歳だが、年齢を疑うほど肝の据わった男だ。  頭の回転も速い。玲と同じ付属高校に通い、私立の雄と言われる某有名大学にそのまま進んでいるが、調べさせた範囲では全国模試でもトップレベルの成績を残している。周防の母校である国立大学に進学することも可能だっただろう。  だからどうということではないのだが、篠田拓馬がどこにでもいるぼんぼんの二代目社長ではないことは確かである。  時間はおおよそで構わない。  自宅を訪ねてほしいと、周防は篠田に返信した。

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