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王子様も眠れない(9)

「何か、うまくいってないことがあるのか?」  まわりの人間のことかと、眉を寄せる。それは今のところ心配いらないと首を振った。 「どう言えばいいのか……」  手元に集中しながら、周防は言葉を探した。「しんどい……」という言葉が零れ落ちた。 「しんどい?」 「僕は、玲を大切にしたいんだ。それなのに……」  どういうことだと篠田が近づいてくる。「大切にしてないのか」と眉間に皺を寄せて聞いた。 「まさか、あんた、ヘンな趣味があるとか……」 「ヘンな趣味……?」 「(むち)とか、(ひも)とか、蝋燭(ろうそく)系」 「それはない」  本当かと疑う目を向けたまま、「だったら何だ」と篠田が聞く。 「玲が、あまりにも可愛すぎて……」 「はあ?」  しんどいのだと繰り返すと、篠田は急に「帰っていいか」と後退(あとずさ)りし始めた。 「そんな色ボケ話を聞かせるために、わざわざ呼びつけたのかよ。犬に食わせろってゆーか、犬も食わないってゆーか、そもそもケンカすらしてないか……。そんなラブラブ話を聞かされて、俺にどうしろって言うんだよ」  帰る、と背を向ける男に周防は追い縋った。 「待ってくれ。ちょっと話を聞いてくれるだけでいいんだ」 「断る」 「僕だって、ただやみくもに惚気(のろけ)ているわけじゃない。これには事情があるんだ」  篠田が足を止める。 「事情? どんな?」

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