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王子様も眠れない(8)
篠田が、何か得体のしれないものを見る顔で周防を見る。篠田のところと同様、実家関係から頼んでいるので信頼できる人間だと付け加えた。
奇妙な表情のまま、篠田は頷いた。そういうことではなかったようだ。
周防に続いて篠田もキッチンに入ってくる。
「てゆーか、ここがキッチンなのかよ? 広……」
中央に据えたテーブルの横に立ち、周囲を見回す。「ふつうこの広さはダイニングキッチンだろ」とぼそぼそ呟いている。
「それにしても、周防グループのトップが作るハンバーグかよ。すいぶん、豪華だな」
「母のレシピだ。あの人もよく料理をする」
「へえ……」
まあ、うちもたまにはするけど、と言って青年社長が笑う。
「でも、こう言っちゃなんだけど、ビミョーに味付けがイマイチなんだよな」
「失礼なことを言うな」
「ビミョーでも感謝はしてるさ。俺は、全然料理できないしな」
篠田にとって「おふくろの味」は玲の母が作る味噌汁だと言った。子どもの時によく玲の家に預けられていたらしい。兄弟のように育ったというのは本当なのだろう。
「玲は、少しならできるぜ。今度、何か作ってもらえば?」
ドキリと心臓が跳ねた。
「本当か?」
「ああ……。てゆーか、手元、大丈夫か」
慌てて塊肉に目をやる。右手の包丁を握り直した。大きめに切り分け、一つずつ荒めのみじん切りにしてゆく。最初からひき肉を買うのもいいが、玲のためだと思うと、手間暇をかけて作りたかった。
「それで、話って?」
篠田が聞いた。軽くも重くもない、ちょうどいい口調だ。聞き手としても篠田は素晴らしいと、いつか玲が言っていたことを思い出す。
「玲のことか?」
「ああ……」
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